第4話
眩しい光が瞼の奥に射した。
僕はうっすらと目を開ける。目の前には壮大な海と、その上で輝く太陽があった。立ち上がろうとして、肩に何かが触れているのに気がついた。
僕の隣には、三角座りをした彼女が膝に顔を埋めて眠っていた。
僕が隣にもたれると彼女はわずかに顔を上げた。眠そうに薄く、細めた目を開ける。
「眠れた?」僕は訊いた。
「……うん」彼女は嗄れた声で呟いた。「折角ベンチで見張ってたのにそのうち寝ちゃった」
そしてゆっくりと僕を見た。
「酷い顔だね。目が腫れて、頬も泥だらけだよ」そう言って折り曲げた人差し指で僕の右頬を擦った。
「帰ろっか」僕は天上に向かって伸びをした。
「ねえ」彼女は海に目を向けて言った。
「何?」
「明るいね」彼女は言った。
「そうだね、明るい」僕も言った。
「私たち、光にはどんな時でも照らしだされちゃうね」
海は依然として蒼色の波を操って、底の知れない深さを保っていた。そんなものを前にしたら僕らなんて、僕らの人生も問題にならないほど瑣末なものでしかなかった、嫌になるほどに。
それでも僕の隣には彼女がいた。由美は言う。
「……よく眠れた?」
「うん、ぐっすりと」僕は笑った。僕の声も掠れていた。
「それはよかった」彼女も微笑んだ。黒い髪が光に透けて茶色に見える。
「ねえ、ワッフルがあと二つあるんだ。食べない?」
どこまでも広い空の下に、僕がいて、どこまでも大きな海の前に、君がいた。二人がいた。それだけだった。
(了)
ゆらめきはうたかた 四流色夜空 @yorui_yozora
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