幕間 呼び声
呼び声
ここだ。
この階段をおりていけば、財宝の隠し場所へ行ける!
そう思い、龍郎は穴のなかへ足をふみだそうとした。
だが、その瞬間だ。
まるで龍郎の侵入をこばむかのように、塔の鐘が鳴り響いた。ガラン、ガラン、ガラン、ガランと、けたたましく
頭のなかをデカイこぶしで乱打されているような衝撃だった。めまいと頭痛に襲われ、龍郎は失神した。
*
なんだか、まぶしい。
それに肩口がスースーする。無意識に布団をひきよせようとするのだが、やわらかい感触をつかむことができない。
どこかで、かすかな音楽が聞こえる。あのメロディは、たしか、アイフォンの電話のコール音だ。ずいぶん、しつこく鳴っている。留守電に切りかわるようすがない。
(電話……出ないと……)
そこでやっと、龍郎は目をさました。電話の音はとたんに消えた。
朝になっている。早朝だ。窓の外が薄桃色に染まっている。夕暮れとはまた違う、やわらかな色彩。
しかし、そこはベッドのなかではなかった。なぜか、書斎の床の上によこたわっている。書斎の窓はカーテンが全開のままだ。だから、まぶしかったのだ。
「あれ……?」
なぜ書斎なんかで寝てるのか、龍郎はわけがわからず、つかのま、ぼんやりした。寝入る前、自分が何をしていたのか思いだせない。
「えーと、何してたんだっけ?」
立ちあがって、窓の外を見る。ちょうど中庭の噴水が見おろせた。とたんに記憶がよみがえる。
(そうだった! あの噴水のところで隠し階段を見つけたんだ。それで、ふみこもうとしたら、鐘が鳴って……)
どうして噴水にいたはずなのに、書斎で目覚めたのだろう。自分の寝室なら、まだ夢を見ていたのだとわかったのだが……。
いや、最後に書斎に入ったのは、いつだっただろうか?
昨夜、サラの尾行をしようとして、書斎で待ちかまえていた。途中で午前零時の鐘が鳴った。あのとき、ものすごい睡魔に襲われたことを覚えている。
(……まさか、じゃあ、持ちこたえたと思ってたけど、ほんとは、おれ、あのとき寝てしまってたのか? そのあとのことは、みんな夢か?)
そうだとすれば、いろいろと納得できる。書斎で目覚めたこの状況をかんがみれば、それがもっとも妥当な答えだ。
龍郎は嘆息した。どおりで、零時をすぎたら外に出るなと、くどく注意されたわりには、さほどのことは起きなかった。
しかし、そうは言っても、昨夜の出来事がすべて、ただの夢だったとは思えない。まるで現実のようにリアルだった。
塔のなかで見た少年。フードをかぶった男。それに、噴水の底に隠された階段。
気になる。もう一度、行って、たしかめてみたい。
スマホを見ると朝の五時すぎだ。日付は城に到着して二日めになっている。
昨晩は青蘭に殺されなかったから、時間が戻らなかったようだ。青蘭にというより、ほかの原因で死んだとしても、時間が逆行するのかもしれないが、わざわざ試す気にはならなかった。もし時が
とにかく、眠かった。固い床で寝てしまったせいか、疲労感が体を重くする。朝食まで休もうと、龍郎はドラゴンの間へ帰った。
ドラゴンの間の鍵はしまっている。なかからはツマミをひねれば開閉できるサムターン式だ。あけることは、なかからでもできる。が、鍵を持っているのは龍郎だけなので、まだ清美も穂村も室内にいるということだ。
部屋に入ると、倒れるように自分のベッドに入りこむ。まもなく眠りに落ちるのだが、そのあいだずっと、どこかで電話が鳴っていた。
(電話……さっきも……)
出なければと思うのだが、金縛りのように体が動かない。眠りのなかで睡魔に抗いながら、スマホを手にとる夢を見る。
すると、声が聞こえた。
「たつろ……もうわかってますよね? 早く……をさまして——」
プツンととぎれる。
だが、清美の声だった。
龍郎はとびおきた。
「清美さん?」
清美に何かあったのだろうかと心配になる。急いで、ベッドをおりて、リビングルームをよこぎった。清美の使う寝室の扉をたたく。しばらくすると、パジャマ姿の清美が出てきた。オタクっぽいメガネは外したままだ。
「なんですか? 龍郎さん。眠いじゃないですか」
「すいません。さっき、おれに電話かけてきませんでしたか?」
「ええ? なんで?」
「なんでって言われても、清美さんの声だと思ったんですが」
「かけませんよぉ。まだ寝ます。八時になったら起こしてください」
清美は寝ぼけまなこで、バタンとドアをしめた。とくに異常も見られない。
(なんだったんだ? さっきの電話)
また夢だったのかもしれない。現実味を帯びた夢のせいで、ほんとのことだと勘違いしたのだ。
それだけのことだ。
何も案ずることはない。
そう思うのに、むしょうに胸の奥がキリキリする。
不安がにわかに膨張していく。
なんだろうか。この感覚。
自分はとんでもない間違いを犯しているような……?
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