幕間 夢のいざない

夢のいざない3



 どこか遠くで悲鳴が聞こえる。

 あれはきっと自分の声だ。

 自分はいつのまにか死んでしまったのかもしれない。

 ふわふわして、このごろ意識が朦朧もうろうとする。


(頭が痛いよ。あれは誰? どこかで会った?)


 おれたちは恋人だったんだ。愛しあっていたんだと、は言った。


 青蘭。青蘭。愛しているよ。


 やめて。呼ばないで。

 あなたは僕を裏切ったんだ。僕と一つになる気なんてないくせに。もう忘れたいんだ。何もかも……。


 よろめくように部屋に帰ると、あの声が迎えてくれた。


 ——苦しいの? こっちへ来てごらん。私の手をとって。


 うん。今そこへ行くよ。


 ——つらいことを思いだしてしまったんだね?


 うん……。

 あの人は嫌い。

 声を聞くと胸が苦しくなる。

 僕を変な名前で呼ぶんだ。


 ——君の名前はエメリッヒだよ。そうだね?


 そう……だっけ?


 ——そうだよ。エメリッヒだ。君は幼いときから、この城で父に愛され、幸福に暮らしてきた。


 うん……。


 ——おや? 満足できない? では、もっと楽しい夢を見せてあげようね。次の満月には、きっと私たちは一つになれる。


 ほんと? 約束してくれる?


 ——ああ。約束だ。私たちは一つになる。だから、ツライことは忘れていいんだよ。


 そうだよね。何も考えたくないんだ。


 ——いい子だ。いい子……。


 そして、忘却のしじまが包みこむ。

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