8.Veer
「うわうわ、かな兄のスマホの中、どえっちじゃん! 最近の購入履歴、全部ワケありの女の子が家に押しかけてくるエロ漫画だし! あんな平気な顔しといて一人でこんな本読んでたの? どスケベ大統領だー! ホワイトハウスの意味が変わっちゃうよ!」
「……うるせえ」
アメリカに消されろ。
エンティ・フロウフォード。
【ミス・ノンフィクション】のメンバーの一人で、最年少の女の子――だと言われている。幼さ故の中性的な容姿と、意図的に性別を隠す演出のせいで実際のところは不明とされているが、『男の子でも可愛いから平気』『むしろ男の子のほうがよくないか?』など、ファンを変な趣味に走らせていた。
その実態は、SiriのようなAIアシスタントプログラム――コミュニケーションが可能な人工知能で、エンティ・プログラムの利用者同士の連絡ツールとしても使えるし、曖昧な情報の検索にも役立つ。反射した景色から僕の家を特定したのも、有名なバーチャルYoutuberの連絡先を調べたのも、エンティに頼ってのことだったらしい。
それだけで、人工知能としてもかなり高度すぎるし、【SHOWCASE】のバックについているという投資家や関連会社がどれほど強大なのか、想像したくもないが。
「本当にお前、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫って? ああ、みず姉なら十八歳だから、合法だから、大丈夫だよ!」
「そんなことは聞いてねえよ」
なんでこんなエロガキみたいな作りなんだよ、この人工知能。
問い掛けに対して微妙にズレた内容を返すというのは、ちょっとAIらしいし、AI相手だと考えると僕の質問の仕方も悪かったけれど……。
エンティは高校一年生という設定だった。性別は曖昧にされていたわけだけれど、仮に高一男子だとするとこんな感じか。……こんな感じだったかなあ?
「うん? ていうかあいつ十六歳だろ、たしか。高二だし」
「みず姉のはそういう設定っていうだけで、ママに拾われた時期から計算して、十八歳以上であることは間違いないよ。だから安心して襲っていいからね」
「襲わねえよ」
噛み合わないな、全然。
「……だから、お前って白縫さんの管理下にあるんだろ? 僕のプライバシーって本当に大丈夫なんだよな?」
「それはママが言ってた通りだよ。このぼくはスタンドアローンだから、ママやみず姉のところにいるぼくと直列じゃないからね。連絡は取れるけど、情報は共有されない。さすがにみず姉に、あんなえっちな本を読ませるわけにはいかないからね、十八歳とはいえ」
「マジで、余計なことしたらぶっ壊すからな」
「ははあ、八つ当たりだね」
まるで白縫さんのように笑いながら、エンティは言う。
「なんか、サービスでもするかのように提案されたから何となく受け入れちゃったけど、これってどう考えても、首輪をつけられたようなもんだよな……」
浜風がしてきたような分かりやすい脅迫とは違ったけれど、白縫さんがしてきたことも結局、大枠は同じだ。
「自分は一切後ろめたくならずに、かな兄の罪悪感を刺激するだけ刺激するなんてやり方、みず姉よりよっぽどたちが悪いよ」
「お前もそう思うか?」
――思うも何もないか。
話していると、相手が人工知能であることを忘れてしまう。自分の意見を持たない、持ちようがないそんな存在と話すことほど、無意義なことはないだろう。
僕のように……か?
「そうだね、だからそんなに落ち込まなくてもいいんだよ。あんなの、会社の経営が困難になったから、ストレス発散してただけじゃん。しかも犯人も見つからないから、八つ当たりをしてるだけじゃんね。ははあ、大人げないよまったく――かな兄は、何も悪くないのにね」
「……他人の口から聞くと、随分無責任に聞こえるな」
今までの僕はそんなことにも無自覚に生きていたのだけど。
他人に言われてしまうと――考えさせられる。
僕がしてきたことの意味を。
そんなまともな教育、父親から受けられるわけもないし。
はん、と。自嘲気味に笑い、スマホの電源を落とす。
そうすると、すんとエンティの反応は消え、世界に僕一人しかいない気分になった。
過去を振り返るのには、ちょうどいい。
――僕の父、鼠卜明は小説家だった。
ライトノベルというジャンルが確立する以前に、中高生向けのファンタジー小説を書き始めた、創世期のラノベ作家の一人である。その代表作が【シャーデンフロイデの断末魔】だ。
他人が不幸になる瞬間に幸せを感じるヒロインと、トラブルメーカー体質の主人公の異能力現代ファンタジーで、ゼロ年代にアニメ化もされているぐらいには、名のあるタイトルだ。
そんな父の作品を僕が読んだのが、小学校五年生の時。
その時までは活字を読むのも苦手で、朝の図書学習の時間にも教室でふざけて遊んでばかりいる子どもだった。だから夏休みに入り、読書感想文の宿題が出されても、課題図書すら買い忘れていて、本屋に行くのも億劫で、僕は――父親の書斎に手を伸ばした。
そして、物語に魅せられた。
アニメの主人公のように格好良く力強く、折れない心で戦う男の子と、一筋縄ではいかない、それなのに可愛らしい女の子の物語に、熱狂した。友達と遊ぶ約束をしていたのも忘れ、シリーズの第一冊目を読み耽った。何度も最初から読み直し、お気に入りのシーンを読み返した――その時は、小説に続きものがあるということすら、知らなかったから。
ここまでなら、小説家を父に持つ子どもの幼気なエピソードで済む。
だけど――僕が間違えてしまったのは、その後だった。
そんなに気に入ったなら、続きも読んでみたら? と。
そう言い出したのは、母だった。
父は、僕にも母にも、自分の小説を読ませようとはしない人だった。何故かというと、小説は読者に向けたもので、母や僕に向けたものではないからだという。家族には、家族のために書いた物語を読んでほしいと、そう言っていた。そして稀に、母のために書いたのであろう著作をプレゼントしていたりもしたが――。
だから本人的にも、自信のある作品と、そうではない作品――出版社の都合で書いた作品などが、あったのだと思う。だから全ての作品を読まれたくない。そして【シャーデンフロイデの断末魔】の続編は、後者だった。
母に促されて読んだ二巻目以降は一巻目のような熱いバトルものではなく、一転、ヒロインの数をやたらに増やした一見馬鹿馬鹿しい内容になっていて、それが僕には不快で、不満で、仕方がなかった。
きっとそれは、ライトノベルが中高生男子向けに特化していく過程での業界的な試行錯誤の流れで、編集者の意向が多分に織り交ぜられたものだったのだろうけれど。
とにかく。
その物語の続きに不満を覚えた僕は、【シャーデンフロイデの断末魔】の続編を、自分で書き始めた。自分が納得できる続きを、自分の手で描こうとした。その年の読書感想文は、だから結局提出しなかったのだけれど――その物語が教師の目に止まり、母の目に止まり――父の目に、届いてしまった。
その時、僕の父は筆を折った。
自分が苦しみながら生み出した物語よりも、小学五年生が好き勝手に書いた物語のほうが魅力的に思えてしまい、父は【シャーデンフロイデの断末魔】の続編を書けなくなってしまった。
当時の僕に文才があったとか、作家の父から遺伝した才能が開花したとか、そういう話ではなかったと思う。小説を読んだことがない僕が書いた文章は、今とは比べるべくもないほど拙く、未熟だった。ただ父は、新たな文学ジャンルが確立されていく中でやや迷走してしまっていた時期だったという、タイミングの悪さもあったに違いない。
……いや、それは言い訳か。
あれは、僕の無責任な文章が生み出した、最悪の結果だった。
僕の文章が、一人の小説家を殺した。一つの物語を終わらせてしまった。
【シャーデンフロイデの断末魔】はあの瞬間、永久に打ち切りになってしまった――。
そしてそこからが僕の家庭が本当に狂っていく過程で、筆を折り、シリーズを失い、職を失いかけた父はあろうことか僕が書いた作品を編集部に送った。多少の推敲はもちろんしたのだろうけれど、それがそのままifルートの新作として発売されることになった。
それがゴーストライター鼠若名の始まりだ。
父と子の関係が、依頼人と請負人の関係になり、父が僕に過度に干渉することはなくなった。そもそも父は教育に熱心だったというわけでもないが。それでも、何やら楽しげに不思議な仕事をしていた、僕の誇りであった父は、後ろめたさを抱える依頼人に成り下がった。
そんな関係で保護者づらして教育をできるほど、父の胆力も強くなく、放任され続けた結果出来上がったのが、今の僕だ。
ゴーストライターとして自らに課していることが、自分の責任で文章を書かないこと。
僕が好き勝手に書いたたった一つの物語は、一人の作家の命を奪っている。
だから他人の意志に従い、他人に成り代わり、なりすまし、僕自身として何かの意志やテーマを決して発信しないように心がけて生きてきた。
もし唯一、父に責を問うとしたら、こんな形であれ、物書きという人生に縛られ続けていることぐらいだ。蛙の子は蛙。僕は文筆業から逃れられなかった。
そして責任からも。
責任逃れも、いつまでも続けてはいられないのかもしれない。
「ほはえりー」
と。
浜風が気の抜けた声で僕を出迎える。
gelato piqueの部屋着を着てくつろぎ具合が増していた。
そんな格好で、椅子の上であぐらを掻いて、キーボードを叩いていた。クラウドファンディングの協力者向けに、2Dモデル制作過程のブログ記事を公開すると言っていたから、この間の買い物のことを書いているのかもしれない。
やっていることは今まで通りなのに、服装が変わっただけでどきりとしてしまう。制服だった時は非現実的すぎて――バーチャル的すぎて、直截的に響くことはなかったのだけれど。
これも心境の変化か?
自分を騙すことの限界が来たか。
まさか実年齢を知ったからではないとは思うが。
「お前って、ちゃんとした格好だと普通に可愛いよな」
「気持ち悪っ、何? ジェラピケの企業案件?」
「来るわけねえだろ」
むしろネガキャン扱いされそうだ。
思ったことを素直に伝えてみても、何も変わらない――。
僕の悩みがその程度のものだと確認する、自分で自分を慰めるだけの発言だった。
ただ、これは本当に聞きたいことを聞く前の前置きである。相変わらずの悪癖だ。
「お前さ――炎上事件の発端の書き込みって、読んだのか?」
【SHOWCASE】の本社からの帰宅中に、思いついたことだった。
異能力ファンタジーである【シャーデンフロイデの断末魔】を思い出したからというわけではないが、浜風の異能力――読解力を用いれば、掲示板の書き込みから犯人を特定することができるのではないだろうか。
思いついてみれば、何度かその発想には辿り着きかけていた気がするし、そんなことは真っ先に聞くべきだったと思うのだけれど。文章から人間の心理を読み解くことができるという設定が、やや共感しづらかった。
お前が異能力ファンタジーの登場人物だったら扱いに困るだろうな。
「もちろん読んだけど、残念ながら、犯人とかは知らないわよ」
「そうなのか?」
てっきり浜風は知ったうえで、知らんぷりをしていたのかと思っていた。
もしくは浜風自身が犯人か。
探偵モノでは、重要なシーンを目撃した証人が、最後の最後までそのことに気づかないというパターンがある。浜風の場合は、犯人に興味がなさすぎて、分かっていてもあえて言い出していないという可能性もあったのだけれど――知らないか。
「文章を読めば、ある程度の為人を見抜けるのかと思ってたんだけど」
「それはそうね。その通り」
「だったらどうして」
「私が文章から心理を読み解けるのは、その文章に、嘘や心理を見抜かれるかもしれないという意識が欠けているからだって話はしたわよね?」
「ああ」
「だからあの掲示板の書き込みは、ちゃんと対策がしてあったってことよ」
浜風は言う。
「具体的には、翻訳サイトで複数回、他の言語に変換されてたっぽいわね」
「――ああ」
言われてみればたしかに、あの書き込みはやや文章に乱れがあった。
ゴーストライターとして僕はあれを、筆致から特定されないようにするために意図的に散らかった文を書いているのかと思っていたのだけれど、なるほど、言語翻訳時の乱れか。
「いやでも、それなら逆に、犯人は浜風のことを警戒している人物ってことにならないか? お前のその読心術を知ってるのって――」
「たぶんだけど、社員全員知ってたわよ」
「……そうか」
だとすると、犯人を特定するのは無理か。
「何? くるみに何か言われたの?」
「ああ、お前なら何か気づいているんじゃないかってさ」
「だとしたら残念ね。私は何も知らないわ」
「何でそんな得意げなんだよ……」
自分の能力の不足を嘆いたりしないのだろうか、こいつは。
それで責任を感じろというのがおかしな話か。僕のケースとは違う。
「くるみとそんなつまんない話してたの?」
「まあな。……あと、お前がVtuberを続ける気だって言ったら、嬉しそうにしてたよ」
余計なお世話かもしれないが、実際に会ってみた白縫さんはまるで浜風の保護者のように、あるいは友人のように、浜風のことを気に掛けていたので、そのことを伝えてみる。
「へえ? 随分と余裕があるのね」
しかし浜風はやはり、特に何を思うでもなく答えた。
「バーチャルYoutuberの私と競ることになったら、負け確なのに」
「僕は共倒れなんじゃないかなって思うけど」
浜風自身――魂のファンと、仮想の存在である浜風みずちのファンは、相いれない。分散し、対立し、破滅する未来は想像に難くない。
「はん。元々そこは織り込み済みだったでしょ。全面戦争なんだから。相手が死に体なのか、ゾンビなのかの違いでしかないわ」
「ゾンビはゾンビで覇権も取れそうだけどな、Vtuberなら」
だけどたしかに、浜風の自信にも根拠はある。
Vtuberの視聴者層ならば、魂と肉体が分離した時、魂につきそうだという前提。そして浜風みずちの需要が、浜風自身のトーク力――本人曰く、都合がよく聞き心地がよい言葉だけを並べたおしゃべりにある以上、かなり分のいい勝負ではある。
――仮に。
仮に僕が浜風みずちのゴーストとして完全に喋る内容を再現できたとしても、やはり浜風の長所はリアルタイムで視聴者とやりとりできる生配信でこそ活きるもので、真っ当に戦えば【SHOWCASE】に勝算はないと思う。
浜風からすると順当に行けば圧勝、悪くて共倒れ――勝ちか引き分けかしかない勝負だ。
「……白縫さんが、そんな素直に負け戦を挑んでくるか?」
泥船であることは本人も認めていたし、そもそもプロジェクトを続けることも彼女の意志ではないのだろうけれど、それでも、無策で挑んでくるとは思えない。
そう心配していた僕を見て、浜風はにたりといやらしく笑う。
「ははーん、あんた、くるみに虐められてきたんだ」
「いや、虐めてもらってはいないけど」
「何でちょっと受け入れ態勢なのよ」
「だけどやっぱり、あの人がただ無策で不利な勝負を仕掛けるとは思えないんだよな」
「やっぱり虐められてるんじゃないの」
浜風は言う。
「くるみなんて、掴みどころがなさそうに振る舞ってるだけで、大したことないんだから。会社を作る前なんて、もっとだらしなかったし。パンツ一枚でその辺歩いてたし」
「お前に言われるぐらいなら相当なんだろうけど」
生活のだらしなさは、あの人の悪影響なわけだ。
「だけど、会社を作る前ねえ――」
順序的には、白縫さんが投資家やらスポンサーやらからプロジェクトを委任され、それから演者をスカウトし、目途が立ってから会社を設立――という感じか?
いや、その裏の【プロジェクト・エンティティ】の存在を考えると、浜風や羽野は、もっと早い段階で白縫さんの庇護下にいた可能性が高いか。
「変わらないのはまにまぐらいかしら。活動の時だけ、けっこうな変わり様だけど」
「羽野は、元々何してたんだ? お前みたいに施設から引き取られたのか?」
「さあ?」
「さあ……って」
「聞かされてないもの、あの子の素性なんて。聞かないように言われていたから。私のこともあんまり聞いてないだろうし。私が知ってるのは、あの子のキャラ設定だけよ」
「……それも、炎上を避けるためか」
今となっては絵に描いた餅――ですらないが。
浜風と羽野の、親しげでありながらお互いに一線を引いた距離感は、そういった部分で培われているのかもしれない。
浜風だけに限らず、ネット上の交友関係――ハンドルネームでのやりとりなんて、大概そんなものと言えばそんなものだけれど。
「じゃあ、僕が警戒しすぎなのかもしれないな」
そもそもどうして僕がここまで浜風のことを心配しているんだろうか。僕は脅されて手伝っているだけなのに。白縫さんに言われ、浜風を炎上させたことに責任を感じているのかもしれない。
いや、責任自体は元々感じていたのか――だから浜風にここまで協力的になっていたのかもしれない。だとしても、そんなものは免罪符でもなく、マッチポンプでしかないが。
「そうね。だからそんなことより、メールの対応でもしなさいよ。そろそろ2Dモデル制作依頼の返信も来てる頃じゃないの?」
「たしかにな、ちょっと待ってろ」
そう言ってメールボックスを開いて――僕は唖然とした。
「……悪い浜風、僕が迂闊だった」
「何よ」
「依頼が全部キャンセルされてる」
「はあ?」
怪訝そうに言う浜風に、受信していたメールを見せる。
2Dモデルの制作を依頼する場合、キャラクターの容姿を担当するイラストレーターと、演者の動きに合わせてキャラクターが動くようにするモデラーの二種の技術者に連絡を取る必要がある。イラストレーターがモデラーを兼任することもあるが、今回、僕は第一候補のイラストレーターとモデラーに依頼を出し、そしてその二人に断られた場合のために第二候補のイラストレーターとモデラーに見積もり願いを出していたのだけれど――その全てが、拒否されていた。
「何よこれ、どういうつもりなの? この人たち」
「……僕たちの考えが甘かったんだよ。そうだ、何で気づかなかったんだ。【ミス・ノンフィクション】の浜風みずちが活動を再開したら、その演者を名乗る匿名人物からの依頼なんて、ふざけた悪戯にしか見えないはずだ」
僕は言う。
「仮に僕のゴーストが完璧で、本物だと伝わったとしても――本物だと伝われば伝わるほど、運営会社との揉め事に巻き込まれたくないクリエイターは、依頼を引き受けない……だから他の人に依頼を回したところで無駄だろうな」
相手を選ばず、金に糸目をつけなければその限りではないだろうが、そんな条件で引き受けてくれるような依頼先は、大抵の場合、何らかのトラブルを抱えることになるだろうし。
「そこまでくるみの狙い通りだったってわけ?」
「そうとまでは言わないけどな」
ただ、白縫さんが負け戦を挑むつもりがなかったとすると、最悪、僕から聞いた話を元に依頼先を割り出し、仕事を引き受けないよう圧力を掛けている可能性もある。メールの受信時間は、ちょうど僕が【SHOWCASE】の本社から帰ってくるまでの時間に集中しているし。
「はん。要は私に転生されると負けるから、転生をできないように阻止したわけね」
良い手を打つじゃない、と浜風は舌打ちながらも、白縫さんを称える。
しかしこうなると本当に身動きが取れない。それどころか。
「クラウドファンディングのほうも、失敗扱いにしないとかもな……」
クラウドファンディングで集まった三十万円は、浜風がVtuberとしてデビューすることを見越して支払ってもらったものだ。その前提条件である2Dモデルの依頼が発注困難であるなら、返金処理をしなければならないだろう。
「そういえばそうだったわね。せっかく支援してくれた人には申し訳ないけど」
と、浜風は自分の心配よりも、まず支援者への配慮のほうを優先した物言いをする。
「……お前のそういうところ、良いところだと思うよ」
「あんた本当にどうしたの? 今日」
調子狂うわね、と言いながら、浜風は速やかに支援者への告知の準備に入る。
真っ先に支援者への対応に入る姿勢は、Vtuberとしてという以前に人として立派で、心底、浜風の長所だとは思うけども――浜風は、理解しているのだろうか。
自分がVtuberとして転生することが、ほぼ不可能になったことを。
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