第48話 永久就職


 授業を終えて自宅に戻ると、僕は一直線にベッドへ倒れた。

 一晩ソファで寝ていたはずなのに、まるでずっと起きていたかのような疲れだった。


 もしかしたら、あの夢が関係しているのかもしれない。

 僕は何もない空間を当てもなく歩き続けていたから。

 まるで精神と肉体の両方が摩耗しているかのようだった。


「ちょっと待って。今日は何もしないの? せっかくみんなの好感度が上がったんだから、下がる前に次のステップへ行くべきよ」


 ユキが僕の睡眠を邪魔してくる。

 そうはいっても、今日は皆疲れてるから幽霊部の活動はない。僕も疲れてるから、今は泥のように眠りたい。


 何とか平穏を得ようとした僕は、あることに気づいた。


「――お試し期間」

「私はドモホルンリンクルじゃないわ」

「そうじゃなくて。ユキは確か、お試しで僕に取り憑いてるんだよね。もうお試しは終わりにして、取り憑くのはやめてくれないかな」


 そうだ、いっそのことももかに取り憑けばいいんじゃないか。

 どうせやることは一緒なんだし、ももかは幽霊が見えて喜ぶし、一石二鳥だ。


「だめよ。だってもう一週間も取り憑いてるのよ。魂の結びつきが強くなりすぎちゃってるから、離れたくても無理よ」


 ……なんだって?


「ほら、普段ずーっとゲームやってる人がテスト週間だけゲームしないなんて無理でしょ。習慣ってそういうものなのよ。一度慣れちゃうと、もう戻るのは難しいわ」

「え……じゃあ契約時に言ってたお試し期間は?」

「契約書がないから無効ね。お試しなんてなかったのよ」


 そんな馬鹿なと思ったが、契約書がないなら立証も難しい。

 僕は今後、絶対に口約束はしないと決めた。


「寝ないでよー。恋しようよ若者―。平衡思念とかいう変な奴との戦いは終わったんでしょ? それともまだ終わってないの?」

「いや、それはもう終わったけど」

「ならいいじゃない。ももかちゃんは今、不安がってるのよ。レイくんが自分を助けてくれたのはただ親切なだけで、自分を好きなわけじゃないのかもって」


 そんなわけないだろ。

 ちょっと部活動を手伝ったくらいで、恋愛対象になるものか。

 けど、僕はもうツッコむ気力がなくなっていた。


「ま、レイくんの気持ちもわかるわ。告白の仕方がわからないのね。大丈夫よ、とっておきの台詞を思いついたから」


 そう言ったユキは、スローモーションのような動きで手を上げ、僕の肩に重ねた。

 窓から太陽の光が差し込み、淡い光の粒が彼女を彩る。

 そして、幽霊少女の言葉が一つ。


「私……あなたに永久就職します!」



  ~~完~~

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