第35話 願いと雨乞い
そこから流れてきたのは、複数の女の子の声だった。
楽しそうに談笑していたと思いきや、時々渡辺さんの悲痛な声が混じるようになった。何かと何かが激しくぶつかる音や、心無い言葉が増えていった。
「これ、いつのことですか?」
「渡辺さんが相談に来た日の放課後だ。彼女の持ってるキーホルダーに似せた盗聴器を鞄につけて、様子見してたんだ。いきなりこんなのが録れるとは思わなかったがね」
放課後か。のぞきが見つからなくて、どうしようかと部室で作戦会議をしてた時だ。
「渡辺さんを犠牲にするようなことはしたくなかったが、今後解決に向かう際、証拠が大事になるんだ。世の中には論理を理解できない人が大勢いるからな。実際に目の前で見たものしか信じないんだ。だから、最もリアリティのある証拠が必要だったんだ」
「そうですか……で、この証拠をどうするんですか?」
「もちろん脅しに使う。警察に提出すると言えば、学校側も動くだろう。もちろん匿名
でね」
千聖さんはスマホを手に外へ向かう。
「渡辺さんに了承をとらなくていいんですか」
「もうとったじゃないか。解決して欲しくなければ、わざわざ相談になんか来ないよ」
千聖さんの手際の良さを目の当たりにし、僕は拍子抜けしてしまう。うまくスタートを切ったのに、他走者のフライングでやり直しになったような、やるせない感じだ。
けど、このまま引き下がるのも癪なので、もう一度スタートラインに立った。
「なにか、僕にも協力できることはないですか」
「じゃ、お祈りをしてくれ」
「いやそういうインチキじゃなくて、ちゃんとした役割を」
そういうと千聖さんは、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「祈りは大事だぞ。いくら上手くやれても、祈りがなければ失敗するもんさ。誰か一人でも私の未来を祈ってくれるなら、少しは心強いからな」
「そうなんですかね。千聖さんなら何をやっても上手くいきそうな気がしますけど」
「まさか。いつも綱渡りだ。だから祈りが必要なんだ。わかりづらいなら、私の行動を肯定して欲しいと言い換えようか。玲がももかにやったのと同じさ」
……僕がももかにしたこと?
「何かしましたっけ?」
「幽霊部を悪く思ってる連中がいて落ち込んでいただろう。その時に玲が『他の部活だって変だから大丈夫』と言ったそうだな。ももかは大層喜んでいたぞ」
「はぁ……」
そんなこと言ったかなぁ。無意識だったから全く記憶にない。
「そういうわけで、よろしく頼むぞ」
千聖さんがひらひらと手を振り、部室を出ていく。祈るというのは、実際的にどういう行為なのだろう。
雨が降るまで続ける雨乞いみたいなものだろうか。だとすると、祈りと成功は関係なさそうだけど。
けど、千聖さんが上手くいくところを想像するのは楽しいし、別に祈るくらいならいいかもしれない。
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