第34話 権利に配慮したモノローグ
で……これはどういうことなんだろう?
部室を開けた僕の目に入ったのは、千聖さんと見知らぬ女子生徒が、ソファに座りながらゲームをしながら談笑している姿だった。
カラフルなグミみたいなやつを、4つくっつけて消すゲームだ。ちょっとタイトルはド忘れしてしまったけど、まあ仲良くやるにはうってつけのゲームだろう。
ユキはゲームに興奮したのか、ダッシュで近づいて叫んだ。
「あーっ、ぷ○ぷ○やってる! いいなー私もやりたい!」
さっきのシリアスな雰囲気はどこに行ったんだと思うほど、子供じみた様子ではしゃぐ。そんなユキを見て、なんだかどっと気が抜けてしまう。
あと、堂々と商標を叫ぶな。僕が権利に配慮してモノローグを喋ってるのがわからないのか?
千聖さんたちは、僕に軽く会釈をしたあと、再びゲームへと没入していった。
ほんと、よくばれないよなぁと、今更ながら感心する。もし先生がきたらどうするんだろう?
まあ、ユキもなんだかんだでバレてないし、みんなそこまで他人に興味ないのかもな。
「渡辺さんは男子に人気あるんだな」
「そうですねー。まあ、見てくれは悪くないし、か弱いお姫様みたいに思われてるんじゃないですか?」
「キミもなかなか魅力的だぞ。私の目はかなり正確なんだ」
「えっ、何言ってんですかー。私なんて全然ですよ」
僕とユキに関係なく、二人は連鎖を打ち合いながら、事件と関係ありそうな会話をしている。おそらく、この女子生徒は渡辺さんのクラスメイトだ。千聖さんに呼ばれて、事件のことを聞かれているのだ。
千聖さんが聞くと結構な手がかりが出てきている。愛樹とももかが聞いたときは手がかりなしだったのに。
クラスの誰にも聞かれない環境、学校でゲームをやるという秘密を共有している感覚が、女子生徒の口の滑りをよくしているのだろう。全く、この人には恐れ入る。
「やったー、私の勝ちですね」
「上手いな。私も結構やりこんでて、自信あったんだが」
「いえいえ、部長さんも中々でしたよ」
聞き込みが終わったらしく、サラリーマンの社交辞令みたいな会話をし、女子生徒は僕のとなりを爽やかな会釈ですり抜け、帰っていった。
彼女の、真相の脇腹をくすぐるような証言を頭の中で反芻していると、千聖さんがゲームを片付けながら言った。
「どうしたんだ、玲。キミは事件には興味ないのかと思っていたぞ。ちなみに、渡辺さんを助けても付き合ってくれるとは限らないよ」
「なんで僕はそんなイメージなんですか。ただ単に、興味ないって思うことに飽きたんですよ」
そう言うと、少し照れくさいというか、むず痒いという感じがした。もしかしたら千聖さんに笑われるかもしれない、そんな恥ずかしさだ。
けど千聖さんは、少し意外そうな顔をした後、いつもの企み顔をする。
「興味深い心理だな。どういうきっかけでそういう気持ちになるんだい?」
「別に、なんとなくですよ。ラーメン屋で餃子に興味なくても、何度も通ってると餃子も食べたくなるでしょ。そんな感じです」
投げやりに回答すると、千聖さんはぷっと吹き出した。うぐ……やっぱり笑われた。けど、そんなに嫌な感じはしなかった。
「ふぅん、なるほど。そんな性癖があるとは知らなかったな。
けど、今回のは餃子よりも胃にもたれる事件だぞ。キミは他にも厄介な問題を抱え込んでいるのだろう? さらに重荷を背負う覚悟はあるのか?」
僕が抱えている問題……ユキに関する問題だ。
ユキは果たして守護霊なのか憑依霊なのか。もし憑依霊だとしたら『死んでいること』を理解させて消さなければいけない。けど……それはつまり、ユキに死んだときのことを思い出させるということだ。
満足して死んだ人間なんているはずがないのに。
けど、守護霊だと信じることもできない。ユキにとり憑かれてから、僕の生活は良くも悪くも変わってしまった。
変な部活に巻き込まれたり、今まで避けてきた恋愛を強制させられたり。楽しくもあり、しんどくもあった。
果たしてこれは、僕が望んでいることなのだろうか。
ユキが本当に守護霊なら、こんな風に悩まなくても済んでいるんじゃないのか。
「それでもいいなら、こいつを押してくれ。キミの意志を知りたい」
千聖さんは真剣な目をして、僕の目の前にスマホを突きつける。面くらいながら見た画面には再生ボタンが鎮座している。
このボタンが何をもたらすのか、僕には想像がつかない。でも、千聖さんの雰囲気からは事件のただならなさを感じ取れた。
僕の意志とはつまり、選択だ。とるかとらないかを選べるような状況において、一方を選ぶ行為のことだ。
人の内面のどこを調べても、意志はとりだせない。意志は選択行為そのものだ。そして、行為そのものが逆説的に意志になるのだ。
そう考えると、僕はユキとの生活を望んでいたのかもしれない。ユキにひどいことをして、取り憑く気をなくさせることだってできたのに、それをしなかったのだから。
意を決して隣を見る。ユキも同じ目をして、手をボタンのすぐ側まで伸ばしていた。僕はボタンを押した。
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