第25話 守護霊と憑依霊の違いとは?
「そもそも守護霊って何ですか?」
ユキの説明を聞いたけど、正直そのまま信じるにはうさんくさい。
図書室の本で守護霊について調べたけど、守護霊の条件についてはわからなかった。
「守護霊というのは、人間を正しい方向へ導く霊のことだな。主には先祖がなると言われている」
「あいつ……僕の先祖なんですか?」
とてもそうは見えないけど。あんな先祖がきちんと後世のために財をなせるとは思えない。あるとしたら、子孫だけ作ってほったらかしとか。
「外見が幼い上、現代にあっさり馴染むとなると、先祖の可能性はないな。となると……逆かもしれない」
「逆……って、何ですか?」
思いがけない展開に、僕は体を乗り出す。
千聖さんは、ゆっくりと、いつも通りの断定調で言った。
「憑依霊だ」
「ひょういれい……ですか」
なんだろう……。良くわからないけど、不気味な響きのする名前だな。
「憑依霊とは、人間を悪い方向へ導くものだ」
悪い霊……。確かにその可能性はあるな。今までやってきたことは、善意であれ良いこととは思えない。
「守護霊か憑依霊かを見分けるには、憑依者を見れば良い。憑依者に徳がないと、憑依霊がたくさん憑くのだよ。例えば……」
千聖さんが指で髪を梳かしながら逡巡する。
ふと閃く。そうか、『徳』と『髪をとく』をかけているのか。世界一どうでもいい発見をしてしまった。
「授業中に教科書を読むふりをしながら、前に座っている女の子のブラ紐をチラチラと見たことはないか?」
「してません!!」
「他には、男子トイレで用を足している時、壁に耳を当てて女子トイレの様子を探ったり……」
「僕、そんな風に見えます?!」
「保健室のベッドで寝ているフリをして、女の子が生理の相談にくるのを待っていたり……」
「何ですかそれっ! むしろ千聖さんがやってるんじゃないですか?!」
「なっ!?」
僕を見透かすような眼は相変わらずだが、髪を梳くペースが少し乱れている。本当にやってるのか……。
「女の子を真夜中の学校に連れ込んでいやらしいことをしたとか……」
「う……」
彼女は、形勢逆転と言わんばかりの笑みを浮かべる。昨日のももかが頭に浮かんでしまい、反撃の言葉が出て来ない。
「まぁ、それはさておき、機嫌直しにお菓子でもどうだ?」
千聖さんは立てかけてあったマジックハンドをつかい戸棚をあけ、ポテトリップスを取り出した。
唇の形をしたスナック菓子で、どことなくいやらしい感じのするお菓子だ。
千聖さんはポテリの袋を開けて一つ口に運び、十分に味わってから話し始めた。
「人間は死んだ後、自分の死を認識できない場合、憑依霊になる。
ひょっとしたら、宙を飛べなかったりするのも、完全に死を認識していないのかもしれない。彼女自身は、まだ現世を生きているつもりなのだろう。
死を認識できない理由は、『現世への心残り』『突然死』などあるが、一番の理由は『死とは何かわかっていない』場合だな」
「どういうことですか? わかってなくても人は死ぬはずじゃ……」
「ほう。君が言う『死ぬ』とは、どういうことを言うんだ?」
「……体や脳が動かなくなることですか?」
「ふむ、では君の精神はどうだろう? 死んだら、体や脳のように動かなくなるのだろうか」
「そりゃそうですよ。精神って脳のことですよね?」
「では、君は脳によって、脳が動かなくなった状態を考えられるかな?」
脳が動かなくなった状態を考える……? うーん、考えてもなぁ……。動かないものを考えるって、かなり難しいぞ。
……というか、今何の話してるんだっけ? ユキが守護霊かどうかじゃなかったか?
「考えられないと思います。だって、寝ている状態……つまり寝ているときの頭の中身は考えられないですから」
「では、夢や幽体離脱はどうだ?」
うーん……夢も見てるときや幽体離脱のときは頭を動かしてるわけじゃないから、どうなってるかはわからないよな。
……いや、明晰夢がある。自分でコントロールできる夢。幽体離脱は……あれも自分の頭が動いてるんだから、想像は出来るような……つまり……
「夢の中や幽体離脱をしてるときも、見たり聞いたりしてる状態を想像できるから、考えられます」
「ふむ。見たり聞いたりできることが重要だというわけか。もし、見たり聞いたりできることが生きていることなら、お前についてる霊はどうなるんだ? どこかに見たり聞いたりできる肉体が存在しているのか?」
「えと……幽体離脱、ですか?」
「わからん。だが幽体離脱なら、長く体から離れると戻れないなるぞ」
「幽体離脱を戻す方法はないんですか?」
「本人が『戻りたい』と思わない限りは無理だな」
言うわけないよな。僕にやたらべったりとしてくる奴だし。
「まぁ幽体離脱も憑依霊も原理は同じだ。幽霊に『自分は死んでいる』ということを分からせれば、存在を消せるのさ」
「……どうすれば分かってもらえるんですか?」
「私の考えが正解とは限らないぞ。自分で考えろ。自分の頭を使って考え抜けば、何かしら見えてくる」
「難しそうですね」
「ま、いざという時は私が除霊しよう。以前、ももかに頼まれてやったことがある」
「え?! 本当ですか?!」
だとしたらすぐにやってもらいたい。
「ああ。部屋に悪霊がいるから追い払ってくれと言われてな。そしたら、あんまりにも除霊の音が大きかったらしく、私が部屋から追い払われた」
「……やり方が違ったんですか?」
「さて、次は守護霊である可能性だが……」
千聖さん、僕の話聞いてます??
「その人の持つ信条と同調する霊が守護霊になる場合もある。守護霊というのは自分自身の一部という説もあるくらいだ」
「僕とあいつ……どこも似てないと思うんですが」
むしろ正反対の行動をとってる。
「いや、正反対というのは実は似ているんだよ。互いを理想化し合っているうちに、考えが似てくることが多いんだ」
僕がユキを理想化……? 僕は今までのことを思い出す。
迷惑な点が多いとはいえ、ユキの性格には少し憧れを抱いているかもしれない。
ユキみたいに振る舞えば、もっと上手く生きられるかもしれない。
僕はだんだん、ユキへの思いを強くするとともに、自分の惨めさと向き合うことになる。
「思い当たるフシがあったか?」
「い……いえ!」
突然聞かれたので、思わず後ずさる。自分の思考回路が良くない方向へ動いているのがわかった。
僕が自分の行為を反省していると、千聖さんは笑って、こんな言葉をかけてきた。
「もしかしたら、守護霊もそう思ってるかもしれないぞ」
ユキが……? うーん、ユキが悩んでいる様子なんて全く浮かばないけど。
まあでも、境遇が違うとはいえ、同じ歳の女の子なんだし、僕と似たような悩みを持っているかもしれない。
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