第24話 バスが酢爆発

「お前、何か隠しているだろう?」


 開口一番、千聖さんにいきなり核心を突かれた。やはりユキのことに感づいているのだろうか。


「何も隠してないですよ」

「何か言いづらそうにしてたからな。ちなみに、バスガス爆発は『バスが酢爆発』と言うと言いやすいぞ」


 えっ……そうなのか? バスが酢爆発、バスが酢爆発……ホントだ言いやすい!

 てことは、骨粗鬆症もいいやすくできるのかも。コツソ少々、コツソ少々……すごく簡単だ。


「言いづらいなんてその程度の問題だ。ただ単に、言いやすくする方法を知らないだけなんだ」

「ほんとですね。こんなに言いやすくなるなんて驚きです」


 ……ってそんな下らないことをやってる場合じゃないのだ。

 千聖さんは明らかに、ユキのことを聞いている。言うべきだろうか。まぁ特に秘密にしろとは言われてないし、いいのかもしれない。当のユキはももか達に付いていっていないし。


「お前の隠していることは察しがついている。今日のお前は所々不自然だったからな。どんなとき不自然になるか考えてみたが、『君たち』や『二人』のようにお前を含む複数の人間を表す言葉が出たときだった。さらに『幽霊』という言葉を聞いたときにはいつも同じ方向を向いていた。そこから考えられる可能性はそう多くはない」


 聞きながら背筋が寒くなった。どうしてこの人は全部わかってるんだ。しかもあの短時間で。この人の前では隠し事は無理なのかもしれないな、仕方ない。


「じ、実は……幽霊に取り憑かれてるんです」

「やはりな」


 千聖さんが微動だにせず答える。

 信用してないのか、それとも何か企みがあるのか……。張り詰めた空気がヒシヒシと体に当たる。

 僕は告白ついでにこれまでの経緯を伝えると、千聖さんは急に不思議な物でも見るかのような目つきに変わった。そして、思考のスイッチを入れ替えるかのように何度かまばたきをした。


「素晴らしいな。衣食住で困らない上、どんなイタズラをしてもバレないわけか。人類の理想じゃないか。私も死にたくなってきたぞ」

「止めて下さい。殆どの幽霊は人間のために修行してるそうですよ。千聖さん修行したいんですか」

「嫌だめんどくさい」


 即答された。


「なら止めておきましょう。人間のままの方が楽ですよ」

「冗談はさておき、お前はその守護霊をどうしたいんだ?」

「どう……と言われても」


 プライベートがなくなって迷惑……と言いたいけど、もしユキがいなかったら僕は一人ぼっちだ。そんな生活に耐えられるのだろうか。

 今までもそうしてきたはずなのに、なぜか今の僕はユキとの別れを惜しんでいた。


「それが言えないなら、手助けのしようがない」

「……そう、ですよね」


 僕は自分自身の不幸を呪っていたが、それは間違いだった。

 全ては、僕の意志にかかっていたんだ。他人任せにしても、解決なんてしないんだ。

 今ここで、どうするのか決めないと永遠にこのままだ。


「ただ……」


 横顔をこちらへ向けて、宝石のような瞳で僕を見つめる。夕日を浴びた彼女は、暗闇の中で輝く松明のように揺らめいていた。

 いつもと違って、どこか寂しそうな……でも綺麗だった。


「ただ、こうして話を聞くぐらいならできる」


 そんな千聖さんに操られるかのように、僕はためらいをすっかりなくしてしまった。


「で、その守護霊は女の子なのか? 年は12才くらいか? やっぱり女の子は成長間際が一番可愛いよな。玲もそう思うだろ?」

「――って、ちょっと待っ」


 多分大丈夫、……多分。

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