第23話 幽霊だけに

「ところで、この部は一体どんな活動をしてるんですか?」


 疑問に思っていたことを聞くと、千聖さんに怪訝そうな顔をされてしまう。


「ん? ももかから聞いてないのか?」

「まぁ、詳しいことまでは……」


 幽霊部員ばかりだったから幽霊部になったことぐらいしか聞いてない。そもそもこの設定も、正しいのかどうかも怪しいところだ。

 千聖さんは、一つ咳払いをした。


「我が部は、囲碁と将棋の全国大会優勝を目指し、研鑽を積むのが目的だ」

「「「え?」」」


 僕だけじゃなく、愛樹とももかも一緒になって驚く。神様、ぼくのまわりには嘘つきしかいないんですか……?


「ももかには『幽霊を探す部』って聞いてたんですけど……」

「幽霊を探す部?」

「昔は囲碁将棋部だったけど、幽霊部員ばかりの部になったから、幽霊部に変えたらしいのですが」

「……なんだそれは?」


 千聖さんが、頭の中身を心配するような目付きになる。

 えっ? 僕がおかしいのか?


 かなり理不尽な気がするけど、ももかの言うことを鵜呑みにした僕にも責任があるのかもしれない。あの子、ときどき変だし……。


「ふふ……なるほどな」


 暫く考えたのち、何かに納得したのか、急に口を綻ばせた。


「囲碁将棋ではなく、幽霊の話を聞いて来たのか」

「は……はぁ」


 千聖さんは、僕を置いてけぼりにして話を進める。


「一応、入部動機をきいておこうか。幽霊に興味があるのか、幽霊に乗じて女の子の体を触ることに興味があるのか、どっちだ?」

「幽霊です!」


 即答する。どうして僕を変態にするんだ。


「なら入部は許可しない」

「何でですか?! まっとうな理由だと思いますけど」

「性格の不一致だ」

「離婚理由?! っていうか、千聖さん女の子に興味あるんですか?」


 疲れる。どっと疲れる。ユキを相手にするときより疲れる。

 ユキは自分に都合のいいように話を持っていくだけだが、この人はどの方向に持って行きたいのか全く読めない。


「私は認めないわ! 変態は一人でたくさんよ!」


 愛樹がさらっと問題発言をする。


「よし、全会一致だな。入部を認める」


 パチパチパチ……と、まばらな拍手が鳴った。どこが一致だ。


「え、ちょ、ちょっと! 私、賛成してないんだけど」

「変態が一人欲しいと言っていたじゃないか」

「あれはアンタのことよ!!」

「……そんなに、私が欲しいのか?」


 千聖さんが頬を赤らめる。


「いるかっ! そうじゃなくて……ああもうややこしい!」


 愛樹が頭を抱えて揺らす。これで愛樹の敗北は決定した。入部承認。さり気なく僕が変態にされてるけど、まぁ徐々に誤解をとけばいいだろう。


「では、改めて部の説明をしよう。我が幽霊部はこの学校に出没する霊を調査することが目的だ。我々は生徒から不思議な事件に関する相談を受けて、原因を特定し、霊を成仏させたり除霊したりする」

「相談しに来るんですか? この部って結構知られてるんですか?」

「もちろんだ。我が部には特徴的な人間がいるからな」


 千聖さんの視線が僕の後ろへ向けられる。つられて振り返ると、吊目になった愛樹がいた。


「なんで私を見てるのよ」

「この部の広告塔じゃないか」

「千聖の方がよっぽど目立つと思うけど」

「そんなことはないぞ。玲、今度アイツと一緒に歩いてみろ。生徒の群れがモーセの伝説のように開けていくぞ」

「将軍様か私は!」


 ふと見上げると、時計が6時を回ってるのが見えた。

 夏の太陽は部室内に白い光を差しつづけていたが、帰る時間は季節に関係なく同じだった。


「今日の部活はここまでだな。ささ、子供は帰った帰った」


 千聖さんがよく通る声で、終わりを告げる。


「ふーんだ! これからももかとアイス食べに行くもんね! 大人はいつまでもそこでカッコつけてれば?!」


「ほら、行くよ」とももかに声をかけて、早々に立ち去って行く。ももかはこちら側にぎこちない笑顔を向けた後、愛樹の後を追っていった。

 ……僕も帰ろうかな。


「では、僕も子供なので、帰ってプ○キュアでも見ます。今日は百合回なのでとても楽しみです」

「待て」


 重い声で呼び止められる。


「……もう少しだけ、そばにいてほしい」


 振り向きざま、科を作った声を当てられる。背中をぞわっとする何かが駆け抜けた。千聖さんはぼんやりとした目で目線を泳がせて、袖に隠れた手をもじもじさせている。

 落ち着け僕。これは演技だ。僕をワナにはめようとしているに違いない。


「これから夕例会を始めるぞ。幽霊だけに」


 労せずに落ち着くことに成功した。

 ダジャレも時には役立つなぁ、と感心しつつも、参加を断れない状況に辟易する。


「……少しだけですよ?」


 ため息をつきながら、近くの椅子に腰を下ろす。

 僕だけを残して、この人は一体何をするつもりなんだろう?

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