守護霊についての考察

 図書室で女の子とぶつかった後、僕は黒魔術以外にも参考になる本がないか探していた。いくつか参考になりそうな本が見つかり、僕は目次や前書きなどを斜め読みして守護霊に対する大体のイメージを掴むことができた。


 ちなみに、黒魔術の本は文章が難しすぎて読んでない。一体誰が読めるんだろう。


 まず、守護霊について直接的に調べると「掃除や感謝をすると守護霊の働きが強くなる」みたいな自己啓発本に行き当たってしまう。

 きちんと調べるには、霊や宗教そのものを考える必要がある。


 霊は自然発生的に生まれたのではない。「人が死んだらどうなるのか」という問いに答えるために作られた。

 ちょうど、2次方程式を解くために虚数が生まれたようなものだ。霊自体はもともと存在しておらず、人間の思考によって作られた。


「人が死んだらどうなるのか」という問いの答えは、人がどう生きるのかという問題に直結する。

 例えば、死んだら全てなくなると考えれば、現世で自分勝手に生きようとする。死後は現世での徳に応じて扱いが変わると思えば、真面目に生きようとする。死後をどう考えるかで人間という生物の定義が決まってしまうわけだ。


 では、守護霊はなぜ生まれたのか。


 守護霊は「スピリチュアル」というジャンルの宗教に登場している。死後の世界への考察は様々な宗教が行っているが、守護霊が登場するのはスピリチュアルだけだ。

 スピリチュアルは、イエス=キリストを中心とする霊が行っている「地球人類救済プロジェクト」で、キリスト教の唱える死後の世界に納得できない派閥が新たに作り出したものだ。


 霊は徳を積んでいるため、人間に対してより良く生きるためのアドバイスをしてくれる。霊の声を聞いて生きれば、人類は救われるらしい。

 霊みたいな胡散臭いモノの言うことを信じて大丈夫なのか気になるが、彼らはきちんと修行をしているから信頼できるらしい。


 スピリチュアルの世界では、肉体はあくまで霊の乗り物だ。死とは霊体と肉体を結んでいる糸が切れることであり、肉体が死んでも霊は生き続ける。

 全ての霊は霊的な成長を遂げることを目指していて、輪廻転生を繰り返しつつ霊界から見て喜ばしい行動をとれるように成長していく。

 成長するには様々な方法があり、例えば家畜に憑依して食べられることで命の大切さを学ぶなどがある。


 霊界とは、幽霊本来の住処だ。幽霊はここで暮らしているが、特性によって外界へ降りてくる。

 霊界へ行くためには物質欲を捨て去らなければならない。物質欲を捨てた霊には精神性しか残されておらず、精神性は霊的成長を促す。

「霊は、成長したいという原動力によって地上へ降りてくる」のだ。


 霊の中でも守護霊は、人間に憑いて人間がより良く生きられるようにメッセージを送る。送り先は潜在意識なので、人間が直接的に感知することはできないが、潜在意識は無意識の行動を変化させる。その結果、良い運命に巡り合うことができる。


 一方で、守護霊のフリをして人間に悪さをする霊もある(僕が一番興味のあるところだ)。

 しかし、詳しい見分け方は書かれていなかった。人間が正しい行動をとれば変な霊はよって来なくなると言うが、正しい行動というのは結局、教義に従うことのようだ。教義は大変にややこしく、いちいち守るのは不可能に見えた。


 宗教は大抵そうだ。勝手に不幸を作り出し、作り物の不幸を信じて不安になった人に、作り物の幸福を信じさせる。

 スピリチュアルは悪い守護霊を勝手に作って不安にさせ、良い守護霊を信じさせるのだ。


 結局、肝心なことは何一つわからず、無駄知識が増えただけのようだった。

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