第12話 女の子の裸は好き? もちろん!

 はた迷惑な恋愛成就作戦は、水面下で進行していた。

 ユキは放課後になると、僕が図書室でぶつかった女の子のクラス、人間関係、テストの点などをあっさり特定し、僕に偵察隊よろしく報告してきた。


「レイくんの初恋の相手は、楠ももかちゃんよ。クラスは2-3、出席番号は6番で、性別は女性よ」


 女性なのは当たり前だろ。僕を男と付き合わせる気か?


「星座は水瓶座。血液型はAB型。この組み合わせは友達関係の発展で恋愛する人が多いわ。好きな男性のタイプは一緒にいると落ち着ける人で、犬より猫が好きだってー」


 淀みない口調に、僕は止めるタイミングを失ってしまう。女の子の赤裸々なアレコレを、聞きたくないけど聞きたい。そんな戸惑いの中で、ユキを止めるのは難しい。


「――でね、スリーサイズは」

「ちょ、ちょっと待った!!」


 自分でもびっくりするくらい反射的に言うと、ユキは不満そうに頬をふくらませた。


「どうしてよ? せっかく更衣室に忍び込んであげたのに!」

「何やってるんだよ。そんな変質者みたいな」

「いいのよ。レイくんだって、女子更衣室は好きでしょ。女子更衣室が嫌いな男子なんていないはずよ。さっきだって、私がももかちゃんのプライベートに迫るに連れて瞳孔が膨らんでいったし……」

「なんでちょっとイヤラシイ言い方なんだよ」

「と・に・か・く・ね! 今の反応を見ても、レイくんがももかちゃんに興味津々なのはわかったわ。なら次にすべきは、ももかちゃんをデートにお・も・て・な・し!」


 はぁ――思わず出た溜息が、僕の気持ちを代弁した。サメは泳ぎ続けないと死ぬけど、ユキもお節介を焼き続けないと死んでしまうのかな?

 ……あ、もう死んでた。


「全く。なんで好きでもない子をデートに誘わなきゃならないんだよ。迷惑千万だ」


 こちとら、頼んでもいない幽霊にお節介焼かれるだけでもしんどいのに。


「じゃあ、質問を変えるわ。レイくんは女の子の裸は好き?」


 予想外の方向から質問が来て、答えに窮する。まあ裸自体は結構好きだ。

 特に積極的に見たいわけじゃないけど、見る機会があるならばできる限り見ておきたいという、雨上がりのささやかな希望のような好きだけどね。


「てことは、ももかちゃんの裸も好きなの?」


 ももかの裸……その言葉を聞いて、僕の脳内に良からぬイメージが反射的に浮かんでしまう。

 図書室で倒れていた時に偶然見えた、彼女の内腿の少し深い部分。想像していると、もっと奥へ進みたい衝動に駆られてしまう。


 ……っていけないいけない。このままではユキのペースに巻き込まれてしまう。ユキにとっての恋愛には千鈞の重みがあっても、僕には風で飛ぶ程度のものだ。

 僕は意識を反らすため、録画したアニメをどの順番で消化するか考えた。


 やっぱり一番目はストーリー物だよな。続きが気になるし。その次にギャグアニメだな。脳みそを空っぽにすることで、ストーリー物の展開予想のアイデアが閃くかもしれない。そこから百合を見て……。


「そんなに考えこむなんて、やっぱりももかちゃんのことが好きなのね。早速作戦に移らないと……ちょっと妄想が長すぎる気もするけど」


 終わったら夕飯を食べて、それから宿題をちょっとやって(僕はなんて真面目なんだろう)――あれ? ふと目を上げると、ユキがいつの間にか消えていた。教室には僕以外誰もいない。考えてる間に随分時間が経ったようだ。


 ユキがいないということは、またあの子の秘密を探っているのだろう。アレは止めようがないので、僕は守護霊について考えてみる。少しはユキへの対処に役立つかもしれない。

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