第16話この世界の常識

「この大会は、何も称号や肩書きを持っていない、何も実績を持っていない人限定で出れる大会だ」


「ほう……。確かに儂は無名であるが……」


 なぜ此奴は儂にこんな大会に出させようとしているのだ? 儂が相当の実力者だとわかるのか? 色々と疑問に思うところはあるが、とりあえず触れないでおく。


「まあそういうことだからさ、あんたには優勝してもらいたいわけ」


「まあそれは構わんが……」


「なんだい? 何か言いたそうだけど」


「いや大したことじゃないのだが、結局そこの女は要らないないか?」


「あぁ……。返答次第では必要になったんだけどさ、結局いらなかったね」


「ちょっと、私を物みたいな言い方しないでくださいよ」


 赤毛の女は子供を抱きながら、頬を赤くし怒っている。


「あはは。ごめんごめん」


 それに対して魔女は楽しそうに返す。このやり取りだけでもこの二人が相当親密な関係であることはわかる。

 頬笑ましい限りだ。


「じゃあそういうことだから、私は帰るよ」


 魔女はすくっと立ち上がると、帰りの支度を始める。


「じゃあリリ。また近いうち会いに来るから」


「うん。また今度」


「それからそこの男。ちょっときて」


 女と別れを済ませた魔女は、玄関から儂のことを呼ぶ。


「なんだ?」


「いいからちょっと外きて。結構大事な話だから」


 そう言われて儂は魔女の後をついていく。あやつらに聞かれたらまずい話でもあるのだろうか? 思い当たる節は……まああるな。

 ちょいちょいと指でついてくるように指示する魔女の後をついていくと、先ほどの昼間通った路地裏に連れていかれる。


「あんたさ、転生者だろ? 魔族側の」


 いきなりのことに、冷や汗が出る。どうする? このまま殺すか? もう正体がバレたならここにいられない。

 そんなことを考えていると、魔女は黒い瞳で儂を見つめてくる。


「落ち着きな。別に誰かに喋る気は無いよ」


「何を根拠に?」


「んー? 私がここであんたの正体を知っていることを話したことが、強いて言えば根拠かな」


「まあ確かに」


 儂は魔女の言葉に納得する。


「それで? 何が目的だ?」


「お、話が早くて助かるよ。早速だけどあんたに頼みがある。ある組織を潰してほしい」


 ある組織を潰す? 面倒な。


「断る……といったら?」


「あんたの正体を人間側の転生者にバラす」


「ならその前にお主の首を取る」


 ギロリと儂らはお互いを睨みつける。


「それはオススメしない。あんたは今この世界のことを何にも知らない。全てが無知だ。あんたの尺度で常識を考えてると、痛いめに合う。

 他者に情報を伝える術は、この世界ではいくらでもある。もちろん、今この瞬間にもね……」


 此奴……儂を脅すか。


「ふ……ふふ……フハハハ! 面白い。何十年もの歳月を生きてきたが、儂を脅してきた人間は初めてだ。いいだろう小娘。お主の頼みとやらを聞いてやろう」


「ほ……本当かい!?」


 魔女とやらは嬉しそうにする。此奴、未来が見えるのではないのか? この結果もこの魔女の想定通りじゃないのか? 

 まあよいか。


「じゃあ詳細は闘技大会が終わったら話すよ。それじゃあ! 」


 それから魔女は、「テレポート」と唱え、ヒュッと一瞬でその場から姿を消した。あやつのいっておったこと、ハッタリではなかったのか。

 儂の尺度で常識を考えるな……か。確かに、この世界のこと、儂はまだ何も知らなすぎる。

 なので一刻も早く、賢者とやらに会わなければ。

 道先は決まってない。ただ、その目的地は一つだけ。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界聖戦 ラリックマ @nabemu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ