第15話魔女
「ようやく寝たか……」
なぜ儂が子供の子守など……と思っていたが、いざやってみると存外悪くはない。
まあ子守といっても、近くにあった小さな玉を投げ、それを子供が拾うということを繰り返していただけだがな。
感覚的には犬と遊んでいる気分だったわ。まあよい。これで儂も睡眠を取れる。
隣でくーすか寝ている女の子供から少し距離をとった場所で、儂は深く眠りに落ちる……。
「お父さんはどうして
「何を言っておる。儂にはスルバがおるじゃ無いか」
「あ、確かに。じゃあ二人だ」
「うむ。お主が自立するまで、儂が愛情込めて育ててやる。約束だ」
「うん! 約束!」
……はっ!? 今何時だ? とてもなつかしい夢を見ていた気がする。でもあまり思い出したく無い内容だったような……。
まあよいか。それよりも今は……。
儂は現在の時刻を確認するために、キョロキョロと時計が無いか探す。だがそんなものはなさそうだ。
このオンボロの家にそんなものがあるのかわからない。そもそもこの世界に時計なんてものがあるのかもわからない。
そんなことを考えていると、二つの人影があることに気がついた。
一つは赤髪の儂が先ほど子守をしてやった子供。そしてその子供を膝に乗せている、青の三角帽子を被り黒のローブを身にまとった、いかにも魔女っぽい女がいた。
儂とその女は3秒ほど目を合わせると、
「お前さんがリリの恩人かい?」
儂に向かって話しかけてきた。
「ああそうだ。お主に頼みがあってな。とある人物の場所を探して欲しいのだが……」
「あぁ、その話はちょっと待っておくれ。それはリリが帰ってきてから」
魔女はスッと手でストップの形を作りそれを儂の方へ向けてくる。リリというのは先ほどのみすぼらしくて厚着をした女か。
「何故あやつを待つ必要がある? 関係ないだろ」
「いーや関係ある。もう少ししたら帰ってくるから少しぐらい辛抱しろ」
「……まあよい」
あの女が帰ってくるまで
それから数刻の時間が経ち、女が帰ってきた。
「ただいま帰りましたよ」
その女の声が玄関からすると、魔女と戯れていた子供は即座に玄関に向かった。
「ほらほらいい子にしてましたか〜」
女は子供を抱きしめると、頬にキスをした。
「それじゃあそこの魔女。この女も帰ってきたことだし、早速占ってもらうぞ」
儂は魔女に占うよう催促する。
「よしじゃあ金を出せ。話はそれからだ」
「な……お主、儂から金品を要求するのか?」
「そりゃそうでしょ。本当は何年も予約するところを、親友の恩人だっていうから今夜にしてやったんだ。それだけでも感謝して欲しいものだ」
「わかった。ならそこの女にツケといてくれ」
「えええええ! む、無理ですよぉ」
女は泣きそうな顔で青ざめる。
「今のは冗談だ。しかし金か」
今の儂は無一文だ。そこで泣きべそかきそうになっている貧乏女よりも金がない。
一体どうすれば……。儂は占い師の魔女をチラッと一瞥する。
ここまできたら力ずくでも……」
「力ずくで……なんて考えているならやめときな。あんただって大ごとにはしたくないだろ?」
「……っ」
自分の考えが読まれ、一瞬動揺する。もしかして此奴は人の考えが読めるのか?
儂の世界にいた
だとしたら此奴と一緒にいるのは危険すぎる。儂が魔族側の転生者だってことがバレれば、一瞬で人間側の転生者に殺される。
よくよく考えてみれば今の儂は袋の鼠じゃないか? バレないと高を括っていたが、魔術なんて代物のあるこの世界なら簡単に儂の正体が露わになってもおかしくない。
だがこの魔女が儂を不審がっている様子はない。ということは大丈夫だろう。
最悪バレても儂の足なら逃げ切ることができるだろう。
ふぅと勝手に自己解決をし、安堵する。
「あの……勝手に安心しきった顔してるけど、お金どーすんの?」
「ああ、そう言えばそうだったな」
一瞬で金のことなど忘れていたわ。他のことに集中するともう一方のことが疎かになるのは儂の悪癖だな。
「儂は今無一文なのだが、どうすればよい」
もう直球で聞くことにする。この魔女なら何かいい金策を知っているのではないか。儂にそう聞かれた魔女は、ふふっと笑みを浮かべると。
「あるよ。ちょうどいいやつがね」
そう言ってきた。本当にあるのか。というかあるなら自分でやればいいのではないかと思ったが、とりあえず話を聞くことにする。
「ほう……。それで、そのいいやつとはなんだ?」
「それはね……これだよ」
魔女は。ガサゴソと自分の肩にかかっているショルダーバックのようなものの中から紙切れを取り出す。
儂はその紙に書かれている文字を読む。
「無名闘技大会?」
尻に疑問符が残るような喋り方をする。
「そう。あんたにはこれに出てもらって、賞金をゲットしてきて欲しいってわけ」
そう言った魔女は、嬉々として喋り始めた。
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