第105話 作戦会議

・イザホのメモ

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 リズさんとこれからのことをまとめ終えると、ワタシとマウ、そしてバフォメットは塔の10階から5階へと降りた。




 バフォメットに案内された部屋は、まず大きめなダイニングテーブルが目に入る。

 周りは赤いじゅうたんにヨロイの装飾、奥に見えるホワイトボード……


「なんだか、アニメに出てくる作戦会議室みたいだね」


 マウはそうつぶやきながら、奥に存在する1番大きいイスに飛び乗ろうとした。


「……」「あっ」


 ……が、イスに座る前に、バフォメットにキャッチされた。


「ここ、誰か偉い人が座るの?」

「……ココ……ワガ娘ガ……座ル……」


 不機嫌そうに頬を膨らませていたので、ワタシはバフォメットからマウを受け取って、一緒に奥の席に腰掛けた。

 他のイスとの等間隔はちょっと離れているし……それに、膝に座らせたら同じ席に座れるもんね。




 しばらく待っていると、入り口の扉が開いた。

 クライさん……それにシープルさんとホウリさんだ。さっき、リズさんがここに来るように指示したんだっけ。


「イザホちゃん……マウちゃん……どうだった……?」

「うん。ちゃんと……元締めと話ができたよ」


 ワタシから見て左の席に座ったクライさんに対して、ワタシの膝に座るマウは一瞬だけ言葉を飲み込んだけど、ちゃんと答えられた。

 それに対して、クライさんの反対側に座ったシープルさんは不機嫌そうにヒゲを震わす。


「ずいぶん軽い感覚で答えてくれるじゃないか」

「うん。だって元締めとは、友達だもん」


 マウの言っていることは、間違っていない。


「……元締めの正体を知って、友達? まるでご令嬢だな」


 あきれるようにため息をつくシープルさん。その隣に座っていたホウリさんは、静かに手をあげる。


「それで……我々はどうすればいいでしょうか?」


 マウは1度、バフォメットとワタシに顔を向けた。

 バフォメットとともにワタシがうなずくと、マウは安心したようにうなずいて、ホウリさんたちの方に顔を戻す。




「元締めが提案した、ウアさんの居場所を特定する方法は……ズバリ、おとりだよ」











 ウアさんの狙いは……ふたりいる。


 ひとりは、ワタシだ。

 初めて喫茶店セイラムの前でウアさんのインパーソナルと出会った時……あの時、ウアさんはリズさんを狙うつもりだった。だけど、ワタシを見たウアさんは、その狙いをワタシへと向けた。

 ウアさんの目的は、作品を作る事……

 10年前の事件をきっかけに作られた、人格が宿った死体という名の作り物フランケンシュタインの怪物であるワタシは……きっとウアさんの作品にとって、重要な要素になるんだ……


 もうひとりは、スイホさんだ。

 ウアさんの指示に従い、ウアさんに心酔していたテツヤさん、探るためにあえて潜り込んだフジマルさんとともに……仮面の人間として、暗躍し続けた。

 他の仮面の人間……テツヤさんとフジマルさんは、インパーソナルにされてしまった。そのタイミングは……どちらも、ワタシとマウが仮面の人間であることを知った後。

 スイホさんは今、ウアさんに加担した存在として、サバトの黒魔術団によって捕らえられている。つまり、次の狙いがスイホさんである可能性が高い。


 どちらかを狙って、ウアさんは刺客を送るだろう。

 きっと……インパーソナルとなってしまった、フジマルさんを使って……




「それを利用して、逆にウアさんの居場所を特定するために……イザホはおとりを引き受ける……それが、元締めの出した答えだよ」




 ワタシがおとりとなって、このサバトを歩く。

 そうすることで、インパーソナルがこちらに近づいてくるはずだ。


 もちろん、ただで元の死体に戻るつもりはない。

 人混みに紛れて、マウやクライさん、黒魔術団たちにワタシを尾行してもらう。インパーソナルが襲いかかってきた時に姿を表わすことで、想定外の状況を作らせる。

 インパーソナルは1度立て直すために、裏側の世界に戻るはず。その跡を尾行する。おとりとしてうろつく場所を鳥羽差市ではなくサバトにしたのも、どこに逃げても黒魔術団が対応できるようにするためだ。











「……スイホという女をおとりに使わない理由はなんだ?」




 シープルさんの質問に対して、マウはうなずく。


「ボクもそれを提案したけど……元締めいわく、途中で想定外の動きをされる恐れがある。助かりたい……という意味ではなく……もうどうにでもなれ……そんな自暴自棄な意味でね」


 スイホさんは、過去の罪を恋人のナルサさんに知られないためにウアさんの指示に従ってきた。

 そんなナルサさんを失い、落ち込んでいるスイホさんを自由にさせてしまうとどんな行動に出るかわからない。ハナさんのように自ら命を絶つことも……誰かに責任転換をして、殺人を犯す可能性も考えられるらしい。




「他に、反対意見はある?」


 クライさんは素直に首を振った。

 だけどホウリさんは……どこか不安そうな顔をしていた。


「……イザホさん、本当に気をつけてください……なにがあっても……生き急がないでください」


 生き急がない……?


「フジマルさんが殺されてしまった日……その日の彼は、元気に振る舞っているようで、どこか急いでいるようすでした」


 きっと……ワタシとマウが最後に生きているフジマルさんと会話をした後のことだ。

 あの時のフジマルさん……言われてみればたしかに、犠牲者が増えているこの状況を受けて焦っているみたいだった。本当は休みべきなのに、再びサバトに戻って……そのまま生きては帰ってこなかったから……


「スイホさんがこのサバトで育った証拠を探すために養護施設に訪れた際、フジマルさんは物音が聞こえるとすぐに飛び込んでしまいました。フジマルさんを探して中を探索していると、連れていたマネキンが壊される音が聞こえて……」


 続いて、シープルさんも腕を組んだまま説明をつなぐ。


「……ホウリは不意打ちで攻撃を食らい、相手の姿を見ないまま1度俺と離ればなれにならざるを得なかった。その後、俺はインパーソナルとなったフジマルと遭遇し、知能の紋章を削られてしまった。マネキンたちがやられたのも、黒魔術団であるフジマルを敵と認識できず、攻撃できなかったのだろう」




 ワタシがおとりになることはリスクがある。

 そのことを理解して、なお決行しようとするのは、フジマルさんと同じように生き急ぐことに……なるのかな……




「……心配かける間も……ないと思うよ」




 クライさんは、ホウリさんに顔を向けた。

 その口は安心させるような笑みを浮かべているものの……目は真剣だ。




「1度失敗した方法を……もう一度使う時……同じような結果になる恐れがあると知っている……だから……2度も同じ結末マンネリな終わり方にはさせない……そのための対策アレンジはすでに練っている……そうだよね?」




 クライさんに顔を向けられたマウは、自信満々にうなずく。




 それとともに……ワタシの横で立っていたバフォメットが、黒いローブを脱ぎ始めた。











 現われたのは……黒いプラスチックの球体関節。


 腰には、古代ローマを思わせる白い布が、


 胸には保護用の包帯が巻かれている。








 そして、その羊の頭……の形をした仮面を、ゆっくりと抜き取った。




 腰まで届く、羊毛のようにボリュームのある白髪。


 そして、その顔は……




 マネキンのように、当たり障りのない顔だった。


 眼球代わりの目の紋章が埋め込まれた義眼が、青く輝いている。




 その左胸に輝くのは……人格の紋章と動作の紋章、




 そして、ゆがんだ形の脳が描かれた……知能の紋章だった。




「身体能力の高いこのバフォメットが、ボクたちの代わりにイザホの側にいてくれる。周りから見れば、単なるマネキンと祭りを楽しんでいるだけに見えるはずだよ」




 マウの言葉に対して、シープルさんはまぶたを閉じて静かに笑った。




「俺たちには、親子デートを楽しむふたりとしか見えないけどな」




 反射的にバフォメットを見ると、


 なぜか照れているように、顔を手で覆っていた。








次回 第106話

8月11日(木) 公開予定

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