第104話 代々続く元締めたち

・イザホのメモ

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 ワタシとマウは、バフォメットとともに黒魔術団のアジトを後にして、バスに乗り込んだ。


 クライさん、シープルさん、ホウリさんの3人とは、アジトの入り口の前で別れることになった。

 最初はクライさん……すごく心配そうな顔をしていたけど……ホウリさんの説得で納得したみたい。「十分……気をつけてね……」と、他のふたりとともに見送ってくれた。




 “あのお方”……リズさんがいる塔の前でバスが止まり、ワタシたちはリズさんのいる最上階を目指して塔の中へと入っていった。










「いい? バフォメット。ボクはウサギのマウ! 紋章で知能を高めているけど、ウサギの脳みそはちゃんと詰まっているよ!」

「“ノーミソ”ノアル……ウサギ……ノ……ヌイグルミ……?」

「だーかーらー! ボクはぬいぐるみじゃなーい!! というか、脳みそのあるぬいぐるみって怖すぎるよ!!」


 20階の通路の中、マウとバフォメットの会話を聞いて、ワタシは紋章の中で笑っていた。


「ワガムスメ……ヨ……ノーミソトハ……人間ノモツ人格ノ紋章……ナノカ……?」


 あ、もうだめ。

 ワタシは声も息も出せないのに、腹を抱えてしまった。


「ワガムスメ……ヨ……オナカ……イタイノ……カ……?」

「……まさかイザホに笑われる日が来るなんて、思わなかったよ……」


 ワタシは悪気がないことを伝えようとしたけど、マウに向かって手のひらを向けて謝ることしかできなかった。

 だって……本当に面白かったから……








 やがて、大きな扉の前に立った。

 バフォメットがノックをして、カギが開いた音がしたらその扉を開いた。










 ドーム状の部屋、


 ガラス張りの天井から見える星の下にいたのは……




 だえん形の……ダイニングテーブルと比べて小さいテーブル。


 イスに腰掛け、そのテーブルに肘をつけている……リズさんだ。




「イザホ……マウ……来てくれたんだね」









 ワタシとマウは席に座って、サバトの元締めである中学生……リズさんと向き合う。


 前回のダイニングテーブルの時よりも……リズさんとの距離は近かった。


「スイホさんから話は……聞いた?」


 ワタシとマウは、一緒にうなずいた。

 たしか、ワタシたちよりも先に黒魔術団のシープルさんたちが取り調べを行っていたんだよね。


「そっか……なら、わかるよね……ウアがこの事件の……犯人ってこと……」


 リズさんは、テーブルに肘をつけたまま、その手を顔の頬に当てる。

 それを見たマウは、やや遠慮がちながらも、声をかける。


「そういえば、リズさんって……ウアさんと……友達だったんだよね」

「うん……ウアは小さいころからの友達。小学校も、中学校も同じだった……」


 ため息がリズさんの口から吐き出され、リズさんの顔は天井の星に向けられる。


「だから……わかっていた……昔からウアの作品を見ていたアタシは……わかっていたはずなのに……」


 ワタシは思わず、リズさんの横で立っているバフォメットに目線を向けた。

 バフォメットはなにも言わず、ただ悲しそうにうなずくだけだった。


「前にここに来た時……リズさん、犯人のことについて……めぼしが付いているような反応をしていたよね」


 マウの言葉に、こっくりとリズさんはうなずいた。




 以前、初めてサバトを……そして、この塔を訪れた時……

 ワタシはリズさんの発言から、誰が犯人なのかがわかっているのではないかと疑った。


 その言葉をスマホの紋章に打ち込んでリズさんに見せた時……人間らしい動揺を見せていた。




「……このサバトの黒魔術団と、鳥羽差市の阿比咲クレストコーポレーションは裏でつながっている。だから、サバトのことを聞き出している可能性も0ではなかった。それに……ウアが人の死や凶器について興味を持っていたことも……わかっていたのに……」




 リズさんの目線は、星からテーブルへと写っていた。


 それを見ていたマウは、マネをするようにテーブルに手を置く。


「でも、すぐに決めつけなかったのも判断のひとつじゃない? その年齢で判断できるだけで……十分だよ」

「……」




 ……?




「……この年齢で……?」




 リズさんは……肩を揺らして……




「……違う……アタシじゃない……アタシじゃ……ないもん……」




 笑ってる……




「サバトの元締めとしてのアタシは……アタシじゃない……」




 リズさんは自信がないように、上の唇をめくった。




 そこにあったのは……




 本とペンが重なった形の……紋章……




「それって、記憶の紋章だよね!? まさかリズさん……」

「ううん。これはウアの記憶の紋章じゃないから安心して」


 思わずイスの上に立ち上がっていたマウは、リズさんの説明で安心したようにすとんと座った。


「この記憶の紋章は……今までサバトの元締めを務めてきた人物たちの記憶。その記憶のおかげで……15歳のアタシでもこのサバトをまとめ上げることができている」


 上唇を戻しながら、リズさんは影のある笑みを浮かべた。


「記憶の紋章ってさ……その人の人格も入っているんだよね?」

「うん。だけど元から人格を持つ人間に埋め込んだ場合は、その人格の思考の影響は受けるけど人格自体からの影響は受けないけどね」


 ……リズさんは、明るいのにどこか大人びた考え方をしていた。

 その考え方……そして、子供でありながらこのサバトの元締めを務めているのも……先代の元締めの考え方……だったのかな?


「……他人から紋章を埋め込んでもらって、アタシたちは作られる……本当にその通りだね……この記憶の紋章がなければ……アタシはおめでたい友情感覚で犠牲者が増えるのをを眺めていることしかできない、ただの中学生だもん……」


 リズさんは静かに笑いながら……自身の体に埋め込まれている紋章たちを見ていた。


 それを見ていたバフォメットは……ただ黙って、床を見ているだけだった……




「……それで? これからどうすればいいの?」




 リズさんとバフォメット、ふたりの表情を変えたのは……マウの言葉だった。




「……え?」

「だからさ、これからのことだよ。ウアさんを止めるにはどうすればいいかって話。今からそれをするために、ここに連れてきたんでしょ?」




 リズさんはわけもわからずバフォメットを見て、バフォメットは困ったように目線をあちこちに動かしている。


 その様子を見たマウはあきれるように両手を挙げると、ワタシに顔を向ける。


「イザホ、昨日はごめんね。他人の都合をこんなにジメジメ話されるって、イライラすることとは、思わなかったから」


 ……マウはリズさんの気持ちを理解している。自分の気持ちと重ね合わせている。


「まずさ……紋章がなんちゃら言っているけどさ、紋章を埋め込まれても使うのは自分で選べるよね? 他人を見てわかることって、あんがい多いんだねえ」


 だからこそ……マウはわざと、リズさんに聞こえるように嫌味を言っている……!




「……あ゛ーーーーーー!!!  もーーーーーー!!!」




 突然リズさんが机を叩いて、バフォメットは背を伸ばした。




「サバトの元締めが、マウにバカにされちゃったじゃん!! もう顔真っ赤っか!!

全部ウアのせいだ!!! ウアなんて、もう絶交!! もう手加減なんて、しないんだーかーらー!!」




 リズさんの子供っぽい大声に、ワタシとマウはただ口を開けることしかできなかった。

 ……バフォメットがおびえたようにカチカチと歯を鳴らしている。




「イザホ! マウ!! 君たちにも協力してもらうからね!! ウアをとっ捕まえてやる!!」

「……すごいエネルギッシュになったね……もしかして、それが素のリズさん?」




 リズさんは「当然! もう居眠りなんてしている暇ないよ!!」と笑顔を見せた。


「それじゃあ、どうやってウアさんを……」

「それを今から考えるの!」

「え……なにも考えていなかったの……?」

「他人の過去を、ジメジメ捉えてる暇はないよ! とにかくこれからのこと、考えなくちゃ!!!」










 ガラス張りの天井から見える星空の下、




 ワタシはマウ、そしてリズさんとともに、ウアさんの居場所を突き止める作戦を語り合った。




 ふと、リズさんの後ろを見ると、




 うらやましそうにワタシたちを見る、バフォメットの姿が見えた。









次回 第105話

8月7日(日) 公開予定

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