第46話 始まりの場所へ

・イザホのメモ

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/b6u1VTtaPOvDfzm9Ie1FYB1VDh0q6y9j




 喫茶店セイラムの前で、バックパックの紋章から移動用ホウキを取り出す。


「そういえば、移動用ホウキに乗るのって久しぶりのような気がするね」


 移動用ホウキにまたがったワタシの前に、マウがつぶやきながら飛び乗った。

 たしか、ウアさんの行方を捜していた日……いや、その次の日も乗っていたような気がするから、乗っていないのは昨日だけだ。

 それでも、ワタシも久しぶりのような気がするけどね。


「それではホウリさん、現場の方まで案内できますか?」

「は……はい!」


 ホウリさんを先頭に、スイホさん、クライさん、フジマルさん、そしてワタシとマウ……と後に続く。


 ホウリさんが案内するのは、山の中の道路。

 そこに車を置く場所はあまりない。だから移動用ホウキで行くことになったんだ。












「……この辺りでした。アタイが人影を見た場所は」


 立ち止まったのは、右に曲るカーブの真ん中。


 右を見ると、


 下の小石が見えるほど透き通った川が、太陽の光を反射している。




「人影は……あの階段を登っていきました」




 前に顔を向けると、カーブとは別に丸太でできた階段が設置されている。




 その側には……




 “辺鳥へんとり自然公園”と書かれた、木製の看板。






 羊毛に包まれたかわいらしい羊が“ようこそ”と手を振っている看板。

 それをホウリさんは指さした。


「ねえフジマルさん、あの公園って……」


 マウに顔を向けられて、フジマルさんを始めとした4人はうなずいた。




「ああ……10年前の事件が起きた……キャンプ場だ」











 ワタシたちは、丸太で作られた階段を登り始めた。


 階段に落ちている落ち葉が踏まれ、ぴりっと断末魔を鳴らしていく。




 ワタシは、近づいているんだ。


 ワタシが生まれるきっかけとなった、10年前の事件の現場に。







 階段を登った先には……




 たくさんの木に囲まれた、一面に広がる平原。


 名前から想像していたものよりも広く、周りの木も含めて大きな箱庭のような印象。


 階段の近くには、公園の内装を知らせる地図が書かれた看板があった。




「わりと広いんだね、この自然公園って」


 マウと一緒に地図を確認する。

 現在地は“ふもと広場”。この自然公園の中でもっとも広い場所らしい。


 その奥にはふもと広場の次に広い“ぱなら広場”。

 キャンプ地として、コテージもある……10年前の事件の舞台だ。


 ここから東にいくと、“ふらばし牧場”と呼ばれる場所があるらしい。




 ふと、マウがふらばし牧場に目線を止めて……首をかしげた?


「あ、ううん。なんでもないよイザホ。ただ一瞬だけ、聞いたことのあるような名前のような気がしたから」

「いや、気のせいじゃないぞ。ふたりはその名前を聞いたはずだ」


 ワタシはマウと顔を合わせて、しばらく黙っちゃった。


 ふらばし……ふらばし……ふらばし……てつ……?


「なんか出てきそうで出てこない……フジマルさん、まいった!」


 マウが地面に手をつけて降参すると、フジマルさんは勝ち誇ったように豪快に笑った。




普羅橋 哲也フラバシ テツヤ……ふたりとも、覚えはあるだろ?」




 …… 「……」




「あぁー!!」


 リズさんとウアさんの担任教師!!

 昨日、瑠璃得中高一貫校で出会った、オカルト好きの教師のテツヤさん!!


 人の名前はいつも名前で覚えていたから、あまり名字は印象に残ってなかった!




「いや、なんでテツヤさんの名字が入った牧場が!?」


 マウが地図とフジマルさんを交互に見ていると、スイホさんはせき払いをした。


「単純に、テツヤさんが所有しているからよ。それどころかこの辺鳥自然公園……全部が彼の所有物なの」

「テツヤは親が投資で成功して、鳥羽差市で有数の資産家! 阿比咲クレストコーポレーションだって、彼の投資によって支えられている面も大きいな!」


 スイホさんとフジマルさんの解説に、マウは「はぺー」と関心したように周りを見渡した。


 そういえば、テツヤさんって30万もするツボを買ったんだっけ。

 これが全部テツヤさんのもの……だとすると、30万のツボも安く見えてしまいそう。




「バフォメットは……この自然公園に来ていたはず……スイホちゃん……どうする?」


 クライさんが珍しく自分から声をかけると、スイホさんは地図上のぱなら広場を指さした。


「この自然公園の管理人に、人影が通ったかどうか聞いてみましょう、クライ先輩。管理人は……ぱなら広場にいるはずです」


 スイホさんとクライさんは意見が一致したようにうなずいた。


 その一方で、フジマルさんが手をあげた。


「さっそく聞きに行くのもいいが、そろそろ腹ごしらえをしてもいい時間じゃないか? ふらばし牧場では、レストランを経営しているが……」


・ふらばし牧場に向かう

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/kpD5tu6eC7dYxnfLOWgYlOQBYe34nmEc












 ワタシたちはふもと広場を抜けて、ぱなら広場に向かった。




 ぱなら広場は、ふもと広場とは違い、周りの木によって狭く感じる。


 その代わりにあるのは、


 木製の大きなコテージ。




 そして、奥にあるのは……巨大な大木。




 その大木には……知能の紋章と人格の紋章、そして声の紋章が埋め込まれていた。




「すみませえん……あのう……“パナラさん”……」




 クライさんが、その大木に向かってボソボソと声をかけた。




「愚か者がっ!!!! そんな小さな声が人にたずねる態度かっ!!!!」




 大木から聞こえてきた大声が、周りの木たちを揺らした。





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