第23話 人物画の6人とインパーソナル

・イザホのメモ

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 アーケード街にある牛丼屋で食事を済ませたワタシたちは、そのまま瓜亜探偵事務所に向かった。


・牛丼屋での出来事を思い出す

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/MgHJrMD85NouZamKrY6kuls5auxR9DbM


 先ほど胃袋の中に入れた豚肉と白米のことから、だんだんこれからのことが気になってきた。

 フジマルさんが聞いた情報と阿比咲クレストコーポレーションの本社と、どう関係があるだろう……










「さて、まずはこれを見てくれ」


 瓜亜探偵事務所のテーブルの上に、フジマルさんはパンフレットを出した。


「これって……阿比咲クレストコーポレーションのパンフレット?」

「その通りだ! そして、我々はこれからこの場所に向かう!」


 フジマルさんはパンフレットを勢いよくめくると、ある写真に突き指しそうな勢いで指を突き立てた。


 その写真は、上に書かれている説明文によると“紋章研究所”と呼ばれる場所を写しているようだ。

 この施設、本社の地下にあるみたいだけど……


「ここに行ってどうするかの前に、イザホに紋章研究所が何かを説明したほうがよさそうだね」


 ワタシの顔を見たマウが代弁してくれる。

 するとフジマルさんは「ああ、何事にも事前調査は必要だ!」とうなずき、そのまま説明してくれた。


「紋章研究所での主な役割は、新たな紋章の開発だ! ある時は中世の資料を頼りに、ある時は既存の紋章の技術を応用して……研究員たちは今日も、新たな紋章作りに励んでいるのだ!」


 新しい紋章はその場所で作られているの? 

 それなら、ワタシの体に埋め込んでいる紋章のいくつかも、その紋章研究所で開発されたものもあるのかなあ……


「阿比咲クレストコーポレーションの商品で使われている紋章のほとんどは、その研究所で開発した紋章を使っているんだよ」


 へえ……マウもよくそんなことを知っている。


 とりあえず、ふたりの説明のおかげで、紋章研究所がどんな場所なのかは理解できた。


「さて、フジマルさん。その紋章研究所に行ってどうするの?」

「ああ、あの鳥羽差警察署を訪れたことが、次の目的地を示してくれたんだ」




 フジマルさんが鳥羽差警察署で取り調べを終えた時だった。

 ちょうど担当の刑事……スイホさんが電話で呼ばれ、取調室から立ち去った。

 フジマルさんは後をつけて、その電話の内容を盗み聞きしたそうだ。


 電話の内容は、ウアさんの死体に埋め込まれていた紋章の解析結果の確認についてだ。


 通常、事件性のある死体については病院などで検視を行う。

 その際、紋章が体に埋め込まれた場合、先に専用の機械で体にどんな紋章が埋め込まれているのかを読み取るらしい。

 病院で検視を進めるのと同時進行で、紋章について読み取ったデータを受け取った紋章研究所の研究員が解析を行う。


 その紋章がいつ埋め込まれたのか、どのような効果の紋章を使っているのか、どのくらい使われていたのか……

 それを今日、紋章研究所が解析を終えたという。




「……その結果が、もう出たっていうの!? 早すぎじゃない!?」


 フジマルさんの説明を聞いたマウが驚いて声を上げる。


「あくまでも、結果が出たのは体に埋め込んだ紋章のほうだ。あそこの紋章研究所の所長は、わりと早く紋章について結果を出すことで有名だからな」


 それじゃあ、死体の方の検視結果はまだ時間がかかっているんだね。


「と言っても、今からその報告を警察にするわけではない。その所長は別の研究で忙しいから、15時に来てくれと指示をした……そこまで聞いていて、スイホに見つかってしまったな!」


 ……


「いや、バレてるじゃんっ!!」


 マウからのツッコミに、フジマルさんは豪快に笑った。


「というわけで、ウアの死体に残された紋章の情報を我々も聞いておきたいというのが理由のひとつだ!」

「理由のひとつ? それじゃあ、まだ他になにか?」



 フジマルさんは「ああ、あとふたつあるんだが……」とパンフレットを持ち上げた。

 そして、下に敷いてあったメモ用紙を手に取った。


「ふたつ目の理由は、イザホとマウに探偵の仕事で使う紋章を埋め込んでもらうことだ。主に電波が届かない場所でも使える無線の紋章と、護身に使える紋章を適当に見繕ってもらいたくてな」


 フジマルさんの言い分がわかった。


 昨日やおとといみたいに、ワタシとマウは今後も裏側の世界に引きずり込まれる可能性がある。

 無線の紋章はその時でもフジマルさんと連絡が取れるように、護身用に使う紋章は危機が迫った時に必要になりそうだ。

 そのメモ用紙は、紋章研究所の所長さんに注文する紋章が書かれているんだろう。


「そしてもうひとつは……ふたりなら、これを見て気づくはずだ」


 そう言ってフジマルさんは、再びパンフレットを広げた。


 ……! 「これって!?」




 パンフレットに書かれたのは、紋章研究所の所長の顔写真。




 ポニーテールにTシャツという軽い服装の女性が写っていた。




「ああ、ふたりが裏側の世界で写真を撮った人物画のひとり……名前は“手羽 庭テバ テイ”。紋章研究所の所長、テイ……」


 なんだか、裏側の世界で人物画を見てから、その絵の人たちとよく出会っているような気がする。


「それじゃあ、この人とウアさんの関係を聞き出す……それが3つ目の理由なんだね?」

「なかなか勘が鋭いぞ! マウ! おそらくスイホたちも検視のついでにたずねるだろうが、警察には話しにくいことも聞き出せるかもしれない! 裏側の世界に実際に訪れたイザホたちの証言も、テイはきっと興味を持ってくれるからな!」




 とりあえず、目的はハッキリした。

 ワタシはスマホの紋章を起動させて、これからの目的を記入した。


 ・15時に紋章研究所に向かい、テイさんに会いに行く

 ・そこでウアさんとの関係性と、検視結果についてたずねる

 ・そのついでに、ワタシとマウに新しい紋章を埋め込んでもらう


「イザホ、ナイス! おかげでやるべきことが簡潔にわかったよ」


 記入した内容をふたりに見せてみると、マウに褒められちゃった。

 昨日、フジマルさんが紙にまとめていたのをマネしただけだけどね。




 さて、次の目的はわかったけど……


「……あと2時間後かあ」


 柱時計は、ちょうど13時にさしかかろうとしていた。

 ここから移動用ホウキで阿比咲クレストコーポレーションに向かったとしても、15分でついてしまうだろう。


「ああ、ついでだから、ちょっと決めておきたいことをこの時間で決めてしまおうと思っているが……イザホにマウ、ふたりは別の用事とかはあるか?」

「いや、特にないよね、イザホ」


 うん。ここで終わったら、それまでの時間をどうするかマウと相談するしかなかった。


「よし、それでは決めたいことなのだが……今まで我々は、殺されたウアの遺体を操り襲ってきたものを“ウアの死体”と呼んでいた。しかし、さすがに“死体”だけではウア本人と区別が付きづらい。それに最悪の場合だが……第2の犠牲者が出る可能性だってある。そこで、我々で新たな名前を考え、命名しようというのだ」


 ワタシはマウと顔を合わせた。

 マウは少し迷っているようだったけど、ワタシの顔を見ると考えがまとまったような目つきになったので、一緒にうなずく。




 その後、3人で話し合って決めた名前は……人格なき死体インパーソナルと名付けた。


 由来は、“人格を持たない”という英単語から。


 人格の紋章を埋め込まれず、生きていたころの人格を奪われた死体という意味で命名した。

 “人格を持たない”というアイデアは、マウが人格が宿った死体という名の作り物フランケンシュタインの怪物であるワタシと区別するために提案したもので、それにフジマルさんが英単語で名付けてくれた。


 ウアさんの死体の場合は……“インパーソナルにされたウアさん”となる。




 その後も時間が少し余ったので、裏側の世界で見た人物画に写っていた6人についても命名することにした。


 新たな名前は……“人物画の6人”。


 こればかりは、無難に短縮したものでいいとフジマルさんにアドバイスをもらった。

 人物画の6人は、とりあえずは次に狙われる候補であると仮定することにした。

 絶対にあると決めつけることはできないけど、可能性としてはありえる。




「それじゃあ、そろそろ行こっか。イザホ、フジマルさん」

「ああ! ウアを殺し、インパーソナルにした犯人に1歩でも近づくために、テイに会いに行くぞ!!」


 柱時計が14時30分を指したのを確認して、ワタシたちは出発の支度を始めた。


 人物画の6人のひとり、紋章研究所の所長……テイさんに会うために。




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