ACT3【 紋章研究所と時計塔 】
紋章に夢中な研究者 テイ
【名前の夢】
ワタシは、車の後部座席で揺れていた。
車は、森の中を走っている。どこに向かっているのかはよくわからない。
「ほら見て、あなたの住むお屋敷が見えてきたわ」
運転席に座っているお母さまが、窓の外を指した。
窓には夕焼けの空に、たくさんの木。
そして、大きく古びた屋敷が建っていた。
「どう? 気に入った?」
……そう言われても、ワタシにはよくわからない。
昨日、紋章を埋め込まれて作られたばかりの死体に、物の価値観をどうやって決めればいいのかはわからない。
胸に埋め込んだ知能の紋章は、育ててくれた人物が決めてくれると言っているが……人格の紋章は、その判断がまだできない。
「そう難しい顔をしなくてもいいのよ。だって、まだ中を見ていないものね。それに、どんな第一印象だって、いつかはきっと気に入るのだから」
お母さまはこっちを見て、やさしくうなずいてくれた。
この“お母さま”って人は、まだどんな人なのかは判断できない。
ワタシが作られた直後に泣いて抱きついだりするし、まだ起きる保証のない未来のことを楽しそうに語っていた。
ワタシを作った理由は、“あの子”の生まれ変わりとして育てるため。ワタシが作られた時、お母さまはそう言っていた。
だったら、“あの子”は……この体の前の持ち主なのかな?
見たところ、それぞれの部位は違う人の部位のようだから、どの部位の人がお母さまの言っている“あの子”なのかは分からないけど。
そして1番の疑問点は、ワタシに声の紋章と“あの子”の記憶の紋章を埋め込んでいないことだ。
「まだまだ伝えたいことも伝えきれずに“あの子”が私の元から離れていって、私はずっと思っていたの。長い間生きていた意味ってなんだろうって。今はもう“あの子”はいないけど……それをすべて伝えきるまで、あなたはお母さまと一緒に暮らすのよ。イザホ」
イザホ……?
「あ、まだ教えてなかったわ」
お母さまは助手席に置いてあったハンドバッグから、1枚の名刺を取り出して、ワタシに渡した。
【
名刺には、そう書かれていた。
「あなたの名前はイザホ。
ワタシの名前は……イザホ……
なんどもその名前を胸の中で繰り返していると、車は屋敷の前で停車した。
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