episode2 旅立ノ朝



「かつて、古の地には火の鳥がいたんだ。神のように崇められていた。火の鳥は不死鳥と言って、死んでもまた生まれ変わる幻の鳥とも呼ばれていたらしい。その鳥の血を飲めば不治の病も治り、肉を食えば永遠の命を獲るという。そして心臓を飲み込めば、不死鳥の炎を授かる。」


「ふしちょーのほのお?」


「そう。忘れられた古の魔法。不死鳥はその炎を操り、破壊と再生をもたらしてくれるんだ。」


「こわいとりさんなの?」


「優しく美しい鳥だよ。」


「あったことある!?」


「ああ、わしの最も愛する鳥だ。お前もいつ分かる時がくる。」


 そう言うと、あの人は僕の頬を撫でて額にキスを落とした。冷たい指先、冷たい唇。優しい笑顔を一人占めできるその時が大好きだった。





───夢を見ていた。

 遠い過去の夢。まだスーさんと僕とエル様しかいなかった時の話。


『スーさん……エル様、メメ……。』


 エル様が拐われて一晩経った。

 ノアの地は永遠の時間。地上とは異なる時の流れだ。黒い空に赤い月が光っているが白い砂の地のお陰で明かりを持たなくとも外に出られる明るさだ。


 本で読んだことのある朝、昼、夜なんてものはない。どうやって日数を数えているのかというと、地上との穴から一日に一度落ちてくる灰塵。

 地上では毎日魔物が死ぬらしい。その魔物の灰塵がこの地に落ちてくるのだ。


 こうして落ちてくるのを数えて日数を数えているの。これは王様が決めたことだ。


「ニクスちゃん、カインさんが……来てちょうだいっ!」


スライムたちのリーダー、テラが僕の頭の上に乗ると早くしろと急かす。


「もうあたしたちじゃあ、カインさんを止められないのよ。」


 言われた通り大広間まで走ると、鬼人のカインがジャラオアやゴブリンのリーダーであるゴルザたちと揉めていた。


『何を揉めてるの?』


「カインさんがメメをすぐにでも助けに行くと聞かないの!ニクスちゃん助けて!」


 メメはメディーサだ。内向的な性格で、争い事が嫌い。危ないからと部屋にいるように言っていた。

 しかし、それがいけなかったのか。勇者一行に見つかり連れ拐われてしまった。


「なんて卑劣なっ……!」


「アイツら、無抵抗なメメを無理矢理拐った!!エル様は人間とは争わないと言った。攻めてきた勇者たちも傷つけるなとおっしゃった……それがいけなかったんだ。その結果がこれだ!!人数が多いこっちに分はあったんだ!!アイツら皆殺しにしてやるっ!!どけっ!!メメが俺を待ってるんだ!!」


「カイン、だから何度も言ってるだろ。傷を直してからじゃないと勝てない!」


 メメとカインは本当の兄妹のように育った。ノアをさ迷っていた二人を王様が拾ってきたのだ。


『カイン。』


「ニクス……メメが」


『うん。メメもエル様も助けに行こう。他に拐われた子たちはいる?』


「いない。二人だけだ。」


みんながエル様とメメを助けに行きたい。だが、容姿のことを考えて僕たちは話し合った。


「エル、ナタリー、カイン。必ず二人を連れて帰ってきてくれ!!頼んだぞ。」


『うん。城の修復よろしくね。それと“アイツら”の警戒も忘れないで。』


「こっちは任せとけ!」


 必ず二人を連れて帰ってみせる。僕たちは旅立った。僕は生まれて初めてノアの地から外に出る。

 まるで体の大事な中心を抉り取られたような焦燥。きっとみんなも同じ気持ちだ。


 僕は背中から普段は閉まっている翼を羽ばたかせ、両手は二人と手を繋いで飛び立った。


 行ってはいけないと言われていた地上の穴へと────。



「遂に見つけた……我輩の───。」









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僕ハ魔王様ノ僕 おはぎ @ohagi_pakupaku16

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