スズキカップ

 藤原埼玉が最も活躍したのがスズキカップである。スズキカップを知らない人のために簡単に説明しておこう。

 アジアの代表戦には二種類ある。オリンピック協会が主催するアジア大会。そして、サッカー協会が主催するアジアカップである。スズキカップとは、ASEANで行われるアジアカップの事である。正式名称をスズキアジアカップという。

 このスズキカップは、ASEANにおいてアジアカップの次に位置する格を持った大会だ。アジアカップに出場が叶わないASEAN中堅国にとって、ワールドカップに比する大会に位置づけられている。

 藤原埼玉はフィリピン代表としてこの大会に出場した。相も変わらず交代の切り札として使われた藤原埼玉は、ピッチに出ると飛んだり跳ねたり踊ったり、試合とは全く関与しないかのような動きをみせる。そして、周りの選手達は避けるように離れていく。

 空いた藤原埼玉へパスが通ると、まるで奇行の一連の動きであるかのようにボールを止めた。そこから藤原埼玉の独演奏が始まった。

 藤原埼玉は、ボールを奪いに来た選手をゆるりゆるりと交わしていく。独特のリズムのせいなのか、三人四人と囲まれても奪われない。フィールドの選手達は藤原埼玉を中心に回り出した。

 ゴールを目指しているのかも定かではない藤原埼玉の動きに、選手達だけでなく観客すらも戸惑いだした。藤原埼玉はその空気を察したのか、ゴール前にパスをだした。そこには誰もいない。五分五分のボール。味方のフォワードとゴールキーパーがそれを追いかけ交錯する。そして、こぼれたボールは藤原埼玉の前にやって来たのだった。

 全てを嘲笑うかのようなプレーにスタジアムは一瞬鎮まり、一息おいて大喝采が鳴り響いた。これがASEAN中にその名を知らしめた藤原埼玉の伝説的なプレーである。


 藤原埼玉はこのスズキカップ以降にはフィリピン代表に召集されることもなく、また、フィリピンサッカー界からも姿を消した。伝説の謎多きこの選手についてわかっていることは1つだけだ。


 藤原埼玉はフィリピン人である。それ意外の経歴を知るものは誰もいない。

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藤原埼玉はフィリピン人である あきかん @Gomibako

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