JPヴォルティス

 藤原埼玉は謎の多い選手である。日本のユースやクラブに所属した経歴もなく、その名も偽名である可能性が高いと言われている。話はそれるが選手名に通称が使われることもままあるのだ。野球のイチローが良い例だろう。それが代表でも使われる。とにもかくにも、藤原埼玉という名がサッカーシーンに現れたのは2つだけだ。先に上げたフィリピン代表と、そしてJPヴォルティスである。

 JPヴォルティスとはフィリピンリーグに所属するプロクラブの事である。日本人オーナーが運営する、いわゆる日系クラブと呼ばれるものだ。

 JPヴォルティスは日本人駐在員のチームが発祥である。フィリピンサッカーのプロ化に伴いリーグ戦に参加することになった。当初はアマチュア選手のみの構成であったが、現在は日本人オーナーに受け渡され、プロ選手のみでチームを組んでいる。そして、他の日系クラブと同様に、JPヴォルティスでも外国人プロ選手は日本人で占める。

 藤原埼玉は突然このクラブに現れたのだ。噂では、選手兼監督の日本人が故郷の埼玉から連れてきたらしい。この謎の選手は交代のジョーカーとして使われた。

 後半戦。どうしても得点が欲しい時に現れては、ピッチをかき回し、敵も味方も混乱させた。スタンド視点では、藤原埼玉はふらっとピッチ上を漂っているだけのように見えた。味方の動きと連動しているとは思えないし、それ以前に何がしたいのかが理解できない。しかし、その行き着く先は常にフィールドの空白地帯ができていた。藤原埼玉を敵も味方も避けているかのように選手達は散らばっていく。

 フリーになった藤原埼玉にパスが通る。ボールを持った藤原埼玉もまた人を小バカにしたかのようなプレースタイルである。あえて、オウンゴールを誘うようなパスを出すこともしばしばあった。

 このようにそこそこ活躍していたが、代表に選ばれるような選手でも無かったのだ。現代において典型的なファンタジスタの居場所はない。しかし、ダン・パラミの意向により藤原埼玉の代表選出が決まったという。サッカーファンならばファンタジスタを見たいのだ。出来れば自チームで。これはダン・パラミと言えども変わらなかったらしい。

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