第15話 海上戦
筋斗雲に乗って本土の方向に進んでいく。変わり映えのしない大海原の景色。たまに漁船らしき船を見るもののそれ以外は特に目新しいものは見当たらない。
そんな時間が数時間続いた後に……水平線の向こうから黒い豆粒のような見えてきた。あれはなんだ? 筋斗雲の速度を上げて近づくと巨大な黒い船だと判明した。甲板の上には、板前が切るような白い衣装を身に纏った中年男性が立っていた。
「見つけたぞ! 総員撃てェー!」
その中年男性の指示と共に物陰に隠れていたセーラー服を着た海兵たちが現れて俺に向かって銃を構える。そして、躊躇することなく引き金を引き弾幕となり俺に襲い掛かって来た。
「く……」
俺自体はこの銃弾の攻撃を無傷で防ぐことはできる。しかし、筋斗雲は攻撃されると散り散りになってしまう。散っていく雲に乗れるはずもなく……俺は天駆の術を発動させて、なんとか海に落ちずに済んだ。
「おい! なんだよ! 俺じゃなかったら死んでたぞ!」
銃弾の突くようなダメージと弾に残った熱によるダメージ。その2つを同時に無効化できる性質のお陰で今の攻撃は全く脅威ではなかった。しかし、海兵たちは俺がダメージを受けてなくても全く驚く様子を見せずに再び弾を込めて銃弾を放った。
「しつこいな! 俺には銃は効かねえ!」
恐らく、こいつらは本土から送られた死角だろう。だから、俺のスキルのことを知っているからノーダメージでも驚かなかった。本土に着く前から敵襲が来るんじゃないかと予感していたが……所詮は急遽編成された部隊ということか? 恐らく俺の足止めをするためだけの存在だろう。
そんな高を括っていたら、板前風の中年男性がいきなり両手をパンッと叩いた。そして、その後に両手を広げると奴の両手から無数の投網が出現して、それが俺に向かって放たれた。
「秘技! 投網三昧!」
「しまっ……」
完全に油断していた。俺は投網を避け切れずに引っ掛かってしまった。俺捕らえた投網は俺を完全に包み込み離さない。投網は重力に従って海へと落下していく。俺も天駆の術で抵抗を試みるも投網が俺を叩きつけようとする力には勝てずに、ゆっくりと下降していく。
ダメだ。投網の拘束力が強すぎる。俺は仙術修行は広く浅く色んな術を覚える方針を取っていた。そのため、1つ1つの仙術の威力はそこまで高くない。相手に与えるダメージは脳のリミッターを解除した攻撃で十分だと判断したからだ。仙術は完全なるサポート用。極めていない天駆の飛行能力では、投網の押さえつけには力負けして徐々に海面へと近づいていく。
「無駄な抵抗を……」
ダメだ。天駆の術を最大出力している状態では脳のリミッターを外す余裕がない。つまり。パワーが出せないからこの投網を破ることもできない。尤も力で破けるものなのかどうかすら微妙だ。この状況をなにか切り抜ける仙術。そんなものはあるのか?
「秘儀! 投網三昧!」
板前風の中年男性は再度投網をこちらにぶつけてきた。既に網にかかっている俺に更に覆いかぶさる網。二重の網は
「くそ……!」
こんなの耐えきれるわけがない。俺は投網の力によって海中へと沈められてしまった。
水に濡れた感覚が俺の皮膚を伝う。この時期のこの海域の温度は非常に低い。まともな人間がこの海に入ればそれこそ冷たさでショック死してしまうほどだ。しかし、俺にとっては適温のプール程度にしか感じられない。どうやら冷気攻撃にも耐性をもっているようだ。だが、問題はそこじゃない。俺は今、とても苦しい。息が全くできないからである。
人間は呼吸によってエネルギーを作り、体を動かし生命を維持している。流石にダメージを負わないスキルでも、エネルギーを作ることはできない。よって、呼吸ができない状態が続くと生命活動に必要なエネルギーを生成できなくて……死ぬ!
俺が絞め技を恐れた理由もこれである。呼吸するための気道を塞がれたらダメージを負わなかったとしても、息ができなくて死ぬ。まさにこの海というフィールドは俺にとっては最悪の
くそ! このまま溺死してたまるか。こんな時のために、俺は仙術を広く浅く覚えてきたんだ……行くぞ!
俺の体に流れる体内の気が空気に変換されて俺の体の周囲に膜として纏わりついた。これは正に水中でも呼吸ができる宇宙服のようなもの。気が残っている限りは、この空膜は尽きることはない。筋斗雲で体内の気を節約して良かったと改めて思った。
だが、気も無尽蔵にあるわけではない。空膜がなくなり、呼吸ができなくなる前にこの二重の網から脱出して海から脱出しないと……いや、そんな甘い考えではダメだ。気が残ってなければ、相手を倒すための仙術が使えなくなる。できるだけ気を残すために一刻も早く脱出しなければ……!
◇
「やりましたね艦長。流石のあの無傷ハゲも海に沈めてしまえば安心ですよ!」
「いや……まだだ。油断をするな。やつは高度な仙術を操る。仙術の中には確か水中でも呼吸を可能とする術があったはずだ。現に俺のスキル……フィッシャーマンによるソナーで海の中を探っているが……奴は投網の中でバタバタともがいている。まだ死んじゃいねえ」
俺のスキル『
しかし、時代が進みスキルが研究された今では、極めれば投網を複数投げて、敵を拘束させられたり、ソナーを用いての索敵もできる。流石に本職の戦士系統には劣るものの
時代は移り、戦いも少なくなった昨今。フィッシャーマンが無理矢理戦闘に駆り出されることも少なくなった。現状のフィッシャーマン持ちは、元の漁が得意な性質を利用して猟師として生計を立てている者が多い。だが……俺は海兵になった。男として生まれたからには、戦いに身を置かなくてどうする。俺は海兵になり、フィッシャーマンのスキルを駆使することで成り上がって来た。確かに戦闘系スキルではないから不利な面もあるが、それでも今回のようにいつか俺のスキルでないとダメな時を待っていた。
ハゲよ。お前はここで死ぬ。海で最強なのは
「しかし、このままただ待っているんですか? 仙術持ちの奴がいつまで呼吸できるかわからないじゃないですか」
「ああ、確実に死亡確認しなければならないからいつかは引き上げなければならない。やつが動かなくなったタイミングを狙おうにも、ぐったりとした演技でもされたら厄介なことになる。奴は相当頭が良いと本土から報告があった。それくらいのトラップは仕掛けてくるだろう」
「ってことは、このまま待ってるだけってことですか?」
「いや……そんなことしてたら船員の指揮が下がる。だから、もう1つの武器を使う。フィッシャーマンの武器は投網や銛だけじゃない。こいつを使えば水中のハゲにも攻撃ができる。奴そのものはダメージを受けなくても奴が仙術で作り出したものはダメージを受ける。さっきの筋斗雲で実証済みだ。だから。俺は奴の空気の膜を攻撃して散らす。そして、効果時間を短くして確実に止めを刺してやる」
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