第14話 本土へ……

 巨大ロボットの胸部からミサイルが発射された。俗に言うおっぱいミサイル。それが俺に向かって飛んできた。ミサイルによる攻撃を受けたら間違いなく爆発からの煙が巻き起こる。俺はダメージを受けない体質ではあるが、煙が体に付着するのは正直しんどい。それ故にミサイルを避けようとした。


 俺は足の筋肉のリミッターを外して大きく跳躍した。身体能力を向上させるスキルを持たない常人には到達できない領域。ミサイルの着弾地点とは大きく離れたところに一瞬で移動できた……はずだった。ミサイルが弾道を変えて俺にめがけて飛んできた。


「ホーミングか……」


 標的を俺と決めた以上、ずっと俺を追尾する。流石に筋肉のリミッターを外したところでミサイルの速度を上回り続けることは事実上不可能だ。俺は、筋肉のリミッターを外すことで受けるダメージは無効化できても、スタミナの減少までは無効化できない。跳躍し続けるといずれスタミナが尽きてミサイルに追いつかれてしまう。


 なら、逃げ回るよりは迎撃する方がいいだろう。俺は手に気を集中させた。そして、その集中した気を弾にして放った。


鶴晄弾かくこうだん!」


 俺が荒行の末に身に付けた遠距離攻撃の必殺技。それをミサイル目掛けて放った。両手から放たれた2つの黄色い気弾がミサイルに激突して、爆風を巻き起こす。その爆風に煽られてるも、ミサイルの迎撃に成功した。


 いくらダメージを受けないと言っても、体力と体内に流れる気には上限がある。もちろん、その上限も厳しい鍛錬によって向上させてはいるが、無限ではない。そろそろ遊んでないで止めを刺してやろう。


「天駆!」


 俺は天駆の術を使って体を宙に浮かせた。そして、そのまま合体ロボに向かって急接近をする。その勢いそのままに合体ロボの胸部に思いきり蹴りを入れてやった。もちろん、リミッターは解除済みだ。


 金属が衝撃を受ける甲高い音が島に響く。俺が蹴りを入れた箇所がベコンとへこんでいる。どうやら、人間の肉体でも脳のリミッターを外した状態で攻撃をすれば金属にダメージを与えることは可能らしい。まあ、俺の場合は怪我をしないことがわかりきっている。反動ダメージを嫌って無意識に力をセーブすることはないからこそ出せる威力ではある。


 ダメージを受けて巨大ロボットがよろめいている隙に今度は拳で思いきり殴りつけた。普通なら俺の骨が変形するであろう程思いきり金属を殴りつける。しかし、怪我ないのスキルのお陰で変形するのは相手だけのようだ。


「俺はお前らなんかに負けない。お前らがハゲだと切り捨てた男の力を思い知るが良い」


 俺は深呼吸をして……肩の力を抜き、思いきりロボを殴りつけた。1発、2発、3発。とにかく殴り続けた。こいつが壊れるまで殴るのをやめない。体感時間5分ほど全力で殴り続けた。その結果、俺の足元に転がっているのは、破片となった金属の山。流石にここまでスクラップにさせられたら、変形も合体も修復もできないらしい。


 俺は勝利した。追放されてからの初めての対人戦。初めてとは思えないくらいヘビーな相手だったけれど、俺のスキルが強すぎたお陰で楽々と勝つことができた。



「おお、カムロ。なんだこれ。お前が仕留めたのか」


 金属片の山を見てマルガリータが呑気にはしゃいでいる。ついさっきまで俺は激しい戦闘をしていたと言うのに。


「マルガリータ……俺はキミの存在に感謝している」


「お、どうした? 急に?」


「もし、この無人島で誰もいなくてひとりぼっちだったら、俺の心はとっくに折れていたかもしれない。誰かと一緒にいられること。それが幸福なことだとマルガリータが教えてくれたんだ」


「ははは。まあ、私としては、無人島なのに人がいてびっくりしたけれど、まあ、カムロは良い奴だったから楽しめたぞ」


「こちらこそ本当に楽しかった。ありがとう。マルガリータ。そして、さようならだ」


 俺は心の底からこみあげてくるものを抑えられなかった。体の傷はいくらでも無効化できる。しかし、心の寂しさまでは無効化できない。


「俺は本土に戻る。この金属片。それを操っていたやつの気の残滓ざんしが残っている。仙術スキルを持つ俺ならば、その気の持ち主がどこにいるのか感知することが可能だ」


「おお。凄いな仙術って。万能にもほどがあるぞ」


「ああ。その分、長い年月の修行か体がぶっ壊れかねない程の修行。どちらかが必要になってくる」


 幸い俺の体は壊れることはないから、短期間で済む後者の方法を選択できた。普通ならばそんな方法を取り続けたら命に関わるから、仙術スキル持ちはある程度年齢を重ねた者でないと強くて万能な存在にはなれないのだ。


「人里の方向はわかった。俺の戦闘能力もかなり高まっていることも実感できた。なら、もうこの島から出て……ハゲに厳しいこの世界を粛清する。それが俺の使命だ」


 俺は拳を握りしめて決意を固めた。俺のスキルだって決して無敵ではない。拘束されたら終わりだし、肉体は無傷でも精神にダメージを与える攻撃だってこの世には存在する。俺の能力がバレてしまったら、積極的にそういった刺客を向けられるのはわかっている。だから……世界を相手に喧嘩をしかけるってことは、俺が生き残れる保証がなくなるということ。


「マルガリータ……俺は必ず世界を変える。世界がハゲに優しい世の中になって欲しい。だから、そのために戦ってくる。そして、その戦いが終わったら必ずここに戻ってくる。それまで待っていてくれ」


「ああ、なんか知らないけどわかった。私、カムロが帰ってくるまで待ってる」


 俺は無言で頷いた。そして右手を天に掲げて空から雲を召喚した。


筋斗雲きんとうん!」


「おお、なんだその雲は」


「俺は空を飛べるけれど、ここから本土までは距離がある。体力、気力共に持たない可能性がある。筋斗雲は召喚する時に気力こそ消耗するものの、後は体力と気力共に消費はしない。短距離なら小回りが効いて初速が速い天駆が便利だけど、長距離移動なら消耗がない筋斗雲の方が優れている」


 俺は筋斗雲に乗り、マルガリータの方を振り返った。


「それじゃあ行ってくる」


「おう!」


 俺は筋斗雲を発進させた。もう振り向かない。ハゲの人権を手に入れる。その日までは。待っていろ国家。覚悟しろ人類。そして震えて眠れ親父。俺が実の父に裏切られてどれだけ苦しい想いをしたか。思い知らせてやる。



「お、おい。看守。例のハゲが本土に向かって移動しているぞ」


「な、なんだって!? 88番。それは本当か?」


「ああ、俺はあの戦闘で密かにハゲに発信機をつけた。その発信機が物凄い勢いで本土の方向に移動しているんだ」


「なるほど……報告ご苦労だったな。お前はもう休んでいいぞ永遠にな」


 看守は腰につけていた拳銃を俺に向かって突きつけてきた。


「な……なにをするんだ」


「失敗した愚図はいらない。お前がハゲの始末に失敗したら、始末しろと上から言われてな。悪く思うな」


「ま、待ってくれ! 俺はまだやれる。それに、発信機の位置情報を知っているのは俺だけだ。奴の位置を特定するために俺は必要……」


 最後に俺が聞いたのは銃声だった。目がかすみ、耳も聞こえなくなって……思考も段々と……にぶく……


「心配するな。不毛な大地と本土の最短距離を結べば奴の凡その移動ラインは把握できる。そこを迎え撃てばいいだけだ。それに……奴は仙術スキルを持っている。恐らくお前の気を追って本土の位置を特定したのだろう。だから、お前が生きていたら逆に位置を特定されて困るんだよ」


 最期に聞いた声は冷たく言い放たれたそれだった。

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