第13話 異常事態
ドローンが撮影していた映像は確かに立ち上がっていたハゲを捉えていた。あの野郎。やっぱり生きてやがったか。
「仙術スキル持ちで俺の機関銃を受けて無事だってことは……やはり肉体を硬化する術を使えたか。だが、所詮は肉体を固くしてダメージを軽減しているだけに過ぎない何発も何発も撃ち込めばダメージは蓄積されてやがて倒せる」
「ん? ダメージ?」
看守の野郎が何やら顎に手を当てて考え込んでいる。だが、作戦なんて考えるまでもねえ。このままハゲ野郎を的にハンティングゲームをしてやる!
「撃てぇー!」
ドローンから機関銃を放つ。バカなことに立ち上がった
「ははははは! ハゲが! 俺様のドローンに踊らされて死ね!」
「待つんだ。88番! 銃を撃つのをやめるんだ」
看守が俺を慌てて止めに入る。しかし、既に撃ち込んだ弾丸は急に止まらないし、止める気もない。
「止めろと言っているんだ!」
看守が声を荒げて机を拳で叩く。
「なんで止める必要なんかあるんだよ。やつは所詮肉体を硬質化しているだけに過ぎない。このまま撃ち続ければいずれ勝てる相手だ」
「違う……異常事態だ。奴の体をよくカメラに映せ」
「あ?」
俺は看守の一旦は看守の言う通りにして、銃撃を中断した。そして、奴の体をまじまじとカメラで撮影する。特に変わった様子がない。
「なんだよ。奴の体に何もないじゃないか。今度つまらないことで止めたら、次はお前がドローンの餌食になる番だぞ」
「やはりか……奴の体に“特定の何か”があるのは良い。それは自然の摂理だ。特に問題はない。しかし、それがないってことの方が問題なんだ」
「は? 回りくどいこと言ってんじゃねえよ! 何がないのが問題なのかすっと言いやがれってんだ!」
看守は深呼吸して口を開く。
「88番。お前のその銃弾は普通の銃弾となんら変わらないんだよな?」
「何が言いたい」
「弾丸を撃ちだすには火薬が必要だ。そして、撃ちだされた弾丸には必ず“熱”がこもっている。故に弾痕にはその周囲に“焦げ跡”が残るんだよ」
看守のその言葉を聞いた瞬間、俺は全てを理解した。意味が分かると怖い話のオチに気づいた。そんな血の気が引くような感覚を覚えた。あのハゲの体に一切の焦げ跡……即ち、火傷がないのだ。いや、肉体だけじゃない。単に硬質化の能力だけならば銃で撃てば服に何かしらのダメージがあるはず。だが、ハゲの服は……全く綺麗なままだった。それどころか、無人島生活を長年しているとは思えないくらい、服が綺麗だった。その時点で気づくべきだったと今悟った。
「バカな! 肉体が硬いだけなら防げるのは物理的なダメージなだけだ。熱を防ぐ方法はないはず。なのに、奴は銃弾の熱を受けても平気なのか!? なあ、仙術にそんな火傷を防ぐ術があるのか!?」
俺は看守をちらりと見る。しかし、看守は俺から目を逸らす。看守自身この状況を理解しきれていないのかもしれない。
「いや……人類は長い歴史の中でスキルを研究し尽くしているはずだ。そんな仙術にそんな効能が発見されていたのならば、我々の耳に入らないはずがない。つまり、奴は仙術以外の方法で攻撃を防いでいる」
「仙術以外のスキルって……奴のスキルはハゲるだけのスキルのはずじゃねえか!」
たかだが髪の毛が抜けるだけのスキルにそんな有効があるわけがない。髪の毛が抜けるだけ……毛がなくなるだけ……けがない……けがない……?
「ま、まさか……なあ、あのハゲのスキルの名前は“けがない”じゃないのか?」
「ん? ああ。そうだな。上からはそのように伝え聞いている。それがどうした?」
「そのスキルは毛がない……じゃない。怪我ない。つまり、どんな怪我をも負わないスキルじゃないのか!?」
「な、なんだと! 88番! いい加減なことを言うな。あんな人もどきのハゲがそんな強力なスキルを持っているわけが……」
看守が語気を荒げる。しかし、そうとしか考えられない。全ての状況が俺の仮説の正しさを物語っている。
「お、俺はもう降りるぞ。こんなやベえ奴と戦うくらいなら一生ムショ暮らしの方がマシだぜ」
「ま、待て。まだお前には切り札があるだろ。せめてそれを使ってからにしろ。じゃなきゃ、お前の罪状を死刑に変えるぞ」
ちっ。好き勝手なことを言いやがって。看守程度にそんな権限がないくせに。でも、ムショ暮らしをするとなったら、看守の機嫌を損ねるのは良くないことだ。朝食のパンをカビたものを渡されたらたまったもんじゃない。つまり、俺に選択肢はない……か。
「チッ、わかったよ」
俺は、俺の仮説が間違っていることを祈るだけしかなかった。
◇
「ふう……やっと銃撃が収まったか」
このけがないのスキルを手に入れてからは痛覚と無縁になった。それでも何度も何度も銃弾を撃ち込まれると痛くはないけど、鬱陶しくはある。
プロペラ音が四方八方から聞こえる。俺は周囲を見回すとドローンがこちらに向かって飛んできている。なるほど。1機だけでは、不十分だと判断したから複数で俺を撃ち続ける作戦に出るわけか。しかし、無駄だ。俺の能力は“怪我ない”。つまり、銃弾を何発、難十発、難百発、何千発撃ち込んでもかすり傷1つ負わせることはできないのだ。
ドローンは1か所に集まった。するとドローンは互いに密集し始めて形が変形していく。ガシンガシンと金属がぶつかりあう音が聞こえたかと思ったら、あっと言う間に全長5メートルほどの人型巨大ロボットが完成した。
「おいおい。なんだこいつは。巨大ロボットなんてドローンの域を超えてるじゃねえか」
巨大ロボットの右腕がドリルに変形する。そして、そのドリルをこちらに向けると、超高速で回転させる。キュィーンという歯医者で聞こえると生理的に嫌悪するような甲高い音が島に響き渡り、そしてそのドリルは俺に向かって発射された。
避ける必要はない。俺はドリルを受け止めようと足を踏ん張った。俺の体よりも巨大なドリルが俺の胴体に突き刺さろうとする。俺の腹が何とも
俺は超高速で回転するドリルを両手でつかみその動きを止めようとする。普通ならば押さえつけようとした手が吹き飛ぶほどの威力だろう。しかし、俺は一切のダメージを受けない体。回転で弾かれることもなくドリルを受け止めてその動きを鈍らせる。
無回転状態になったドリル。俺はそれを地面に投げ捨てる。ドスンという地響きが聞こえる。
「ふう。脳のリミッターを70パーセントほど解放したお陰で、それなりに重いで済んだけれど……このドリルも凄い重量だな。人間の力で持ち上げられるようなもんじゃねえぞ」
一連の流れを見て巨大ロボットが半歩後ろに後ずさった。どうやら、操縦者の素直なリアクションが反映されたんだろう。この刺客自身、俺の強さが全くの想定外だったはず。
「あー。ドローン使い。俺の声が聞こえてるか? まあ、聞こえてようがどうでもいいか。お前が何者かに依頼されて俺を始末しにきただけならまあ、同情はする。けれど……同情で俺の報復がなくなるかどうかは別問題だ。ドローンをスクラップにした後、本土に戻ってお前を探し出して半殺しにしてやる。覚悟しろ」
俺は巨大ロボットに向かって人差し指を突きつけて宣言した。
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