第12話 ドローン、不毛の大地に立つ
木の槍の柄の部分を地面に埋める。鋭い先端部分に自らの足を乗せる。普通ならば足が槍で貫かれてドチャクソに痛い思いをするはずだが、俺は全くダメージを受けない。だが、バランス感覚を取るのは難しい。俺は片足で器用にバランスを取り、体内にある気功を丹田へと溜めた。
仙術の基礎修行。バランスを取りながら、体内の気のエネルギーを練りこむことで気のエネルギー量とコントロール等の基礎的な能力を上げることができる。バランスを取る足場は鋭ければ鋭いほど効果が上がる。普通ならば、貫かれてしまう程の鋭い足場も俺のスキルがあればノーダメージでできる。俺は常人の数倍の速さで仙術を極めつつあるのだ。
この不毛の島に来てからどれくらいの年月が経ったのかはわからない。最初は太陽が昇る回数を数えていたものの、曇りの日や雨の日でカウントがズレたせいで日数計算が途中でわからなくなった。体感では、1年から2年くらいは経っていると思う。
俺はその間に修行を積み、使える仙術も両手の指じゃ足りないくらいにまでは習得できた。仙術は過酷な地で修行するほど効率良く成長できると言われている。この不毛の大地。2年間で得た経験値は恐らく十数年分にも等しいだろう。
俺が神経を研ぎ澄ませて集中していると遠くからプロペラの音が聞こえてきた。妙だな。このエリアは、航空経路にないのか、この数年間で1度も飛行機が飛んできたことがない。個人のプロペラ機がこの島にやってくる理由も想像できないし、もしかして、ヘリを操縦中にトラブルに巻き込まれてこの島の付近に不時着するつもりなのか?
恐る恐る空を見上げてみるもそこには飛行機の姿はなかった。しかし、プロペラの音は近づいてくる。この音は……近いぞ! まるでこの島を低空飛行で移動しているようだ。俺は耳を澄ませてプロペラが聞こえる方向を特定しようとした。人間の耳では音の方向の特定は難しいけれど、俺は仙術を極めつつある男。気のエネルギーを耳に集中すればその集音性は抜群に上がる。
「こっちか!」
俺はプロペラの音がする方を見た。そこにあったのは1機のドローンだ。
「ドローン!? どうしてこんな無人島にドローンが!?」
ドローンはキーガー……と不気味な金属が軋む音を立てながら、ピロピロという電子音も混ぜつつ変形する。ドローンの下部に明らかに機関銃のようなものが取り付けられる。そして、その照準は俺に向いていた。
「このドローンが何者かは知らない。けれど、俺を殺そうとしていることは理解できた」
このことはマルガリータは知っているのか? そもそもの狙いが俺だけだったならまだ良い。けれどマルガリータも抹殺の対象だったら、こいつを取り逃がすわけにはいかない。俺はダメージを受けない体質だけど、彼女は違う。戦闘では絶対に負けることはないけれど、妙な緊張が走る。マルガリータの安全を確保するためにも、このドローンは破壊しなければならない。
キーンと拡声器の電源が入った後のような音が聞こえた。そして、ドローンから声が聞こえる。
『そこのハゲに告ぐ。そこのハゲに告ぐ。貴様に恨みはない。繰り返す。貴様に恨みはない。でも、貴様には人権がない。だから……俺の趣味のために死んでくれ!』
そう言うや否やドローンの機関銃が発射された。俺はつい、前転して射線から抜け出して、その射撃を反射的に避けてしまう。多分、この機関銃も効かないんだろうけど、それでもやはり痛そうな攻撃を受けてしまうのは人間の本能なのだ。
それにこのドローンが何者かが分からない以上、俺のスキルの詳細がバレるのはまずいかもしれない。俺がダメージを無効化する能力を持っているとバレたら、厄介なことになる。他の方法で俺を無力化してくるに違いない。どんな強力なスキルも相手に情報を知られてしまったのなら、弱点を突かれてしまう。俺のスキルも完全無欠ではない。突こうと思えばいくらでも穴はあるのだ。
『中々いい反応だな。楽しませてくれる。やはり、ハンティングゲームは獲物が逃げてこそ意味がある。逃げねえ獲物を撃つなら的を撃ってた方がマシだからなあ!』
ドローンが角度を変えて再び俺に照準を合わせる。どうやってこのドローンを操作しているかは知らないけれど、操作精度が高いような気がする。ドローンって、こんなに小回りが利くのか?
『ジ・エンドだ!』
その宣言と共に、機関銃が素早く放たれて、俺の体を直撃する。銃の
『ぜーはーぜーはー……ま、まだ倒れねえのか?』
何発も機関銃を撃っているのに一向に倒れない俺に疑問を呈す操縦主。仕方ない。ここは倒れたフリをしてやるかと思い、俺はその場でうつ伏せの姿勢で倒れた。仰向けの状態だと銃創がないのがバレるからな。
◇
「よし、やってやったぜ看守さんよお。ハゲを見つけ出して抹殺までしたんだ。こりゃあステーキ一ヶ月分は硬いんじゃないか? あ、でも1ヶ月連続は流石に飽きるから、1週間分のステーキを4回に分けてたまに出るご褒美的な演出をしてもいいんだぞ」
「……確かにお前は例のハゲを見つけた。しかし、まだそいつを倒しちゃあいない」
「なんだと!?」
俺は看守の言葉に不快感を露わにした。俺の機関銃を受けてこの世に生を受けているものがいるわけがない。俺のスキルは汎用性、戦闘力共にトップクラスだ。俺よりも強い遠距離攻撃の使い手なんて見たことがない。
「あいつの背中をよく見ろ。あれだけ機関銃を撃ったのに1発も銃創がない。1発撃っただけなら弾丸が体内に留まっている可能性も考えられたが、少なくとも数百発は打っている状態で全ての弾丸が貫通しませんでしたは通用しない」
「確かに。言われて見れば血が1滴も出ていない……」
どういうことだ? 完全に頭が混乱してきた。機関銃を食らって生きていられる人間がいるわけがない。考えられるのはスキルを使って防いだか……だ。そう多くはないはずだ。俺の高威力の機関銃を防げるスキルを持っている者は。
「88番。奴のファーストスキルは“仙術”だ。仙術の中には肉体硬質化の術“堅硬”がある。奴は肉体を硬質化させて機関銃を防いだのかもしれない」
「い、いや。いくら肉体を硬質化できるからと言って、機関銃を防げるレベルにまでは……」
「戦術は辛く厳しい環境であればあるほど修行の効率が良くなる。奴がいる不毛の島は正にこの世で最も過酷な場所と言っても良い。そんな環境で2年間も修行していたら、肉体硬質化の術も磨き上げられるだろう」
そんなバカな話があるか。人間が機関銃を耐えるだと? それを仙術とか言う古代からあるかび臭い古びたスキルで……だぞ。全く納得できない。
「く……そんなかび臭いスキルが俺の最新鋭のスキルに敵うわけないだろ!」
◇
『そんなかび臭いスキルが俺の最新鋭のスキルに敵うわけないだろ!』
その声とうつ伏せになって倒れている俺に向かってドローンは機関銃を撃ち始めた。当然この姿勢では避けることができずに機関銃が直撃してしまう。
なんて奴だ。明らかに倒れている相手に更に追い討ちをかけるように機関銃をぶっ放してくるなんて。死体蹴りもいい所である。こんな鬼畜野郎に負けたくない。そう思った俺は、銃弾の雨が降り注ぐ中、ゆっくりと立ち上がってドローンに搭載されているカメラに向かって睨みつけた。
「気が済んだか? 今度はこっちが“狩る”番だ。覚悟はいいか?」
俺は体内の気を全て解放して爆発的な力を引き出した。
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