第7話 犬

「なぁ、『犬』って居るじゃんか? あのデカイやつ」


 キジトラの言葉に全員が振り返る。今日のメンバーはキジトラ、アメショー、茶トラ、クロの4にんだ。


「小さいのも居るから一概にデカイとも言えないけど、犬がどうしたって?」


 クロが代表して言葉を受ける。対応がややキツイのはミケを巡ってキジトラとライバル関係にあるせいかも知れない。


「あいつらってさぁ、いつもニンゲンに紐で繋がれているじゃん? アレ嫌じゃないのかなぁ?」


 キジトラの素朴な疑問。しかしメンバーの中に過去に紐を付けられた者はおらず、その良し悪しを実感で語れないでいた。


 黙り込む一同を前にキジトラは言葉を続ける。

「最初はニンゲンが犬を縛り付けて、言う事を聞かせる為に付けているのかと思ったけど、大抵のニンゲンは犬に引かれるだけで犬の動きを制限しようとはしてないんだよ」


「まぁ猫だったらあんな紐を付けられるのは絶対に嫌よねぇ。でも傍から見る限りは、あいつら凄い嬉しそうに散歩してるわよ? 実は紐で縛られるのが好きなんじゃないの?」


「紐を付ける事と散歩に何らかの相関関係があるのかも知れないね」

 アメショーの予想にクロが補足をする。


「そもそもあの紐は一体どう言う意味があって付けてるんだ?」


 茶トラも疑問を口にする。茶トラは犬ともよくケンカをしており、犬の生態や行動原理には一家言あったが、あの謎の紐については彼も長年疑問に思っていた。


「あの紐はニンゲンと散歩する時に使う物だろ? もしかして犬じゃなくてニンゲンの方が嬉しくて紐を付けているのかも知れないな」


 キジトラも改めて自分の考察を口にする。何となくだが言ってて手応えがあった。自分の言葉は限りなく真実に近いのだとキジトラは確信した。


 珍しく意見が多く出され、駐車場は猫達の侃々諤々の議論で、大手商社の会議室もかくや、と言う程に盛り上がった。


 そして最終的に得られた結論は

「足の遅いニンゲンの運動の為に、犬が引っぱってやっている」

 であった。

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