第2話 顔見せ

 夕方近く。キジトラが午睡をしている時に1匹の黒猫がやって来た。


「やぁ、お邪魔するよ。俺の名は『クロ』。最近この辺に引っ越してきてね。挨拶に寄らせてもらったよ」


 本当に眠りを『お邪魔』されたキジトラは迷惑そうにクロを一瞥して、興味なさげに視線を外した。

 言葉を交わさず、尻尾をユラユラさせて『勝手に座れ』と促す。


 もう少しすれば他の猫もここに集まってくるはずだ。その時に改めて自己紹介してもらえば良い。

 クロもそう思ったのか無言のまま、ややキジトラから離れた場所に寝転がる。


 間をおかず茶トラが現れ、次いで飼い猫のミケが顔を出す。最後は老野良猫のブチが現れる。今日の面子はこんな物だろう。


 新顔のクロは整った毛並みをしている。キジトラは「こいつも飼い猫で温かい場所で飯の心配もせずにのんびり暮らしてやがるんだ」と嫉妬に似た嫌悪感を抱いた。


 面子が集まった所でクロが動き出した。

「じゃあ改めて。俺は『クロ』、2丁目に越してきた若松んちの飼い猫だ。以前はもっと温かい所に住んでたんだがここは寒いな」


「あら、私も2丁目よ。高倉の家に住んでいるわ」

 ミケが話に乗ってくるが、茶トラとブチはこの新参者には全く興味が無さそうだ。


 密かに狙っていたメス猫のミケの関心までクロに持って行かれてキジトラは面白くない。そもそも『ニチョーメ』と言うのが何なのか分からない。


 そんなキジトラの前を、地面を走る1匹の虫が通り過ぎた。

 漠然としたイライラをその身に抱えたまま、大した理由も無くキジトラは虫へ爪を振り下ろした。


 キジトラの攻撃により虫は一撃で半死状態になってピクピクと蠢いていた。二度三度と前足を使って虫を叩くキジトラ。


 楽しげに話すクロとミケの事をいつしか忘れ去っていたキジトラは、ただひたすらに虫いじめに勤しんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る