【完結】ねこかいぎ

ちありや

第1話 ひなたぼっこ

 C県G町の某駐車場の昼下がり。ここには時折色々な猫が集まって来る。

 車の出入りは朝と夕方だけなので、猫達はゆったりとおしゃべりや昼寝を満喫できる魅惑のスポットなのだ。


 猫達は声は出さない。声を出さなくても意思の疎通ができるからだ。声を出すのは繁殖期と外敵と戦う時、そしてから餌をせしめる時だけだ。猫はそれで充分なのだ。


 駐車場の陽当りの良い場所に1匹の猫が横になっている。彼はキジトラの野良猫で、このお話の主人公的存在である。

 主人公と言っても何をする訳でも無い。基本的にダラダラと横になって他の猫と話をするだけだ。

 彼を主人公足らしめている要因は、その性格や能力では無く、単にその出席率によるものが大である。


 季節は冬ではあるのだが、アスファルトの上でお日様の光を浴びていると、とてもポカポカして温かい。

 今キジトラが占拠している場所は、駐車場の中でも最も日照時間の長いベストポジションだ。先駆者の特権でヌクヌクしていたキジトラの元に1匹の猫がやって来た。


 体の大きな茶トラ。彼はこの辺りのボス猫でケンカも強い。

 キジトラと茶トラの視線がぶつかる。今、壮絶な陽当り場所争奪戦が始まろうとしていた。


「なぁ」


「なんだよ?」


「その場所、譲れよ」


「嫌だよ、早い者勝ち」


 茶トラの瞳に怒りの色が浮かぶ。再びぶつかる2匹の視線。


「そうか」


 茶トラはそう言うとキジトラの50cm程離れた場所に腰を下ろし横臥した。


 2匹はそのまま言葉を交わすことなく、2時間ほど滞在してお互いの住処に帰って行った。

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