第46話 嘯く戯れ言と血の花園

「あ、やっちまった」


「あああぁあああああああああ!!!!!」


 先程、監視カメラに向けて掛けた暗示。聞こえる位置に居た白衣の男も掛かっているみたいだ。


 掛けた暗示は、『首に虫が湧き、自身の皮膚を食い破られる』というもの。監視カメラを覗いていた者、この声が聞こえる範囲にいた者は暗示に掛かり、自身の首の皮膚が破れるまで掻きむしっている事だろう。


 捕まえている白衣の男は両腕を折っているから、首を掻きむしる事も出来ない。五月蠅いが仕方ない。


「あああ! 虫が! 蛆が! あああぁあああああああああ!!!!!」


「うるさ」


 やっぱダメだ。傘に仕込まれたショットガンで下顎を吹き飛ばす。


「っーー!」


 まだ息があるのか。


「はっははは……チッ、はっきり喋れ」


 人間台のウジ虫がモゴモゴと呻いていても気持ち悪いというもの。足音が複数聞こえる。廊下の突き当たり、恐らく警備兵が幾人か集まってきているのだろう。


「わざわざご苦労様だね」


 一、二、三……これくらいかな。


「(お前の目の前に、化け物がいるよ)」


 一瞬の間を置いて……


「「「うあああぁああああああぁあ!!!!!」」」


 重なりった悲鳴は、不協和音。汚らしいコーラスのよう。続いて銃声。怒号。肉が裂ける音。人が死ぬ音。赤い赤い赤ぁい液体が白く無機質な床を満たしてゆく。


「あっははっはははははっはは!!!!」


 無数の悲鳴と怒号、銃声が聞こえて笑いが止まらない。警備兵達は味方同士で殺し合っている。『視界に映る者が、恐ろしい化け物』に見えているのだろう。恐ろしい基準は人によって違う。もしかしたら、可愛らしい子猫が恐ろしい者もいるのかも。


 銃声の方向へ歩み出る。丁字状の通路には両サイドを挟むように兵士がいるが左手に白衣の男を盾にして安全を確保。右手は防弾加工のある傘を開き散弾を数発ほど発射。生き残りを掃除する。


「何だ、二人しか残らなかったのか」


 右、全滅。散弾を撃つまでに起き上がっていたらしいのは二人ほどしかいなかった。左はさっきから銃声すらしない。


「あっはぁ!」


 左は殆どが同士討ちで死ぬか、生き残っても虫の息。


「先を急がなきゃ」


 兵士達の頭や腹から溢れる臓物は何だか花のよう。通路の影から兵士が顔を出す。


「死ねや!」


 怒声と共に発射された弾丸を、傘を向け防ぐ。短機関銃程度では、この傘は貫けない。


「開花予想、桜~♪」


 勇気ある兵士に悪意を込め、散弾発射。顔の半分を消し飛ばし、絶命。咲いた花は椿に似ていた。


「残ぁ念。季節がまだ早かったか~」


 端から見れば正気を疑う光景。少年は人の頭を吹き飛ばし、花の名前を口にする。しかし、少年の視界では溢れ出る血と臓物は紛れもなく花だった。


「彼岸花」


 兵士の死体からナイフを奪い投擲。投げた先で兵士の喉に刺さり、血の泡を吐きながら倒れる様は……


「どっちかというと柘榴ざくろだな」


 泡の丸みが柘榴ざくろの種のよう。左手に持ってた白衣の男のは動かなくなったから捨てた。


「また来た……次は石楠花しゃくなげ!」


 後ろから来た二人を振り向かず傘を閉じ、左脇から出して連続発射。振り向き傘を開く。先程の威嚇射撃で傘に仕込んだショットガン内の弾が切れた。腰のポーチから出して装填。その間も二人の兵士は近づきながら撃っているが虚しく傘に弾かれる。装填を終え、当てずっぽうで発射。


「おっ、やりい!」


 こちらの弾が切れたと予想したのか。突貫してきた二人は至近距離の射撃により、腹部からピンク色の内臓をこぼしていた。おそらく調度、二人分の臓物。複数のピンク色の花が重なる石楠花しゃくなげだろう。


 研究所中に警戒態勢を促すアナウンスがなっている。溢れる笑みはそのままに。監視カメラが、司令室にも映っているならば効果がある。先程とは別の監視カメラを見つけ、目線を合わせる。


「(ああ、君の脳に怪物の卵ぁ! 取り出さないと生まれちゃう!)」


 そう叫ぶと研究所のそこかしこで悲鳴が聞こえる。アナウンスは機械音声だから分からないが阿鼻叫喚の地獄になってたら良いなぁ。


「まだまだ花が見足りないよ」


 ショットガンの確認をする。

 異常なし。まだやれるね。


 使えそうなナイフや拳銃を警備兵の死体から漁り、ある場所を目指す。忘れたくても痛みと共に記憶に焼き付いて離れない。


「ただいま、『スギノ園』」


 廃棄場から直結している孤児養成、実験を行う『スギノ園』。警備が混乱してる間に襲撃し、実験施設を破壊しなければ。


 もう自分のような悲しい人でなしが作られてしまわないように。


 


 




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