第15話 心傷風景 ケース2「壊、戒、解」

 カーン。カーン。


 妙に明るい。

 薄紅の光。


 カーン。カーン。


 傾く太陽。しかし、いずれは沈むと言う確信だけがある。

 あり得ないほどの大きさでこの風景の中心に鎮座する。


 カーン。カーン。


 その太陽へと伸びる一本道。


 カーン。カーン。


 その道端に崩れかけた墓標。

 一本道に沿って、まるで柵のように並んでいる。


 カーン。カーン。


 道端の墓石に、文字を刻む音。


 カーン。カーン。


 色素の薄い髪の小さな子供。

 しかしその顔には黒い靄がかかり、表情を伺うことは出来ない。


 カーン。カーン。


 少年は刻み続ける。

 右手に金槌、左手にノミを持って。


 カーン。カーン。


 仲間の弔いの為に。


 カーン。カーン。


 自らの戒めの為に。


 カーン。カーン。


 少年の胸ポケットには桜に似た花。


 カーン。カーン。


 何でその花を持ち続けるのか。

 少年自身分からない。


 カーン。カーン。


 ただ意味すら忘れた、その後悔も。


 カーン。カーン。


 汚泥を積み上げた日々も。


 カーン。カーン。


 全ては君の為に。


 カーン。カーン。


 あぁ、■■。


 カーン。カーン……


 音が止まる。


「会いたいよ」


 ただ一言だけ。

 その一言だけが、夕暮れの世界に響いた。



 

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