第12話 穏やかな昼飯と唾棄すべき提案
4限目 数学
「おい、来島。教科書23ページ、問3の回答を頼む」
何をとち狂ったのか教師様は、自分をご指名。寝ていたが、そのページの回答部分の時だけ、奇跡的に起きていた。
「Y=2、X=12です!!」
声を張って、堂々と答える。
「うん、間違いだ。だが元気があって非常によろしい」
「はい!!」
大抵これでなんとかなる。それより空腹がそろそろ限界なので、早く昼休みにならないだろうか。
ゴルルルルルルぅぅぅ……
ほーら、腹が鳴っちまったじゃないか!恥ずかしい!
「獣のうなり声みたいなのが聞こえたぞ! 野犬でも入ったのか?」
(ああああ、先生お願いですから騒ぎにしないでぇ!)
声も随分情けないことになっている。
顔が熱くなる程の羞恥に襲われる。
そっと目線を周囲にやってみると、明石と目が合う。するとすぐに目を逸らされてしまった。
(あ! この子、笑いこらえてる!)
自分の赤面具合で分かってしまったのだろうか。何にせよ、もう……
「はっずかしィ……」
散々な4限目を経て、やっと昼休みになった。
とりあえず、チャイムがなると同時に教室を飛び出す。
一目散に目指すは体育館裏。伏見先輩に先日のクリームパンのお礼をせねば。
校舎と体育館をつなぐコンクリート製の道に差し掛かる。
「おーい、黒ボクサーパンツ!」
「申し訳ないのですが、今日は青のトランクスです!!」
先日の自己紹介で、自分の下着も一緒に紹介したのを覚えていてくれたらしい。
「別に君の今日のパンツに興味はないんだけどねぇ」
相も変わらず、短いスカートでご登場の伏見先輩。自分を見つけて、来てくださったではないか。
「(先輩はパンツ見えそうで怖いです)」
「パンツくらいで興奮できるとは、初心だねぇ」
ケタケタと先輩は笑う。
「あ、先輩。これ昨日のお礼です」
先輩に、コンビニ限定ジャムパンを献上。
「ほほう、分かってるじゃないかぁ」
先日もクリームパンはくれたのにジャムパンはくれなかった事からも、その執着度が分かるというもの……
「では失礼します、先輩。自分これから女の子と食事しようと思ってるんで」
「へー、そうかい。イマジナリーな女の子とお食事するんだねぇ」
「(何故、周りの人は自分を残念にしたがるんですかねえ!!)」
先程恥を晒した教室に戻るというのも、辛いものがあるが仕方ない。
教室へ向かう途中、階段の踊り場。三名の女子が会話している。
通り過ぎて、彼女らの視界から外れる。
嫌な視線を感じ、視界から外れた地点で立ち止まる。
しかし通り過ぎた様子を醸し出すため、徐々に音が小さくなる様に足踏みする。
「あいつさ、明石の男だよね」
「あの傷とかグロいよねー」
「目とかガンギまりだし、薬でもやってんじゃないの?」
聞こえる会話は自分を揶揄したもの。
自分のせいで明石が悪く言われてしまうのは彼女に申し訳ないが、明石の男認定を回りから得られたことに少し喜んでしまう。
「つか、明石ってさ。中学の頃、引きこもりだった癖に、高校デビューかよ」
「きもっ」
「調子乗ってる……」
こういった輩は何処にでもいる。自らの自己肯定感の為なのか、平気で他者を傷つけ、貶める。
「呼び出しして、ボコる?」
周囲を確認する。ここじゃ目が着く。
「いや、学校近くに空き家があるじゃん」
「あー、あのホームレスのたまり場になってる?」
「あそこに明石を呼び出してさ、ホームレスたちに犯させようよ」
(殺そう)
静かに、腑が熱を帯びる。
階段の踊り場へ、飛び降りる。四肢全てを用いて、獣じみた着地。
三名の女子は急に階段上から飛来した、物体に目を見開く。
吐き気を催す提案をしやがった奴に距離を詰める。横目で他の二人が逃げていないかも確認する。
「は、え? なん……」
「騒がないで、静かに」
口を開きかけた彼女には、ご退場願おう。右手に持った空のビニール袋を頭から被せ、壁際まで追いやり左手で首を掴む。
「他二人も動かないでね、じゃないとこの子殺すから」
逃げようとした二人も動きを止める。
(ほう、友人を思いやる気持ちくらいはあるのか)
「ねえ、一応聞くんだけどさ。明石さんが君たちに何かしたの?
……ん。以外と暴れるな。大人しくしてよ」
純粋な疑問を他二人に聞いているのに、人質ちゃんは苦しいのかジタバタともがいている。二人からの答えはない。内一人は果敢にも叫ぶ。
「おい、やめろ!
「へぇ、知花ちゃんっていうのか。ご両親に愛されてそうな、良い名前だ」
笑顔で応じる。首を掴んでいる手に力が入る。
「妬ましいなぁ」
「うっ、あ。ぐうっ」
「やめろ!」
「お願い止めて!」
人質ちゃん改め知花ちゃんはいよいよ苦しそうだ。
「もう一回聞くよ、明石が何かしたの?」
他二人が睨むようにしてこちらを見ているが、睨まれるべきはあなた方だろう。
「何も……してない。てか、こんなの言ってるだけじゃん。冗談だし。本気にするな
よ」
引きつったような笑い方で媚びるような目、これ以上はやめておいた方が良いか……
「あ、そうなの! 冗談か。それはごめんね。早とちりだったよ」
(計画しただけでも罪だ。次は殺してやる)
「くはっ、う。げほっ」
知花ちゃんは解放。ビニール袋も外してあげ、やっと息が出来るようになった彼女は喘ぐように酸素を貪る。余程苦しかったのか、鼻水まで出てる。
「ごめんね」
「ひっ」
知花ちゃんと目線を合わせ、謝罪したが怯えてまともに取り合って貰えない。
(寂しいなあ)
「「知花!」」
他の二人が彼女に近寄る。その二人に顔を限界まで近づける。
「うっ」
「目を逸らすな」
俯けた顔を無理矢理のぞき込む。
「明石に何かしてみろ、お前らの人生滅茶苦茶にしてやる」
さあ、言いたいことは言い終わった。こいつらのせいで嫌な気分になったが、明石と昼飯を食べてリセットといこう。
立ち上がり、教室を目指そうとしたその時。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
まだ自分を見て怯えている三人に向き直る。
「お前ら、マジ許さんからな」
眉間にしわを寄せ、壁を乱暴に蹴る。最大限の不快感を表明。
三人は震えてまともに立ててない。
やり過ぎたかな。
「(まあいいや)」
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