第11話 秘密のプレゼントと見つかった同胞

 明石はコンビニでピザパンとオレンジジュースを選んだ。先輩にはコンビニ限定のジャムパンを選んだ。

  その組み合わせは合うのかと質問したとこ、本当ならよりマッドにするためにエナジードリンクにしたいのを今日は勘弁してくれたらしい。


「貧乏学生で申し訳ない」


 女の子に気を遣わせている様では一流の紳士ジェントルマンにはなれぬというもの。しかも今回自分のミスが発端にあるため、なお申し訳ない。


「いいよ。でも次は一緒にお弁当作ろうね」


 約束をする。守れるか、分からないのに。


「うん。あ、お互いに作って交換弁当なんてどうだろう」


 さらに提案する。約束がせめて貴方をつなぎ止めるくびきになってくれないかと願いながら。


「それ良いね! 私、こう見えても料理得意なんだよ」


「おお、それは楽しみだ。それに、だ。一人暮らしの男飯ナメたらいかんよ。背徳的

 なの作ってやる」


「不健康まっしぐらだ」


 二人とも目元にクマを残しつつ、でも明石のクマは何だか少し良くなっている気がした。


 学校に着く。一木と島田はもうすでに来ていた。

(早くねぇーか?)


 準備は終わったのだろうか。だとしても、あまり喜ばしい準備でないことに気が滅入る。


「優ちゃん、おはよ」


 島田が明石に声をかける。


「おはよ、杏華ちゃん」


 そういえば……

 明石は、自分と話している時はかなり活き活きとした印象を受ける。しかしどうにも自分以外の人物と話すときは、あの抑え気味な声に戻っている。


(信用されてるってか? 自惚れてんじゃねえぞ)


 またが話し始める。本当にこいつ五月蠅いな。

 島田と話す明石の様子を注視する。明石は口元を隠すような仕草……


 左頬、火傷を気にしているのか。

 出かけ前、彼女はいつもどおりなのか。傷のあった部分に肌色の絵の具を使っていた。


「あ、そうだ」


 学校で島田に聞こうと思っていたことを思い出す。明石は自身のロッカーへ何か取りの行ったの見計らい声をかける。


「ごめん、島田。ちょっといいか?」


「は?」


 予想された事態ではあるが、島田の姉御の反応が怖い。普段からこちらに圧を賭けてきている三白眼に睨まれると背筋に冷たい刃物を当てられる錯覚すら覚える。


「うわぁ」


おい彼氏、引くなよ。


「いや、ちょっと相談が……」


「ん、何?」


「そのォ、フンデーションについて教えて頂けないでしょうか」


「ファンデーション、な。何かちょっと汚い感じする間違いやめろ」


 姉御の手厳しい訂正。素で間違えて恥ずかしい。


「どうした? あ、贈り物か」


 一木が納得したかと思えば、ニタニタと下世話な笑みを浮かべる。


「まぁ、うん。そんなとこ……」


 嘘は言ってない。しかし島田の表情は、何故か芳しくない。


「いきなり、化粧品類はハードル高くない?」


「おっと、それは考えてなかった」


 女性目線のありがたいご意見あざます。


「えー、ふあんでーしょん?って水とかで落ちにくかったりするやつある?」


「最近のヤツならありそう……かな?」


 島田本人もあまり詳しくないのだろうか。何にせよ、水彩絵の具を使って火傷を隠し続けるよりは良いはずだ。


「ん~、化粧品は今回止めとく」


「他のやつがイイと思うよ」


 相談すれば普通に親身になってくれる島田の姉御、マジ尊敬します。


「明石の肌質とかもあるだろうし、話し合って決めた方が良いな……」


「ええ、ガチやん……」


 小さく独り言を言ったつもりが一木に聞かれた。


「まあ、初めて私たち以外の友達が出来てはしゃぐのは分かるが、あのアパートにいる時点で患者の一人なんだろ?」


 『心傷風景』解読による心理的瑕疵の克服、その実験および臨床試験の被験者。

 自分の足りない頭でもそれくらい分かっている。

 島田は何を伝えたいのだろう。


「まあ、何だ。距離感を見誤るなよって杏華は伝えたいんだよ。な?」


 一木が補足する。


「ん、まぁ……そういうこと」


 島田らしくない歯切れの悪さだ。何かあるのか?


「あ、そういえば。ゼン。会坂が見つかったぞ!」


「マジか?!!」


 会話に出てきた人物。会坂命あいさかみこと

 脱出した32人の中で一木や島田すら抑え、総合序列一位だった男。

 半年前の襲撃で、行方不明になっていた為、死亡したものと思っていたが……


「どうしてた?」


 別段仲が良い訳ではない。だが同じ施設で育った仲間意識くらいはある。


「ヒキニートしてたよ……」


「ん?」


 聞き間違いの筈だ。だって会坂は割と誇り高い人物だった印象もある。優しく、物静かで施設でいつも本ばかり読んでいた。


 だが、潜伏していたというなら話は分かる。思慮深いあいつの事だ。追手を巻くためだったに違いない。


「一応接触して、話もしたらしい」


「そして、を手伝って欲しいって言ったら、『深夜アニメのリアタイ視

 聴できないから、やだ』だそうだ」


 一木も島田も頭を抱えている。現状我々の最強戦力が深夜アニメによって機能不全に陥っている。


「半年での変わり様がすごいな」


 ……うん、そっとしとこう。


「来島くん」


 明石が自分を呼ぶ声がする。


「バラシ部屋には今日の夜に集合な。詳細は追って連絡する」


 明石の方へ、向かおうとすると一木が予定を伝えてくる。


「了解」


 右手を軽く側頭部に当て、敬礼の真似事をした。







 



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