第4話 サプライズプレゼント

「もうすぐ合格発表の時間だね。マイ、緊張してるのか? 大丈夫だよ。俺が隣にいるからさ」


「……うん。でも、私だけ落ちてたらどうしようと思って」


「マイだけ? 俺の方が落ちてるかもしれないのに」


「ツヨシくんは絶対に大丈夫だよ。学校に来るようになって、あれだけ勉強していたんだから。もともと私はツヨシくんみたいに頭が良くないから……」


「マイだって勉強してたじゃん。俺は知ってるよ。それに、どんな結果になっても、もう俺とマイは付き合ってるんだからさ、受験の結果なんかに左右されて別れるなんてことはないさ」


「……ツヨシくん。ありがとう」


「さぁ時間になったから結果が発表されるよ。あっ、ほら見て! マイの受験番号があったよ! 合格したよマイ!」


「えっ、本当?」


「本当だよ。ほら怖がってないで自分の目で確かめてみろよ。マイは受かったんだよ」


「……本当だ。私、第1志望の高校に受かってる!」


「良かったなぁマイ!」


「……ねぇ、ツヨシくんは?」


「えっ、俺? まだ自分の番号見てない」


「えー! まだ見てないの?」


「うん。そんなに驚くこと?」


「だって、普通は自分の結果から見るんじゃないの? どうして私の番号から先に見てるの?」


「だって、マイのことだから、なかなか見ようとしないでしょ? だから先に俺が見ようかなと思ってさ」


「もうツヨシくんったら。だからこの前、私の受験番号を教えてって言ってたのね。今度はツヨシくんの受験番号を教えて。私も見るから」


「番号は、0187だよ。じゃあ一緒に見ようぜ」


「うん!」


「0163……、0169……、0174……、0175……、0178……、0182……、0185……」


「……あっ!」


「あっ、俺受かってるわ」


「ツヨシくんおめでとー!」


「マイ、ありがとう! 念のためにさ、俺のほっぺをつねってよ。いつもだったら、こういう時にケイコが俺を噛むんだけどさ」


「えっ? そっか、今日はケイコちゃんは家でお留守番してるから。いくよ」


「痛てて! 痛いってことは夢じゃない! 本当に合格してる。最近、嬉しいことが続くなぁ」


「ツヨシくんのお父さんの病気も治って、退院する日も決まったもんね」


「うん。あれだけ俺が心配していたお金のこともさ、母ちゃんの周りの人が様々な制度を教えてくれてなんとかなったんだよ」


「様々な制度?」


「『申請すればお金が入ってくるから』って、自分たちでは知らなかった制度を丁寧に教えてくれたりしたんだよ。たくさん書類は書かないといけなかったけどさ。本当に困ってる時に助かったんだ。正直、俺たち家族が困ってる時に離れていく人たちもいたんだ。良い時は寄ってくるのに、悪い時になると離れていくんだよ。そういう人たちを見て落ち込んだりもしたけど、本当に苦しくて辛い時に支えになってくれる人たちに俺は救われた。マイもその1人だよ。マイのおかげで、俺は高校に合格したと思ってるから」


「私のおかげ?」


「そうだよ。2人であの夕陽を見た時に、俺の心に火がついたんだ。今のままじゃいけないって。大好きな勉強をとことんやらなきゃいけないって。夢に向かって前に進まないといけないって。マイのおかげで心を燃やすことが出来たから」


「……ツヨシくん。私、ツヨシくんに謝らないといけないことがあって」


「えっ、謝らないといけないこと?」


「……うん。革財布のことなんだけど、本当は」


「夢じゃなくて、やっぱり現実に拾ってたんだよね?」


「……うん」


「マイは嘘をつくのが下手だからすぐにわかってたよ」


「じゃあ、どうして?」


「あの時のマイは真剣だったから。まぁ結果的に俺が本気になるきっかけになったから、マイの作戦勝ちだよ。でも……」


「でも?」


「あの革財布はどうしたの? ちゃんと交番に届けたの?」


「……そのことなんだけど。拾ったその日、塾に行く前に交番に届けて、次の日には落とし主が見つかったって連絡があったよ」


「そうなんだ? それはよかった」


「その落とし主の人が凄く感激してくれたみたいで、あのお金が戻ってこなかったら経営しているお店が潰れてたかもしれないんだって。それで……」


「まぁ大金が入ってたからね。それで?」


「どうしても拾ってくれた私たちにお礼がしたいんだって」


「お礼なんて別にいいのに」


「私もそう言ったんだよ。お気持ちだけでいいですって。私たちは受験生だから受験が終わるまではずっと勉強しているのでって。でも、どうしてもって言うし断りきれなくて……」


「……まさか、受験が終わってからお礼をしてもらう約束をしたの?」


「……うん」


「まぁ、マイは断れなかったんだよね。で、どんな約束をしたの?」


「旅費は全て払うから、経営しているお店に招待したいって」


「旅費? そのお店はどこにあるの?」


「ハワイって言ってたよ。ツヨシくん初めての飛行機に乗れるよ」


「あぁー! そういえば、財布の中にハワイ行きの飛行機のチケットもあったね。でも、今回の件は丁重にお断りしよう」


「……うん、ツヨシくんがそう言うなら」


「でもさ、何年後かになるかわからないけど、ハワイに行った時にせっかくだからそのお店にも行こうよ」


「うん!」




 数年後、ツヨシとマイちゃんは、ハワイで結婚式を挙げることになりました。


 チャペルで誓いのキスをして、披露宴会場に移動して次はウエディングケーキ入刀にゅうとうからのケーキバイトです。




「前にツヨシくんが『ハワイに行った時に』と言った時は、まさか私たちの結婚式のことだと思わなかった」


「マイとハワイに来ることが出来て、結婚式が挙げられて嬉しいよ」


「私の子どもの頃からの夢はケーキ屋さんになることだったの。今回初めてウエディングケーキを自分を作ったんだから。いっぱい食べてね」


「普段、マイがパティシエでケーキを作ってることは知ってるけど、そんな特注のスコップみたいなスプーンで一口で食べられないよ……」


「ツヨシくん、大きな口を開けて。あーん」


「あーん」


「どう? 美味しい?」


甘苦あまくるしい……。でも、美味しくて幸せ!」


「良かった。嬉しい!」



 次は、新郎から新婦に向けてサプライズのプレゼントです。



「えっ、私そんなこと聞いてないよ」


「聞いてたらサプライズにならないじゃん」


「……ツヨシくん。プレゼントって何?」


「俺の夢はマイも知ってるけどさ、航空機のパイロットになること。まだ目指してる夢の途中だけど、少数の限られた人しかなれなくて、その為に一生懸命勉強してさ、他人から難しいって言われたり散々馬鹿にされたけど、マイが隣に居てくれたからここまで頑張れたんだ。もうちょっとで夢だったパイロットになれるんだ。だから俺からのプレゼントは、『夢の航空券』だよ」


「……ありがとう。本当に嬉しい」


「泣くなよ。俺がパイロットになったら、どこでも好きな場所に連れてってあげるから。マイは流れ星が好きなんだよね? 空の上で1番近いところから流れ星を見ようよ」


「私こんなに幸せで良いのかなぁ? 嬉しくて夢の世界にいるみたい……」


「ほっぺたつねってみる? 夢じゃないよ。俺はマイのことを愛してる」


おわり






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『夢の航空券』 横山 睦 (むつみ) @Mutsumi_0105

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