別れ
夕方。
サラの容態が急変した。
「サラ!サラッ!!」
ハイデが何度も名前を呼び続けている。
カティアは静かにサラの顔を見つめ、彼女の手を握っていた。
すると、うっすらとサラの目が開いた。
もう限界だろう。
サラの姿は誰からみてもそう思えた。
「お父…さん…最後まで…迷惑…かけて…ごめんね…」
「サラ!そんな事言わないでくれ!お願いだ!」
「カティ…ア…」
「うん…」
「幸せに…なって…ね…ずっと…あなたの…傍にいる…から…」
「お母さん…」
カティアは涙を流しながら、サラの手を自分の頬に当てる。
サラは微笑む。
「ふふ…彼に…伝えて…私…幸せだった…って…」
「絶対伝えるよ…」
「お願い…ね…」
サラの目がゆっくりと閉じていく。
「皆…愛してる…わ…」
サラの手はカティアが握る手からするりと抜け落ちた。
サラの顔は、満足した様に微笑んでいた。
翌日。
サラの為に、あまり大事にしたくないというハイデの意向で、密葬という形で葬儀を行った。
葬儀に参加したのはカティア、ハイデ、イグナーツ、メアリ、狩人達、そしてクリス。
村の墓地に棺桶を埋葬する。
イグナーツが祈りの言葉を読み上げ、皆、サラの魂の平安を祈る。
葬儀が終わり、一人、また一人とその場を後にする。
サラの墓の前にはカティアとクリスだけが残った。
カティアは墓の前に座り込んでいる。
その姿を見て、過去の自分が重なる。
「…クリス」
「…なんだ?」
「私も旅に連れて行って」
「…危険な事もあるぞ」
「うん…それでも、旅をしていればお父さんに会える気がするの」
「…」
「お母さんの言葉、お父さんに伝えなきゃ」
クリスは大きく息を吐く。
腹を括ろう。
「わかった」
カティアの頭に手をのせ、撫でる。
カティアがクリスに振り返る。
「お前の大事な任務だもんな」
「にんむ?」
「やらなきゃいけない事だ」
「うん!」
「じゃあ爺さんに自分の口で言うんだ。旅に出るって」
「わかった!」
明日出発する事を伝え、カティアをハイデの家まで送り、旅支度を始める。
と言っても、足りない物を村の商店で買い集めるだけだ。
簡単に支度を済ませ、宿で剣を研いでいると部屋の扉をノックされる。
扉を開けるとハイデが立っていた。
「クリス殿、カティアから聞きました。感謝します」
「あぁ、明日出発する」
「えぇ、カティアには出来る限りの準備をさせます」
「時間が空いたらカティアを連れて来るよ。カティアもその方がいいだろうし」
「えぇ、いつでもお待ちしております…どうぞ、カティアをよろしくお願いします」
ハイデは深々と頭を下げる。
「それから思い出した事があるのですが…」
「ん?」
「貴方はクリス・ベルベットと名乗りましたが、もしやして、騎士団長『シィィィィィッ!』!?」
ハイデの言葉を遮り、黙らせる。
「爺さん…その事は皆には黙っていてもらえないか?」
「え、えぇ…わかりました」
「助かる…」
「で、では、明日の朝、カティアをここに連れて来ます」
「わかった」
ハイデは再び頭を下げると階段を降りていった。
扉を閉めて、ベッドに座ると、この先の旅路に思いを馳せながら再び剣を研ぎ始めた。
ハイデ宅。
カティアは自分に宛がわれた部屋を、ベッドに座りながら眺めていた。
お爺ちゃんが言うには、この部屋はお母さんが使っていたらしい。
ベッドに倒れこみ、枕に顔を押し付ける。
僅かに、お母さんの匂いがする。
「お母さん…」
自然と涙が込み上げてくる。
感傷に浸っていると、扉がノックされた。
目を拭い、返事をするとお爺ちゃんが扉を開けて部屋に入ってきた。
「カティア、ちょっといいかい?」
「うん、どうしたの?」
「旅に必要そうなものを入れておいた」
差し出されたカバンを受け取る。
「ありがとう、お爺ちゃん」
「それからこれを」
白いつば広の帽子を手渡される。
「サラの気に入っていたものだ。持っていくといい」
「お母さんの…」
帽子を抱きしめる。
「カティア…」
「なぁに?」
「…ここはお前の家だ。いつでも帰っておいで」
「…うん」
「……食事にしよう!体力をつけなくてはな!」
お爺ちゃんはニカッと笑うと部屋を出て行った。
その笑顔は寂しさと悲しみを押し殺している。
そんな感情が一気に私の中に流れ込んできた。
部屋の外からお爺ちゃんに名前を呼ばれてからも、その不思議な感覚に戸惑っていた。
獣人の騎士 @kotyanosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。獣人の騎士の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます