祖父と孫

「サラ!」


ハイデは立ち上がり、サラの顔を見る。


「お母さん!」


カティアがサラの元に駆け寄る。


「ごめんなさい……お父さん……」

「謝らないでくれサラ…悪いのは儂の方じゃ…

「お父さん…私…どうしても彼と…一緒に…」


そこまで言うとサラは咳き込み、吐血した。


「サラ!」

「お母さん!」

「無理に喋るな!メアリ!毛布とガーゼだ!」

「はい!」


イグナーツはサラを横向きに寝かせ、メアリは病室を飛び出して行った。


「ゲホッ…私…彼とどうしても、一緒にいたかったの…黙って…いなくなったりして…ごめんなさい…」

「いいんだ…儂のほうこそ悪かった…」

「お母さん…」


カティアが心配そうに、サラを見る。


「カティア…怪我は無い…?」

「うん…お母さんが守ってくれたから…」

「そう…良かった……お父さん…この子…私の子供なの…」

「そう聞いているよ…」

「私達とは…見かけが違うけれど……とても優しくて…いい子よ……愛してあげてほしいの…」

「あぁ…あぁ、勿論だとも…この子は儂の孫だ…愛するとも…」

「ありがとう…お父さん…」


サラは微笑むと、クリスに目を向ける。


「そちらの方は…?」

「旅人のクリスだ。山の中で倒れていたお前とカティアを見つけて、ここまで連れて来た」


サラは目を見開き、そして目を閉じる。


「そう…貴方が…カティアを見つけてくれて…ありがとう…ごめんなさい…」

「別に謝らなくても…それより今は休んだほうが…」

「いいえ…時間が…ないの…クリスさん……カティアを…カティアを連れて逃げて…」

「なに?」


サラは弱弱しくも、強い目でクリスに訴えかける。


「…何があった?」

「襲われたわ…あの人達は…彼だけじゃない……カティアも狙っている…」

「襲ったのは誰だ?」

「それは…カティアと…」


そこまでいいかけると、サラは先程よりも大量の血を吐いた。


「イグナーツ先生!」


メアリが毛布と大量のガーゼを持って、部屋に飛び込んでくる。


「全員どいてろ!」


イグナーツとメアリが慌しく動く。

少し経つと、落ち着いたのかサラは眠っていた。


「……もって今日明日だ」


イグナーツは暗い表情で、そう告げた。


「あぁ…サラ…」


ハイデはサラの手を握り、その場に崩れ落ちた。


「お母さん…」


カティアはクリスの手を両手で握り、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「ハイデ…今日はここにいるといい…メアリ、何かあったら教えてくれ」

「…はい」


イグナーツは病室を出て行った。

メアリがサラを別のベッドに移す。

ハイデはサラの手を握り、祈るように顔を伏せる。

カティアはずっとクリスの手を握っていた。


「カティア。母ちゃんの傍にいてやれ」

「…うん」


そう言うと、カティアはハイデの隣に立って、サラの顔を心配そうな表情で見つめる。

ハイデが隣にいるカティアの顔を見る。


「カティア…だったのぅ…」

「うん…お母さんのお父さん?」


そう問われたハイデは、涙を流す。


「あぁ…あぁ…そうだよ…カティアのお爺ちゃんだ…」

「おじいちゃん…」


ハイデはカティアの頭を撫で、抱き寄せる。

クリスはそんな二人を見て、邪魔をしては悪いかと病室を出る。

診療所の外に出て、深呼吸をすると、サラの言葉に思考を巡らせる。


゛あの人達゙、つまり相手は複数人。

理由はわからないが、そいつらはカティア達を狙っている。

サラはカティアを連れて逃げろと言った。時間が無いとも。

追っ手がいるのかもしれない。

カティアをこの村に居させるのは危険だ。

さて、どうしたものか。

カティアを連れて村を出るのはいいが、その後は?

騎士団に預けるか?

獣人だとわかったら、大騒ぎになる。

下手をすると実験施設送りなんてこともありえる。

誰か知り合いに預ける?

こんな事頼める程親しい人物がいるかと言われると、正直いない気がする。

驚かなさそう且つ、信頼できる人間といえばアナスタシアくらいだが、却下だ。

…面白がって玩具にするに決まってる。

となると任務に同行させる…という選択肢しかないわけだが…

子供を連れて遂行できるだろうか…

いや、そもそもカティアはどう思っているのだろう。

危険とはいえ、親族と無理矢理引き離すのもどうなのだろう。


暫く一人で悩んでいると、横から声を掛けられた。

顔を上げると、ハイデがいつの間にか横に立っていた。


「クリス殿…」

「あぁ…ちょっと考え事してたもんで…」

「孫を…カティアを貴方の旅に連れて行ってはくれませんか…」

「え?」


突然の申し出に正直驚く。


「何が起きているのか…儂には検討もつきませぬ…だが、儂の家族に危険が及んでいる事だけはわかります…」

「……」

「儂には守ってやれる程の力はない…しかし貴方なら…お願いですクリス殿!孫を助けてくだされ!」


ハイデはそう言うと頭を下げる。


「…カティア次第だな」

「…ありがとうございます」

「今はサラの傍に居た方がいい」

「はい…」


診療所に戻るハイデの背中を見送る。

初めて会った時とは別人の様な弱弱しいその姿に、胸が痛む。

何が起きているのか俺にも検討がつかない。

だが、カティアとの出会いは…

何か運命染みたものがある様な気がした。

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