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月食は不吉って言うけど、実際に見てみたい。
少年は、ひっそりと静まり返っている庭園を一人散歩していた。あたりに人の気配はない。それほどに月食は人から忌まれているのだろう。
夜中に近い時間帯だったが、庭園内の足元は明かりで照らされているため加護の力を使う必要もない。どこを目指すでもなく少年は勝手知ったる庭園をなんとなく歩いていた。
近寄ってはいけないと言われていた区域のそばまで来ていたことに気がついて足を止める。
ここ、何もないのになんで近寄ってはいけないと言われているのだろう……
少年は、日頃なぜこの場所が近寄ってはいけないと言われているか気になっていたが、なんとなく聞いてはいけないことのような気がして誰にも聞けずにいた。
この皇宮内に危険な場所があるとは思えない。ましてや光の月の1の日に生まれた自分は太陽と光の加護がとりわけ強い。ちょっとした妖魔くらいは自分ひとりでもなんとでもできる。そんな驕りとも言える自信が少年をその区域に近寄らせた。
ガラスのような何かが砕け散る、そんな音が聞こえた、と思ったが勘違いだったらしい。首をひねって辺りを見回したが、この区域にはもちろんガラスのようなものもないし、だいたいそんな間近でした音ではなかった。
ふと、空を見上げた。
あ……!
青白い光を放っていた大きな満月の上の方が欠けていた。欠けた部分が徐々に広がっていくと同時に、反対側が赤っぽく妖しく光りだす。
これが、月食……
赤く染まっていく月から目が離せなかった。
再び月が青白い光を纏い始めた頃、足元がになにかきらめくものが散らばっていることに気がついた。足元に目をやり、もう一度顔を上げると……
目の前に一人の少女がいた。
え……だれ?
いつの間に……?
表情もなくこちらを見つめる少女は、全てが青白く、まるで月の光で覆われているようだった。あまりのことに我を忘れ目を奪われていたが、ただならぬ気配にハッとする。全身の毛が逆立つような感じ。禍々しさしかない。
いつの間にか周囲は黒い靄のようなもので覆われている。咄嗟に少年は少女を引き寄せた。
黒い靄は、少年には近寄れないようで、しばらくの間、遠巻きに蠢いていたが、名残惜しそうに地面に消えていった。
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