第35話 王都の外

「グロースの二の舞にはならんッ!」


 俺はアウラのトドメになる一撃を、咄嗟に雷の防壁を作る事で防ぐ。


「そんな防壁など俺の拳には意味は無い!」


 アウラの言う通り、この雷の防壁に『防ぐ』力は無い。が、防ぐ代わりの力がある事に俺はその瞬間に気がつく。アウラの拳はほんの数秒だけ感電により動きが鈍くなる。


「うおおおぉっ!」


 俺はこの瞬間に体内魔力を全開に雷で活性化し、急激な急増によって疑似的な爆発を引き起こす。

 これは属性によって異なるが、魔力の急増は、魔核が保有可能な魔力を超えない為に余った魔力を外側へ放出させる事で擬似的な爆発を起こすのだ。ただこれを攻撃に転用する者は恐らく俺しかいないのでは無いだろうか。

 あくまでもこれは魔核が自動的に行う必要な処理だからだ。


「なっ!? 咄嗟にそこまでの魔力を出すとは……」

「人間風情がッ!」


 俺は雷の爆発で退いたアウラに対し、片腕を抑えるように手の平を砲として構え、頭の中でイメージする。グロースとの対決の時にらグロースが放った雷の砲撃を。

 すると、俺の手からアウラに向けて、無数の稲妻が発射される。


「ぐああぁあっ!!」


 アウラはこの雷撃でどれだけのダメージを負ったのか。膝を着いてうずくまる。

 アウラ程の無属性のオーラまで扱える者がこの程度で膝を折るとは少し疑問に思うが、これが本当なら好機だ。

 俺は片足にしっかり強く無属性の魔力を込めると、膝を着くアウラの頭に向かって思いっきり回し蹴りを繰り出す。


 が、やはり俺の不自然は当たっていた。俺の回し蹴りは当たる直前に防がれ掴まれた。


「甘いな……」

「やはりか……!」


 アウラは俺の足を掴むと、勢いよく立ち上がり、反対方向、後方へ俺を体ごと投げる。


 さっきからお互いの好機を狙っては防がれる。攻防戦になっている。こんな普通なら勝てる筈も無い戦いなど速く終わらせたいものだ。

 俺は投げられる瞬間、地面に叩きつけられる直前に空中で身体を丸めて、両手をアウラにかざす。


 攻撃中に攻撃を被せる。言わば受けカウンターだが、今の俺の攻撃は相手が無防備で完全に油断しているという条件が入っている。

 オーラを自在に扱える者であれば、攻撃が来る事を分かっていれさえすれば、ダメージを負っても多少は弾く事が可能。

 ただし、ダメージを負う事さえ想定に入って無ければいくらオーラを使おうともそれは遅過ぎる結果となる。


「火龍砲ッ!!」


 俺は投げられる空中から再度両手から火柱を放ち、反動で自分も吹き飛ばされる。


「ぬわああああっ!?」

「ッ……!」


 ほぼゼロ距離で炎に包まれるアウラ。流石にこれは大きなダメージを与えられた筈だ。

 それもその通り、アウラは大きく吹き飛ばされると今度こそ膝を着き、未だに鎮火しない体の炎を消そうとオーラを発している。


「クソッ! 不覚だ……」

「これが本当の最後だ……」


 俺は片手に無属性の魔力をゆっくり力強く込める。そして、かつての巨体の化け物にグロースと一緒に放った魔剣を作り出す。

 当時は魔力の扱いは最高であれど、魔法の発動方法が著しく鈍かった為、グロースの手伝いがあって漸く実現できた技。

 この魔剣は本来の強さであれば大陸を分断出来る程だが、俺の今の最大の力であれば、アウラを倒すのには十分な威力だろう。


 そして俺は刀を鞘から引き抜くように、魔剣を腰から引き抜き様に振り抜く。

 その勢いは周囲の地面を掘り起こし、緑色の光の斬撃をアウラに飛ばす。


「これが……学院で噂になっていたカオスの力か……」

「なに?」


 斬撃はアウラにぶつかると声もなく大爆発を引き起こし、アウラをさらに吹き飛ばした。


 それから数分後、アウラはゆっくり体を起こし、俺に試験終了を言い渡す。これにて俺は上級魔法科に昇格した訳だが……あまりにも差があり過ぎる試験には納得が行かない。


「アウラよ、俺はお前を倒した。が、他の生徒は手さえも出せなかった。こんな試験、クリアするのはあまりにも至難では無いか? 他の生徒も上級に上げろ」

「カオス。それは無理だ。上級試験をクリアもしていないのに、勝手に階級を上げる資格は俺には無い」

「そうか……」


──────────────────


 俺はこれにて漸く生徒を仲間として連れて遠出が出来る権限を得た。が、今は肝心の仲間がいない。実力が有れば一緒に上がっていたカロウは今も中級。初級で出会ったレウィスもあれから顔を見ていない。

 後は俺を何かと追いかけているルルドだが、アイツは普段何処にいるかさえ分からない。

 もう一つ頼りになるとするなら、貴族間で問題があったアデルフィア兄妹だが、兄の方は特級で忙しいだろう。妹のフィーリアはどうだろうか……。あの者は特に出会った中で正義感が強かった。何処かでまた無法者を捕まえているのだろうか。


 なんにせよ俺は今、すぐにでも頼れる仲間がいない。この上級で新たな友を作ろうにも、俺が神である事を他言無用に出来る程の信頼関係を結ぶ事は難しいだろう。

 そう、俺が他の街に神が降臨しているのを阻止しなければならない事を話し、反対の意見をほぼ無くすには、俺の正体をバラす事が前提となる。


 だから……今は上級に上がってくるであろうカロウとルルドと、出来ればフィーリアを捕まえるのに待たなくてはならない。

 ただ何もせずに待っているのも時間の無駄だ。これなら、上級魔法科の権限を使って王都周囲のエリアはどんな場所なのか調べてみるのも良いだろう。

 ただそれには未知なる危険と遭遇するのは間違いないが……今の俺では化け物一匹や二匹簡単に処理できる筈だ。


 そう言う訳で、一体いつ振りなのだろうか。ノル村のノルドにユーラティアまで連れて行ってくれた以来、王都の外には一度も出た事が無かった。

 王都の前は無限の草原が広がり、気持ちの良い風が俺の体を通り抜ける。


 さて、何処へ行こうか。と迷えば、俺は視界に最初に映った場所へ向かった。

 遠目からでも分かる真昼間に対して色が暗すぎる森林を見つけた。


 王都との距離もそこまで離れておらず、最初の探索地としては丁度良いだろう。

 森林の入り口らしき場所まで行くと、看板が建っていた。


『この先、調査中。特級の許可なく入るべからず』


 開拓済みでもなく、調査中とあった。しかも特級の許可が必要か。だが、危険とは何処にも書かれていない。

 もしこの森に子供が近づく可能性を見れば、危険と一言でも書くべきだろう。

 ルールは破る為にあるという言葉が作られる訳だ。調査中だけではどんなに危険なのかは全く分からない。


 としても、俺は入る訳だが……。

 俺は森へ入ろうとすると後ろから何者かに呼び止められた。

 後ろを振り向くとそこにはフィーリア・アデルフィアがいた。


「カオス、こんな所で何してるのよ」

「あぁ、フィーリアか。お前こそこんな場所で何をしているのだ? てっきりいつものように街で警備をしていると思っていたが……」

「いや、今日はお兄ちゃんが他の街へ異常調査しに行くって日だったから様子を見て、今帰ってきた所なの。それでカオスを見つけたから……。って此処ってまだ特級が調査中の場所よ? 許可なく入っちゃだめだって」


 止める気か……。だが、ここでフィーリアと出会ったのは運が良い。許可なんてあくまでも調査中とだけ書いてあるだけで他に何かある訳でも無いだろう。

 もし何かあってもフィーリアと行けば何とかなりそうだ。誘おう。


「許可は要らん。丁度いい、お前も入らないか? 立ち入り禁止とは書かれていないんだ」

「いやいや、子供かよ。そこの森にどうしても入りたい理由でもあるの?」

「無い。興味本位だ。それに、王都外側にはどんな化け物が潜み、何があるのかを知りたいからな。事前に。なに、罰せられてもお前の兄ウィルが何とか弁明してくれる筈だ」

「えええぇ……わたしの兄を弁明に使われても困るんだけど……しょうがないなぁ……。ヤバそうだったらすぐに逃げよ」


 ふむ。逃げるか。逃げてもいいが、逃げる程の何かが此処にあるとするなら、余計気になってしまうな……。


「そうだな。逃げるのはフィーリアだけで十分だ。そんな危険がこの中に潜んでいるのなら、死ぬ気でも情報を持ち帰るべきだろう。

 それでも不味い状況になった場合は、お前が救援を呼んで来い。

 さぁ、これで二人で行く意味が出来た。行こう」

「貴方ってそんなに命知らずのキャラだっけ……。いや、貴族間の問題も解決してくれたし……ははは」


 フィーリアを誘う事に成功した俺は、二人で森の中へ入った。

 森の中は、太陽の光が差し込まない程に、足元は自分の足が見えない程に暗く鬱蒼としており、人のうめき声が至る所から聞こえていた。

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