第33話 上級魔法

 俺はグロースより上級魔法科昇格試験を受ける権限を貰い、今その試験場にいる。

 そこには中級昇格試験以来のカロウ・レウスがおり、今回の上級試験を前に余裕の佇まいでいた。


「カロウ。久しぶりだな」

「あぁ、これはカオス君じゃないか。君も上級魔法科に進むんだね。僕は当然だけど、カオス君も今回の試験は簡単に踏破しちゃうんじゃないかな?」

「確かに。魔力に関しては簡単かも知れないが、此処の学院は階級が上がる度に、その生徒に対する認識は本来より上に見られる。

 あまり甘く見ていると痛い目に会うぞ」


 初級は魔法の基礎すら知らないという認識だったが、中級になると『基礎をマスターし魔力の知識はそれなりに持っている』という様に、初級から中級になっただけで、『基礎のマスター+α』と少しだけ上に見られていた。

 つまり、『上の階級に上がれば新たな力を得られる』という解釈より、『上の階級に上がる為に、自身で更なる成長を遂げる』という意気込みで試験に挑まなければ、予想以上の厳しさにぶつかる。

 簡単に言えば、火炎の習得済魔法が低級だった時に試験官に高級魔法を放てと言われると同じという事だ。


 しかしそんな俺の忠告もカロウは余裕の表情で流す。


「無い無い。カオス君には言っていなかったけど、実は僕のお兄さんもこの学院いたんだ。そう、卒業済みってやつ。

 そして僕はレウス家血筋であり、お兄さんの才能も受け継いでいる。だから、本来なら既に特級魔法科に僕は居てもおかしくないんだよね。ただ此処のグロース理事長が厳しくてねぇ。才能は才能でも開花させないと意味が無いとか」

「なに、まだ開花していないのか。それならそう言われるのも納得するが……」

「違うんだ。僕はこんな中級魔法科の授業程度じゃ才能は開花しないと思っている。だから急いで上級に上がって、グロース理事長に認めて欲しいんだよ」


 これから上級試験が始まり、その際にカロウの才能が開花するか。ただ何故グロースに認めてもらうだけに開花を急いでいるのかは分からないが、これだけ急いでいるならと俺は一つの案を思い付く。


「ならグロースに直談判したらどうだ? 俺も自分の力を知る為にグロースと対決したが、アレは凄まじい経験を得られるぞ」

「なっ……グロース理事長に直談判!? それはつまり、僕が才能を開花させるのを確実にさせる為に、グロース理事長と戦えという事かい? ははは、大魔導師の称号を持つグロース理事長に……か。いや、考えておこう」


 そう俺の案を持ち掛ければ、カロウは乾いた笑い声を上げながらも、すぐに真剣な表情に変わり考えておくと言葉を残した。

 ただそのカロウの発言に俺は一つ気になる言葉があった事に、それを質問する。


「称号? 大魔導師? なんだそれは」

「おや? カオス君でも知らない事があるとは。それについてはまた後で話そう。上級試験官のお出ましだ」


 そうカロウが俺の質問を流すと、試験場に魔力回廊を用いて試験官が入ってきた。中級試験官の時は、やる気が無いにもかかわらず、見た目以上の実力を持っていたが、今回の上級試験官は、高身長で筋肉質のある体格をしており、黒髪黒肌で険しい形相に金色の瞳。灰色のオーラを身体の周囲から発していた。あれは俺が見るに無のオーラだ。

 オーラを意図的に発する事が出来るとは、やはり少しでも今回の試験に緊張しておくのは正解だった。

 

 今試験官が発しているオーラとは、この学院で言えば特級かそれ以上の実力の持ち主であることが分かるものだ。

 魔力は活性化させる事であらゆる魔法発動に繋がるが、連続且つ容量を使い過ぎるとすぐに枯渇する。例えそうなっても自身の持つ魔核から常に魔力が供給されているのですぐにこれも回復する訳だが……。

 逆にこのオーラは決して枯渇する事が無いという利点を持つ。


 オーラとは極単純で魔力を活性化させずに魔核から直接魔力を引き出すことである。

 ただ簡単では無い。素人が如何に真似をしようとしても、身体は勝手に魔力を活性化させようとするからだ。

 簡単に言えばオーラは魔核から直接魔力を引っ張り出す事にあるが、普通ならどうやっても魔核から魔力を引き出すには活性化の前段階を踏まなくてはならないからだ。

 言わば手順、ルールの無視。


 自身の周囲で起こる事に対してルールの無視など誰にでも出来る事だが、体内で起こっているからこそ難しい。


 して、オーラを発する事が出来れば何が良いのかと言えば、最初に魔力枯渇の概念が消えることと、普通の魔力活性化を無視している分、ほぼ最大出力で魔力を使っている為、自身の保有魔力と魔力純度の最大威力の魔法が確実で放てる事だろうか。

 更に今回の上級試験官は無のオーラだ。つまり無属性。授業で習う事は無かったが、無属性は素手や剣による物理攻撃に特化しており、オーラを放っているという条件があれば恐らく拳一つで人一倍の岩を砕けるだろう。


 俺は予想を遥かに上回る相手にカロウに重ねて忠告する。


「カロウ。今回は特に注意しろ。あの試験官はただ者じゃない」

「あぁ、分かってるよ。僕でさえもやばさが伝わってくるよ」

「なら良い」


 そうして俺とカロウが上級試験官に対して身構えると、試験官は低くも若い声でゆっくり口を開く。


「俺はアウラ・アハト。普段は特級魔法科で無属性の担当をしている。今回の本来の上級試験官は体調不良の為欠勤。だから俺が今回の担当となった。

 だからと言って手加減はしない。殺す気でとまでは言わないが、手を抜けば本当の戦場では死ぬと思え。

 もし、いつかの戦いの中で死ぬ覚悟が無い者は、今すぐ俺の前から消えろ。

 そんな奴俺の相手にはならん」


 静かに淡々とした口調で話す姿が、上級試験を受ける生徒全員に更なる緊張感を持たせた。俺の周りの生徒が一言も喋らず黙って話を聞いているのが分かる。


「今回の上級魔法科昇格試験の内容は……、この俺を一度でもダウンさせてみせろ」

「はっ!?」


 アウラが話した試験内容に一人の男生徒が驚きの声を漏らす。


「アウラ試験官、それマジで言ってるんすか? いやいやいやいや、特級魔法科の教師をダウンさせるなんて無理でしょ!? それも手加減もしないんですよね? 今は上級試験ですよ? そんなのキツすぎでしょ!」


 男生徒の言う事はごもっともだ。現在俺達は、中級魔法科であり、これから上級魔法科に上がる試験を受けようとしている身。それに対して特級魔法科の訓練を担当している教師と対決し、傷を与えるなどでは無く、ダウンを取れという内容。

 普通に考えれば厳しいというレベルでは無い。それもアウラの言った通り、殺す気で無くとも死ぬ気で掛からなければ、可能かも分からない。


 が、そんな言葉を発した男生徒にアウラは明らかに不機嫌になる。


「話を聞いていなかったのか? 死ぬ覚悟が無い者は消えろと。お前はどうやら上級試験だからと、特級より易しく無ければ割に合わないと言っているな? お前は何故魔法を習得したいと思ったのだ。生半な気持ちで役に立つからという理由では、話にならん」


 図星か。男生徒はそれから黙ってしまった。


「ではそろそろ始めるぞ。ルールは一対一。お前らの合格条件は俺を一度でもダウンさせること。そして、お前らの失格条件は、戦闘続行が不可になる又は、ギブアップするかだ。最初の相手は誰だ?」

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