第32話 権利

 俺は中級魔法科昇格後、魔力を扱う事から魔力を具現化させることを習得した。それによって火、氷、風、雷の四属性と、光と闇の二対属性の基本を習得し、とりあえず上級魔法科昇格試験の権利は揃った筈だ。後はこれをグロースに伝えるだけだ。


 俺は丁度授業終わりで学院内にいた為、毎度の様に突然魔力回廊でグロースの部屋に入るのではなく、わざわざグロースの部屋まで足で歩き、扉をノックした。


「カオスだ。入るぞ」

「入りなさい」


 俺はいつもの事だろうと、グロースの許可が下りると同時に扉を開く。


「グロース。俺が言いたい事は分かるだろう?」

「あぁ、もちろん。いやはや本当に君は早い。例え神であっても今や我々とほぼ変わらない人間の身体なのだろう? なのに、この成長速度は凄まじいものだ」

「あぁ、この調子がずっと続けば、きっと思ったより速く本来の力が取り戻せそうだ」


 グロースは俺が短期間で全ての属性魔法を習得するした事を評価している様だ。表情は笑顔で度々驚く顔をする。

 たしか、俺と対決している時もこんな表情だったか。自分は絶対に負けないという自信からあんな表情がでるのだろう。

 それにグロースは俺でさえも全生徒を纏め上げるカリスマがあると分かる。いや、俺も評価する。良い教師とはこう言うのだろう。


「あぁ、そうだったら良いのぉ。して、カオス君の言いたい事とは、上級魔法科昇格試験を受ける権限だろう? 勿論、許可する。

 本来なら更に属性に特化した魔法を習って欲しい所だが、カオス君は何せ全魔法を習得する勢いがあるからな。君が早く上に上がりたいと望むなら、試験を受ける権限を与えよう」

「あぁ、頼む」


 そう言うとグロースは一つ真面目な表情に変え質問する。


「さて、ここまで来たカオス君に一つ質問があるのだが……カオス君が最終的に特級魔法科に行きたいという事は分かるが、何故全魔法を習得したいと思うのだ? 

 カオス君の魔力成長速度は他と違って群を抜けている。それならば魔法は独学も可能なのでは?」

「あぁ、言って居なかったか……。俺は別に完全な魔力の復活を全てに思っている訳では無い。俺は確かに創造神であり、その知識は人間を超えている。

 しかし、それはあくまでも神の知識でしか無い。俺はこの世界を知らない。だから、世界の知識を新たな知識として取り入れたいのだ。

 グロースも知っている通り、俺は神界の神が降臨した別の街へ行き、その神の好き勝手な行動を止めようとしている。これは本来なら非常識だろう?」


 俺は質問に答え、グロースでも理解できる様に質問を返す。


「確かに。神を止めようなど、そこの宗教体系を壊す事になる。その上最悪の場合、信者達の怒りを買い、暴動が起こる可能性だってある。

 逆にそれを知らずに行動するのは、協力者の信頼を失う事にも繋がる……。なるほど、カオスはだから、此処。魔法学院にて自分の実力を見せながらも仲間を増やし、同時に世界の常識を知る事で予期せぬ問題を回避しようと。そう言う事かな?」

「全くその通りだ。神だからって絶対的な力を見せつけた所で、そこから得られる信頼はほんの一時的だ。だから、信頼できる仲間が欲しい。例え力の復活を急いでも、確実な物が今は欲しいのだ」


 そう答えるとグロースは真面目な表情からいつもの優しい笑顔に戻り、俺を見送る。


「そうか。良く分かった。まさか神様に一端の人間である私が相談を受ける事になるとはな。君の真意は分かった。では、上級魔法科試験の合格を待っておるぞ。

 あぁ、それと一つ言い忘れておった」

「なんだ?」

「上級魔法科になったら何が変わるか、一応説明しておこう」

「あぁ、頼む……」


 上級魔法科の権限。

 グロースの話によると上級魔法科は、魔法の基礎は当たり前、属性魔法を一つの属性に特化し、更なる強化目指す階級の様だ。

 また権限は王都外へのパトロール範囲を拡大し、開拓済みの場所を調査。魔物の駆除と依頼が有れば指定範囲の安全確保をし、人が住まう事が可能にする。言わば王都の騎士の仕事を下請けする様な物だ。勿論、報告すれば報酬もあり、上級魔法科の生徒はより生活しやすくなると言う。

 逆な何故魔法学院の生徒が騎士の仕事を下請けするのかと言うと、戦闘能力が十分にあり、これによって生徒がもし大怪我を負った場合の責任は騎士には無いと。信頼から受けられる事だからと言う。

 また個人で冒険者という類で王都外へ遠征に向かっても良いが、そうすると開拓済みの地を調査した場合、十分な安全確保がされて居ない事や開拓したと言いながら危険すぎる場面に遭遇した場合、更なる調査を押し付けられ、さらに最悪の場合は、冒険者と騎士の間で犯罪が起きてしまう事があるからと言う。


 つまり、簡単に言えば魔法学院の生徒で有れば危険や未開拓地でも信頼できる戦闘能力がある為、正式に一切の責任は受けた側にあるとし、多少の問題は無かった事に。生徒になる事である程度の身や生活の安全は守られると言う事に対し。

 個人でやる場合は全て責任は個人にある物とし、騎士に向かって理不尽な責任を押しつけ、面倒な事が起きた時に、冒険者の身の生活の安寧は保証出来ない。

 そう言う事の様だ。


「まぁ、とりあえず魔法学院の生徒と言う立場で有れば、生活に問題はほぼ無いという事だ」

「良く分かった。では、俺は試験に向かおう」

「うむ。良い報告を待っておるぞー」

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