第28話 真価
「えーっと属性魔法の基本だっけ? んー魔法ってさぁ、自分で使う分は良いんだけど教えるって難しいんだよねぇ。特に口頭でとか。
だから、なんとなーくでこんな感じーって感じに教えるから後はみんなで頑張ってくれ」
このフィトラは俺と違って神の身体ではあるが、人間界に降臨しても素の性格は全く変わらない様だ。一言で言えば気まぐれか。
「じゃあ先ずは、魔法ってね、殆どがイメージを具現化させる事が重要視されていて、魔法の真価とも言える。だからぁ、例えば火の魔法。
体内魔力を燃え上がらせる様にイメージして……一気に爆発させるっと」
流石は神と言った所か。フィトラは体内へ瞬時に莫大な自然魔力を何気のない表情で収束させると、次の瞬間にその魔力を一気に体外へ爆発させる。
空間を揺らめかせる様な薄い炎の衝撃波が生徒全体に向かって広がっていく。一瞬生徒達は微かに感じる熱風に顔を顰めるが、暫くしても全く熱さを感じない事に首を傾げる。
「あれ? 熱くない?」
「大体こんな感じねー。あぁ、今のは聖炎と言って本来燃えない呪物や闇の力を浄化させる力を持つんだぁ。それ以外燃える事は無いって凄い炎ぉ」
「えぇ……今のを真似しろって言わないですよね?」
「ははは〜無理無理。人間には到底出来ない技だよぉ。とりあえず感覚は同じだから」
人間には到底出来ないか……。全くその通りだ。例え俺でさえも真似は出来ない。幾ら神の力の一部を持っているとしても、完全体では無いだけで、可能が不可能になる。
聖炎も神の特権の様な物で、幾ら人間が多く集まって合体魔法として発動しようとしても不可能。何処でどのタイミングで発動するのかと言えば……。
人間が神に向かって『闇を打ち払え』と祈る時、その闇が本当に人間にとっては不可思議な力で打ち払われる。その事実こそがこの聖炎なのだから。
さて、これではなんの説明にもならない。代わりに俺が説明するか。
「いやーフィー先生……つまりどうすれば良いんですかね?」
「俺が説明する。フィトラも言った通り属性魔法にはイメージが大切となる。先ずは炎。炎なら簡単にイメージ出来るだろう。どんな炎でも構わない。ただ燃え盛る炎、身体が熱くなるイメージ、ライターの火でも良い。
この中に居るかは分からんが、炎に対して思い出がある人間もいるんじゃないか?」
俺がそう簡単に説明すれば、生徒達は各々魔法の練習を始める。が、フィトラはため息を吐く。
「あのーカオス君。君が有能だって事は周りの教師から教えられているけど、先生の立場というのも考えてくれないかな?」
「フィトラよ、俺はお前を知っている。何故お前が此処に居るかは分からんが、この世界で生きる上で一つ忠告してやろう。
この世界では、神の常識を主とするな。あくまでも人間の中に溶け込み、神の力はできる限り抑えるんだ。どうせ、最初に会った筈だろうグロースにも気付かれて居ないんだろう?」
「……。なぁんだ。カオス君。まさか君だったとはね。たまたま名前が似てるだけかと思ってたよ。あぁ、授業が終わった後の話ね。分かったよ」
俺はフィトラの返答を黙って承諾し、フィトラから視線を逸らしながら授業へ戻った。
今回の授業は炎、氷、風、雷の四属性だった。この中で特にこれと言った成果を出した生徒は居なかったが、流石中級魔法科に昇格した者達か。属性魔法の習得に飲み込みが早く、逆に手間取った者は居なかった。
基本的な発動魔法として、炎は手の平に炎を発現させ又は発射する。氷は触れた物を凍らせ、風は周囲に軽い竜巻を起こし、雷は自分の身体に電気を纏わせる事。
属性毎にそれぞれ意味と役割が有り、それらを完全に習得できれば、何かと凡ゆる場面で役に立てる様になる。
例えば炎なら攻撃支援魔法の助けとなり、氷は味方の魔法威力を高め、風は回復魔法の効果を高め、雷は攻撃速度を高める。
この四属性全てはイメージにより具現化させる事で攻撃に転用出来るが、逆に具現化させる前の段階の段階で味方に付与する事で様々な補助効果がある。
そうして俺はフィトラから離れ、授業を再開しようとした所で、結界の外側から耳に付く高めの蛙の怒鳴り声が聞こえて来た。
「今すぐ授業を中止しろぉ!! 結界だと!? 舐めた真似を……今すぐ解け!」
その姿は豪華な装飾がされた服に金髪で小柄な姿をした男の少年だった。その周りに恐らく護衛だろうか。十人程の黒い鎧を纏った騎士が囲んで居た。
「はて? どちら様ですかぁ?」
フィトラは呑気な声色で結界を解きながらそれに答える。
「私か? 私はグラーフ・マニス侯爵の息子。ゾーン・マニスである! この私の名前を知らないとは恥を知れぇ! まぁ、今回はそんな事はどうでも良い。カオスとは貴様の事だなぁ!?」
ゾーン・マニス。グラーフの息子だと名乗るが、まさか例の問題の話だろうか。
「如何にも。俺がカオスだ。まさかだとは思うが、父親の話か?」
「自覚があるなら、早く土下座しろぉ!! さもなくば、貴様を貴族に対する暴虐の罪で今すぐ此処で打ち首にじでやるぅ!!」
なんと愚かか。青筋を立てるまで怒りは狂うとは。相手の理解を得る前に処刑してやるなど貴族はみんなこうなのだろうか。全く呆れる。
「知らん。土下座もするつもりも無い。殺すなら殺してみろ……」
「お、お、おぉ!? 貴様! 私に逆らうというのか? 平民風情が! こんな物、打ち首では済まない!! 殺せ! こいつを今すぐ殺せぇ!!」
そういうと、周りの黒騎士は黙って一斉に剣を構え、一斉に俺に向かって襲ってきた。
「下らん……」
俺は黒騎士達の剣が俺に当たるまで無抵抗を決めた。それはフィトラが必ず止めてくれると分かっていたからだ。特に俺が創造神であると気付いているならば尚更である。
予想通りだった。黒騎士達の剣は、振り下ろされた俺の身体に打つかる直前、ギリギリで止まる。
「なにっ! 動かない……!?」
十人程居た黒騎士は全員足が氷で固められ、剣を振り下ろした騎士の剣は、肘関節が完全に凍らされ、まるで動かぬ石像群の様な姿となる。
「あーごめんねぇ。一応教師だからさぁ。生徒を守る義務があるんだよねぇ。貴族だからってぇ、何でも出来ると思ったら大間違いだよぉ〜ゾーン君?」
「んなっ!?」
「所でカオス君。一体何をしたのかなぁ?」
「欲に塗れた男によって捕まった女生徒を引き剥がしただけだ。恐らく、この息子はグラーフの記憶を消した事に怒りを感じているのだろう」
「なるほどぉ。分かった! ゾーン君。君のお父さんの記憶は僕が治してあげよう。それで引き下がってくれないかなぁ?」
今の一言でフィトラはどれだけ理解したのだろうか? 簡単に記憶を戻すと言うが、まさか全ての記憶を戻す様な真似はしないだろう。
「ほ、本当だな!? 嘘なら貴様も容赦せんぞ!」
おぉ、意外と正直か。どれほど父親の事が好きだったのか。父親の記憶を戻すと言っただけで表情は明るくなり、声を期待するように高くなった。
「本当だよぉ。後で家まで案内してしてくれるかなぁ?」
「あぁ、分かった! いつだ?」
「とりあえずぅ授業が終わって少ししたらかな。学院の玄関で待っててくれるかなぁ?」
「分かった、分かった! お前ら、そんな所で突っ立って居ないで行くぞ!!」
そういうと、フィトラによって動きが止められていた黒騎士は一斉に動くようになり、ゾーンの周りをすぐに囲み、移動を開始した。
「いやはや、とんだ邪魔が入ったねぇ? さて、他のみんなは大体習得し終えたから、そろそろ此処で授業は終えようか?」
そう言って、フィトラは今回の授業を終え、生徒達を解散させると、俺に手招きをして、場所を移動した。
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