第29話 悪化
フィトラは授業を終えると、俺を誰もいない、街の路地裏に連れ込んだ。暗く静かで邪魔が入り難いからだろう。
「さて……と。創造神カオス。本当に君なんだよね? 髪色は兎も角、顔も何もかも変わってるからさぁ」
「あぁ、正に俺が創造神カオスだ。さぁ、フィトラよ。話してもらおうか」
フィトラは俺がそう言うと、真面目な表情に変わって話始める。
「いやぁ、カオスも分かってたでしょ? 最高位の神である創造神が神界で長期不在の事。いやねぇ、本当に今、神界はだらけてるんだよぉ。カオスが居ないんじゃ指導者も居なくなる訳だからねぇ。
カオスが作った世界は今、全部時空の神によって、緊急的に時間を止めてるんだけどさぁ。それだけに神界は今、滅茶苦茶暇なんだよぉ。
だからさ、僕がとりあえず探しに行こうかなーって思ってて……そこで見つけたんだ。今までカオスが作った世界の中にカオスの物では無い別の世界が混ざっていた事に」
別の世界? 俺は確か最初にブラックホールに飲み込まれてこの世界に来た筈だが……。
「俺の作った世界の中に有ったのか? てっきり完全な別次元の世界だと思っていたのだが……」
「あー、別次元世界だって事は正しいかも。だってカオスが作った物では無い事は分かっているんだから。今まで無かった物が、自分のバッグの中に入ってるんだよ?
別の誰かがカオスの中に意図的に入れたのか。それとも勝手に混ざってしまったのか」
「いや、もし誰かが意図的に入れたとして、そんな事が可能なのか?」
俺は創造神であり、神界において最高位の神。世界を『創造』なんて誰でも真似出来る物では無い。また、もし既存の世界を複製したのならば複製はあくまでも複製であり、必ずどこかに不安定さを残す。
しかし現に今居るこの世界は、不安定どころかほぼ完全体。濃い宗教社会は無くとも誰もがその神の存在を知り、特に加護を受けていないにもかかわらず、凡ゆる自然環境は整い、未だに問題らしい問題は無い。
まるで機械で制御されているような。
「そうそう、勝手に混ざったって言う話も可笑しいんだけど、誰かが意図的に入れたっていうと更に可笑しいんだよねぇ。
まぁ、そういう訳だからさぁ、一旦神界に戻らない?」
「あぁ、出来れば今すぐにでもそうしたい」
「じゃあ、はい」
そう言うとフィトラは俺の前で次元回廊を開く。魔力回廊と特に見た目は変わらないが、その魔力の濃さは普通の回廊は全く違うと分かる。
あぁ、漸く神界に戻れるのか。俺は心底ホッとしながら、次元回廊に入ろうとした瞬間。
「は?」
「どうしたの?」
次元回廊から弾かれた。まるで次元回廊自体から拒まれているかのように、いや、まるで入る事を許されていないかのように。
「弾かれた……」
「本当にカオスなんだよねぇ?」
「何を疑う? お前だって気付いているだろう? 俺の内に秘める膨大な魔力に」
「まぁねぇ。なんで入れないんだろうねぇ」
「まさか、此処に俺が居る理由も関係しているのだろうか」
「ははっ、まっさかぁ。カオスに試練でも誰かが課しているって言うのぉ?」
「ふっ、あり得ない……か。まぁ良い。とりあえず他の神にも伝えておいてくれ」
「りょーかい!」
フィトラは俺に元気良く返事すると、一人次元回廊に入って行った。
さて、俺はまたグロースにでも相談がてら報告しに行くか。
俺はその場でグロースの部屋に繋がる魔力回廊を開き、無断で中へ入る。
「入るぞグロース」
「ほっほっほーカオス君。君は私の部屋は慣れてしまったようだね。まるで入り方が、自宅の部屋では無いか」
「そうだな。それはさておき、今回も少し相談事があって此処に来た。分からなければそれでも良いんだが、少々厄介な事になってしまってな」
「ふむ。カオス君の相談ならいつでも受けるぞ?」
俺はここで自分の事を一つだけ明かす事を決めた。
「まずその前にこれからの話に少しでも理解を深める為に、一つだけ俺の隠していた事を明かす。
それは……俺は実は、別の世界から来た者なんだ」
「別の世界というと? どんな世界なのかね?」
「グロース、お前でさえも決して相容れない世界。別次元の世界と言った所か」
「ほっほー。つまり、神界や霊界、又は異界と言った所かのぉ?」
「まぁ、そんな所だ。それでなんだが……俺は今まで元の世界にもどる為に、この内に秘める力を取り戻そうとしていたんだ。この力が無いと戻れない世界なんでな」
「ふむふむ」
俺は続けて、次の事を神界や神の存在はぼかして話す。
「そして俺は先程、偶然にも元の世界に戻る方法を知った。しかし、何故か戻れなかった。そうだな……まるで中には誰も居ないのに、内側から鍵を閉められ、入れる筈がその一つ問題のせいで入れないのだ。
勿論、その扉は蹴破る事は不可能。鍵の所在を知る人間も居ない。更にその扉は、内側からしか閉められず、鍵穴も存在しないんだ。
つまり、俺は何者かによって追い出されたという話になるんだが……それも可笑しな話でな。その扉の鍵は実はパスコードロックされていて、本来なら内側に誰も居ない時に閉めても鍵は閉まらないんだ……」
此処でグロースは俺の話を途中で切り、結論を出す。
「つまり……侵入者いるかもしれないという話かのぉ?」
「まぁ、そういう事になるな」
「むむ……確かに本当に厄介な話だ……鍵穴は存在しない機械式ロックの扉で、蹴破る事は不可能で、扉を開ける鍵は誰も知らない。
開かずの間というやつじゃないか!!」
「……。グロースにも分からないか……」
「おほん……済まないな。それに関しては何もしてやれる事が無さそうだ……」
俺はグロースの部屋の中にある近くのソファーにどっしりと腰を下ろし、大きく溜息を吐く。俺が神界に戻るにはやはり力を取り戻す他無いのだろうかと。
「はぁ〜……俺は一体どうしたら良いんだ……」
そう俺は深く項垂れていると、此処でまさかのグロースの部屋で突然次元回廊が開き、中から慌ただしくフィトラが出て来る。
「カオス! 不味い!」
「フィトラ。お前が非常に不味い……」
「へ?」
当然か。グロースは次元回廊から出て来るフィトラにとてつも無く驚いた表情で固まっていた。
「フィトラ……先生? これは次元回廊ですかな……?」
フィトラは慌てて次元回廊を閉じ、恍ける。
「おっとっと……えーっと、気のせいじゃ無いかな?」
「うーむ。いやはや、カオス君が別次元の世界から来たという事は事実という事が分かった。大丈夫。フィトラ先生も安心してください。誰にも言いませんので」
そう言うとフィトラは安心した表情で、また秘密をなんの悪気無く堂々と明かす。
「そっかぁ、なら安心だね! それでさカオス。今とても不味い状況なんだ! 一応、神界の神々にカオスの状況を伝えたんだけど……皆んなカオスの作った世界でないのなら良いや! ってさ。一斉に……解散しちゃった☆」
「なっ!? 馬鹿な。今すぐに連れ戻せ! 世界を壊すつもりか!?」
「いやぁ、もう手遅れです。はい……。みーんな各々各国で守護神として働き始めてさぁ。直ぐにカオスに報告しようと思ったんだけど……頭が真っ白になっちゃって……へへ」
俺はソファーに腰掛けながら、頭を抱える。問題が更に増えたと。先ずは様子見するのが良いか。色々考えるが、頭を横に振ってまず力を取り戻す事を先決した。
ただし、グロースは更に驚いた表情となる。
「……。ううむ。カオス君。まさかとは思うが、私の考えからすると、君は……創造神カオスなのかね? そして、そっちは多種多様な能力からして自然の神フィトラかな?」
「グロース。他言無用で頼む。では、さらばだ」
「うむ。安心しなさい。カオス君もフィトラ先生もいつも通りに接しよう」
そうして俺はすぐに問題解決をしようと行動を速める。先ずはとにかく力を取り戻さなくては、他の神の相手にもならないだろう。
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