第21話 中級試験

 多目的科の授業の最中、突然俺を狙って襲撃してきた巨体の化け物。

 俺を狙ってきた理由は、グロースによると俺の中に封印されている『絶大なる力』が原因だと言う。


 巨体の化け物は、授業担当中の教師が救援として呼んで来た者達によって勢いを止める事が出来たが、化け物の最後の足掻きをなかなか抑えられ無かった。

 そこでグロースの提案で、無理矢理でも強烈な力を発揮すれば『絶大なる力』の封印の蓋が一瞬でも開くのでは無いか。という如何にも原始的な方法で、俺はグロースから多量の魔力を受け取り、それから俺が生み出した魔剣により化け物を消滅させる事が出来た。


 しかし、どんなに異常な量の魔力を受け止められる器を持っている俺であっても、今の身体は神では無く、あくまでも人間の為、魔力の解放に身体が追いつけず俺は気絶した。

 それ以降の記憶が一切無い。


 俺は目を覚ますと見覚えのある白い天井が最初に視界に入った。少しだけ上半身を起こし辺りを見回せば、其処は診療所だった。

 これで二度目だ。二度も人間の世話になるとは……。もし俺が今も身体が神そのもので、今の俺の状況を見たら、きっと鼻で笑うだろう。


 そして、俺が寝ているベッドの前を診療所担当のリカルが通りすぎる。


「おや? 目が覚めたんだね。全く君の回復力は二度目とは言え感服するよ」

「どれくらい寝ていた?」

「んー、グロース理事長に担ぎ込まれてから半日くらいかな。運ばれた時がもう夜中だったから今は朝だね。ほんの数時間だ」

「な……グロースに担ぎ込まれただと?」

「うんうん。完全に脱力状態になっていた君がグロース理事長が布団でも運んで来るかのように、肩に乗せられていたよ。あの時はびっくりしたなぁ」


 ……。診療所に来たのが二度目で、まさかグロースに運び込まれるのも二度目とは……なんて屈辱なんだ。


 今はもう身体は完全回復、体内魔力も充分にあるのでベッドから降りると、それと同時に診療所にグロースが入ってきた。


「おぉ。流石、目覚めは早いな」

「あぁ、また運んでくれたようだな。感謝する」

「ほっほっほー、またとな。確かに、私と戦った時も大怪我をして私に運ばれていたな。

 まぁ、それはさておき。今回はカオス君に一つ報告が有る。

 昨日の夜、君は凄まじい魔力によりあの巨大な魔物を一撃で消滅させた。その実力を見込んで、中級魔法科に昇格する事を認めよう。その試験を今から受けなさい」

「ほう、昇格はグロースから推薦される物なのか。何にせよ、更なる力を付けられるのならば、その試験、受けよう」


 俺はグロースから中級魔法科昇格試験の推薦を貰い、昇格試験を受ける事にした。

 昇格試験はどの階級も野外で行うという決まりらしく、また昨日のような化け物が来ないかという心配が少しあった。


 そうして王都を出て試験場に向かうと、既に多くの生徒が集まり、その中にカロウとルルドの姿もあった。

 カロウは元から成績優秀という話を聞いていたが、ルルドは中級に上がるつもりは無いと言っていた。何か心変わりでもあったのだろうか?


「ルルド、中級昇格試験を受けるのか?」

「あぁ、まぁ、カオスが中級受けるって聞いたからな。カオスは俺より強い。なら、次は中級で溜まってみるのも良いかなって……」

「そうか」


 そう暫くすると、中級昇格の試験官か。身嗜みはだらけており、髪もボサボサで表情は疲れ切っている。どこかルルドに似た雰囲気もある男が来た。

 

「あー、ヴェイグだ。中級昇格試験の審査をする。まぁ、昇格したら二度と会わねえと思うがよろしく。

 中級昇格試験の内容は三つ。一つは、魔法発動の際、目標に正確に当てられるかという魔力の安定さを計る。二つ目はどんな魔法でも良い。魔力を形にして炎とか氷とか発動してみろ。魔力濃度が基準以上なら良し。

 そして三つ目は、俺と実戦だ。初級の野郎は全員、魔法の基礎中の基礎をマスターしているという前提だ。中級になったらもう見習いじゃねえ。だから殺す気で掛かってこい。俺も殺す気でやる。もし油断とかしてみろ。死ぬぞ?」


 とても簡潔な説明だった。ヴェイグの話が終わると早速試験が始まる。

 最初はヴェイグが用意した丸い的に魔力の弾丸をより正確に中央を狙って撃つ事。ど真ん中であれば高得点らしい。


 中級昇格試験を受ける生徒は全員一列に並び、順番に的に向かって銃の形を模した指から、魔弾を発射する。


「はい失格、お前も失格、お前も駄目だ。当たってねぇぞお前らぁ! 本当に中級昇格試験受けに来たんだろうなぁ!? 俺が失格と言い渡した奴はさっさと帰れぇ!」


 次々と発射される魔弾を的に当たっているかどうかを的の立つ位置の真横で確認しつつ、遠くから大声でヴェイグは、生徒に素早く失格を言い渡す。

 確かに本当に授業を受けて来たのだろうかと疑う程に的を外す者が多い。

 ただし的にギリギリ掠る程度でもヴェイグは容赦なく失格を言い渡す。なかなか厳しいな。


「さぁ、次は僕だね。こんなの朝飯前さ」


 カロウの出番が来ると、カロウはにっこりと笑顔を見せながら余裕で的のど真ん中を撃ち抜いて見せる。

 流石か、失格を言い渡されて後の様子を伺う生徒の歓声が上がる。


「良しお前は大丈夫だ。次!」

「はい……」


 次はルルドの出番。かと思いきや、ルルドは小さく面倒そうな返事をすると、カロウよりも、他の生徒よりも強烈な魔弾がルルドの指から放たれる。

 魔力濃度は非常に高く、しかし不安定だが、的に掠るだけで弾き飛ばす程だった。


「お、おおう……良し、お前も大丈夫だ。次!」

「ルルドがそう来るなら、俺も相応の力を出そう……」


 俺は他の生徒と違ってゆっくり的に向かって銃を向けるように指を構え、ふうと一つ息を吐くと、魔力を活性化させ、指の先端に魔力を急速に溜め込み、塊を作る。

 魔力の塊。塊と言っても固形物では無いが、魔力を一点集中で溜め込んだそれは、必然的に魔力濃度は異常値を達しているだろう。

 そして、反動で腕が外れない様にしっかり片手で構える腕を抑え、発射する。

 ビュンッと風を切る音を鳴らし、的のど真ん中を正確に打ち抜いた。

 打ち抜いた的のど真ん中は焦げた小さな穴が空く。


「……。ほう? 良いだろう。お前も残れ」


 そうして全員の一つ目の試験が終わり、中級昇格試験の約六十人居た生徒が、一気に二十人まで減った。

 的のど真ん中に当てられたのは二十人中十人程で、一気に試験の厳しさが分かった。


 次の項目は、属性魔法の発動。これについては初級では習わなかった。ヴェイグは形にしろと言っていたが、あの説明だけて魔法を発動出来るのは数少ないだろう。

 つまりこの中級昇格試験は、習わなかった物を此処で発揮する事で魔法の素質を試しているのだろう。

 だが、魔法の素質は知識でも何とかなる。魔力の構造をしっかり理解していればだが。


「はいじゃあ次は、魔法の発動だ。これが出来なきゃ中級には絶対に上がれねえ。という訳で全員頑張れ」


 ここでカロウが質問する。


「ヴェイグ試験官、魔法濃度はどれくらい有れば良いんでしょうか?」

「そうだなぁ……とりあえず高ければ良い。ただ無理はすんじゃねえぞ。俺との実戦で簡単にぶっ倒れてもらっちゃあ困るからな……」

「分かりました」


 属性魔法か……さて、俺はどうしようか。

 そう考えていると、最初にカロウが魔法を発動する。属性は風。魔弾を放つ時と同じ動作をすると、一瞬だけ風を纏う弾丸が放たれた。

 ただ、普通の弾丸ではなく、風の弾丸の通過点に風のきりもみ回転が発生し、それが地面を横殴りに抉っていた。


「良し、お前は残れ。次」


 次はルルド。ヴェイグと同じ様にやる気の無さが滲み出ているが、どんな魔法を発動するのか。

 ルルドは一歩前に出ると拳に雷を纏わせ始め、その雷はどんどん激しさを増す。

 そして暫く雷を溜めると、それで強く地面を殴る。すると、雲一つ無い快晴だというのに、空から突然巨大な雷が落ちて来た。

 爆音とも言える轟音が大気中の自然魔力を焼き、反応。更なる電流が発生し、巨大な落雷後に周辺に小さな無数の落雷が起きた。


「ふん、確かルルドと言ったな? 何故今まで中級を受けなかった」

「面倒だから」

「そうか。自分の強さを初級の奴らに見せたかったって事だな? 若しくは、ただ単に中級の授業が面倒だから、初級のままでも良いとか」

「想像に任せます」


 さて、次は俺か。俺は一つ考えた。この別次元世界に来てから最初に力を失ったのでは無いかと考えていた。神の権限を行使するも多少の魔力の流れは感じるが満足いく程では無かった。

 しかし、今は最初と比べて体内魔力はこの世界の一般的と言える程になっている。つまり、今なら多少なら権限の行使が出来るのでは無いかと考えた。


 俺は創造の権限を行使する。手を前へ突き出し、手のひらを空に向けて、くうを掴む動作をする。

 イメージとしては空中に引上げ式のレバーが有りそれを握る感覚。

 そしてそれを力強く上へ引っ張る。


 少しだけ地面の土が盛り上がる。

 そのレバーは地面に嵌め込んであるマンホールを引き上げる物と考え、地面と空を掴む手の間に鉄製のワイヤーが伸びているイメージ。それを更に上へ引っ張る。

 土はさらに盛り上がり、周辺に亀裂を発生させる。


「土魔法か? 出来なければ無理しなくてもいいぞ?」

「まだだ。もっと力を……!」


 俺は前へ突き出す握り拳に更なる魔力を込め、次に思いっきり後方へ投げ飛ばす動作をする。


「はぁっ!」


 すると土は一気に上へ盛り上がり、俺の頭上を超えて後方の地面にぶつかる様にして、かまくら状のドーム。空間を作り上げた。

 こんな物か……。


「大地隆起……まだ小さいが、良いだろう。残れ!」


 こうしてルルドとカロウは無事に第二項目を終え、俺も最後は実戦のみとなった。

 中級昇格試験を受ける生徒数は、二十人から、八人。

 失格理由は魔力による形成の失敗と魔法の不発。少しでも炎や氷が出る者も居たが、魔力濃度が基準以下で失格。


 残り八人。中級に昇格出来るの一体何人なんだ……?

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