第19話 読心

 ユーラティア王都魔法学院。俺は戦闘、回復、支援の三つの基礎魔法と神界には無かったこの世界の知識を得た。

 そこで残るは多目的科。別名他種魔法と呼ばれる簡単だが覚えていなければ今後辛い魔法らしい。


 俺が今回受ける授業内容は魔力流の察知、読心、弱点感知だ。

 そして今、察知魔法を教わっている。

 人間とほぼ変わらない魔法流を持つ可動人形を使って、察知魔法で人形が何処に居るかを目を瞑りながら答えろという授業。

 主に室内ではなく野外で使える魔法なので今回は野外授業となり、安全の為、グロースに結界貼って貰っている。


 多目的科の教師に「それでは実際にやってみよう」と言われ、各々生徒全員目を瞑るので、俺は立った姿勢のまま目を瞑る。

 教師に言われた方法としては、体内魔力を触覚とし、自然魔力を感知すると言ったイメージだが、俺のやり方は少し違う。

 いや、毎日のように自然魔力を吸収している俺に取っては察知魔法など朝飯前という物か。


 教師が触覚という分かり易いイメージに言い換える前の『自然魔力との一体化』。俺はこれをやる。

 一体化と言っても教師の言った通り合体や融合する訳では無いが……。簡単に言えば触覚で感知するのではなく、自然魔力の流れと接続すると言えば良いか。触覚で『触る』のでは無く、『繋ぐ』のだ。


 そうする事で俺の察知は敏感になり、より広い範囲が分かる。目を瞑っては暗闇で何も見えないが、その中で大体の位置から波紋が見えて伝わってくる。

 僅かな地面の振動、風の流れ、人間や魔物の鼓動。凡ゆる音が全て視覚的情報として伝わってくる。

 ただ余りにも敏感過ぎて人間や他動物の微動も分かってしまい肝心な情報を見逃す事が良くあるが、今回は可動人形という非生物に人間と限りなく似た魔力流を流している為、無数の反応から、一つだけ歪な反応をしているのが直ぐにわかった。

 俺は目を瞑りながら指差しで答える。


「そこだ」

「ん? おぉ〜、よく分かりましたね。その調子です」


 そう言われて目を開けて、暫くすると生徒達は次々と人形の場所を特定。

 一緒に授業を受けている知り合いであるカロウとセグロスは特定時間がほぼ俺と同じだったらしいが、レウィスは他の生徒よりも相当な時間が掛かった。

 理由は極単純。いつも戦闘ばかりしているレウィスにとって魔法発動の際に起こす魔力活性化と体内魔力を使うという使い分けは難しかったらしい。


「それでは次へ行きましょう。次は、読心魔法です。言葉通りの心を読むですが、これは単に心を読むのでは無く、相手の行動を予測する方法です。

 どんなに手慣れでも一秒先の行動を予測するのが限界なので、魔法というよりほぼ感覚に近いですかね。

 読心は察知魔法の派生で、相手の敵意に咄嗟に反応する事が大事で、薄くでもいいので察知魔法を展開しつつ、相手の行動予測するという物です。

 聞くだけならかなり難しそうに聞こえますが、これでも魔力を使うので、反射神経が悪いという人でも十分に使えます。

 それで……読心ではグロース理事長に手伝って貰います」


 そう教師が読心魔法について説明を終えると、グロースが前に出て話を始める。


「うむ。ではこれから私は一人ずつ風魔法で衝撃弾を発射する。大丈夫。当たっても軽く退く程度だから安心しなさい。これを読心で避ける事が出来れば合格だ。

 ただ……この読心は相手の行動を瞬時に読み取る事が大切だと思われているからのぉ。その『瞬間』を見極めて貰う為に、肉眼では捉えられない速さで衝撃弾を発射しよう。

 目で捉えるのでは無く、読心で感じなさい」


 そういうと実技は早速始まる。グロースの「ほれ」という掛け声と同時にドンッという大砲でも発射したかの様な轟音でグロースの杖の先端から衝撃弾が生徒に向かって、次々と発射される。

 衝撃弾は本当に見えなかった。避ける事が出来るまで衝撃弾を身体に撃ち込まれる生徒の光景を見ると、グロースの杖から音が鳴り響いてから、生徒の身体に衝突し呻き声を上げるまで、一秒すら経っていないのだ。

 音とほぼ同時に生徒が一歩、また一歩の衝撃で後ずさる。


 そんな光景を見ながら、俺は次の出番が来るのが待ちくたびれるのでグロースに声を掛ける。


「来いグロース!」

「うむぅ? ほっほっほー、そぉれ!」


 グロースは俺の声に反応すると、ニコニコ笑顔を見せながら、他の生徒から流れる様に俺に標的を変え、衝撃弾を発射。


 グロースとの実戦特訓の時は全く避けられる気がしなかったが、今なら読心で避けられる。そう思った。

 グロースがわざと目で追えぬ速さで衝撃弾を撃つ理由がその瞬間で俺は理解した。

 それは一秒にも満たない零点一秒の瞬間。察知魔法が自分の脳に何をしたのか説明がし辛い。

 「避けろ」そう言っている様な。脳からキッという金属板を爪で引っ掻いた様な指令が音として聞こえ、咄嗟に俺は身を躱すと、衝撃弾を避けていた。

 避けるのでは無く、避けていたというのが今の俺が最も近く感じた感覚だ。


「ほっほっほー。流石だカオス君。私の衝撃弾を一発で避けるとは……。しかし、今の一発が限界だろう? 今の攻撃を連続で避けられるかな?」

「無理だ。この読心という方法、異常な集中力が必要だ」

「うむ。それだけ分かっておれば十分だ。では、残りの者よ、次々行くぞぉ!」


 読心が普通に難しいのか、それともグロースの衝撃弾が速いだけなのか。生徒全員が読心を習得するまで、夕焼け空が見える時間まて続いた。

 流石に時間が掛かりすぎたせいか。教師とグロースは授業に一旦休憩を挟む。


 そこでレウィスが大きく溜息を吐く。


「はぁ〜あ……この読心ってやつ戦闘科の俺にとっては超重要じゃねぇか。もし、衝撃弾じゃなくていつか実弾を避けなくちゃならない時が来たら俺死ぬかも……。

 てかよ! セグロスもカロウもカオスも! なんでそんなに速く習得出来るんだよ!」


 そんな発言にセグロスとカロウが同時に答える。


「「才能だよ」」

「ちくしょおおお! 俺には才能が無えってか!? おいカオス。お前はどうなんだ?」

「才能も確かにあると思うが……、この読心に関しては鍛練あるのみだ。敵の攻撃を一発避けられた所で実戦ではどうにもならないからな」

「お、おう……。まぁ、確かにそうだよな。うん」


 何か歯切れの悪い返答だが、気にする事でも無いだろう。


 そうして休憩が終わり、夕日が沈みかけている時間なので、そろそろ授業を一旦明日に区切ろう。と教師は言い、グロースに結界を解く様に言った瞬間、俺の読心魔法でキーンという耳鳴りの様な、攻撃される瞬間の警告音が脳に伝わる。


「グロース! 結界を解くなッ!!」

「え?」


 俺突然の叫び声でグロースは結界解除を思い留まる。

 そして次の瞬間、結界に何かがぶつかり、決して此処周辺の魔物では壊す事はできないというグロースの結界が揺れ動く。


「まさか……? 誘われてきてしまったかのぉ……」

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