第18話 他種魔法

 俺は支援科の授業を終え、模擬戦で疲れた身体を癒す為に休憩時間四十分の間に学院の中庭に来た。

 するとそこには支援科の生徒であるカロウ・レウスか居た。


 授業中のカロウは女生徒の目線に満更でも無い態度だったが、流石に毎日の様にあんな扱いをされれば疲れるのか。中庭で一人にいる時が唯一の安らぎだと思わせるかの様な、表情で一人中庭のベンチで太陽の陽を浴びながら寝ていた。

 俺はそんなカロウを起こすのを控え、側でベンチに座らずに壁に寄りかかる様にして目を瞑った。


 学院の中庭は正方形の広めの庭で、二〜三本の木と全面芝生に草花が咲き、カマキリや蝶の虫の楽園となっていた。

 陽の光も中庭の天井は窓がなく吹き抜けで差し通っており、風が丁度良く過ぎて行く。

 カロウが此処を休憩場所としているのも納得が行く。


 暫く目を瞑って休憩していると、ベンチで寝ていたカロウが俺の存在に気がつく。


「おや? カオス君も居たんだね。良いだろう此処は。僕にとっての最高の場所さ」

「あぁ、そこまで広くは無いが、自然の命の楽園と言っても良い。まるで誰かが人工的に作った空間の様にも見えるが……」

「そりゃそうさ。だってこんな空間、先ず王都の外に魔物が蔓延る時点でほぼ有り得ない空間だからね。理事長の趣味なんじゃ無いかって噂されている」

「なるほどな。確かに、あれ程の歳になればこの様な安らぎの場を作るのも合点が行く」


 そんな雑談をしながら俺はふと次の授業の話を聞く。


「それで、カロウはこれから何処の授業へ行くんだ?」

「んー、特に決まってないから多目的科でも行こうかなって思ってる」


 多目的科。それは、戦闘、回復、支援を受けた俺の最後に受けようとしていた科目だった。つまり行き先は同じという事か。


「同じだな。俺も多目的科に行こうとしていた所だ」

「なら一緒に行こうか。ここの学院、生徒数がとんでもなく多くて、一日の授業数が多いから時間割表無いと殆どの確率で別の教室入ってしまうんだよね」

「そうなのか。俺は未だに授業中の教室に入る事しかやっていないが」

「まぁ、一緒に行けば迷わないさ」


 そうして俺とカロウは、多目的科の教室に入った。すると其処にはレウィスとセグロスも居た。セグロスは回復科で素質を覚醒させた男だ。

 この面子からして、どうやら多目的科は専門枠という物がない様だ。言わばどの科目にとってもついでに過ぎないという事か。

 座る席も出席番号が無く自由で、生徒達の態度もまるで放課後の家に帰る途中の様で、今まで受けた授業の様にしっかりとしてる生徒は誰一人居なかった。


 そんな教室の雰囲気を伺いながら俺は、レウィス、カロウ、セグロスの四人で固まる様に席に座った。

 ただお互い全員が仲が良いという訳も無く、レウィスとカロウは、支援科との共同授業で初めて知り合いとなり。

 レウィスとセグロスは、お互いを全く知らず。

 カロウとセグロスは、カロウが一方的に知っていて、特に話した事は無く。

 この中で俺だけ全員と知り合いという訳だ。なんとややこしい仲か。


 そんなこんなで漸く授業が始まる。多目的科の教師は、生徒達の態度とは変わってかなり真面目な印象を受けた。


「それでは、多目的科の授業を始めます。

 多目的科魔法とは、毎度教えている通り、語呂が悪いので一般的に『他種魔法』と呼ばれます。戦闘、回復、支援のどれにも該当しませんが、魔法が多数存在します。

 今回の授業で教える魔法は、察知、読心、弱点感知の三つです。そして今日は皆さんで王都の外に出て実際に使ってみる事にしました」


 その教師の言う授業内容に一気に生徒が騒めく。王都の外は危険だ。魔物に襲われたらどうすれば良いんだと。

 だがそんな心配は、次の教師の言葉ですぐに治った。


「皆さん安心して下さい。王都の外に出ると言っても魔物と戦う事は絶対にありません。今回の野外授業は、グロース理事長が同行してくださるので、結界を貼ってくれます」


 そういうと名前を呼ばれるのを待っていたかの様にグロースが教室に入ってきた。


「ほっほっほー。皆の者、安心しなさい。王都付近で私の結界を破れる者など存在しない。なにも心配せず授業を受けなさい」


 暖かい笑顔で全員に伝えるグロース。よほど余程に信頼されているのか、その一言で生徒全員の緊張した表情が緩んだ。

 勿論俺も信頼している。ただその理由は、グロースとの対戦で為す術が無く完敗した事。強い者であるという意味での信頼だが……。


 そうして生徒全員を安心させると、グロースは直ぐに王都外への魔力回廊を開き、それに続いてぞろぞろと皆んな外へ出ていく。


 王都の外は俺がこの世界に降り立った時の光景と同じく、地平線まで見えるただ広い草原と、所々に生える木のみで、一見魔物の姿は見当たらない。

 恐らくノル村に居た時もそうだ。魔力の流れが活性化し、一点に魔力が集中すると、それに反応した魔物が例え其処が安全地区と言われた場所でさえも侵入してくるという仕組み。

 一見見えなくとも、結界を貼って、授業を始めれば、結界を破ろうと魔物が遠くから襲って来るはずだ。


「それじゃあ、結界を貼るぞ。皆の者、私の下に集まれ」


 そういうと生徒達は全員一斉にグロースの近くに寄る。

 すると、グロースは片手に杖を召喚し、杖で勢い良く地面を突くと、緑色透明の半円形ドームがグロースを中心に広範囲に展開される。


 俺も一応結界は貼れる。但し、人間の身体になってしまった以上に、力を無くした事で十分な結界を貼れる程の魔力がまだ無い。

 結界魔法の原理は極単純だが、魔力の消費がそれなりに大きく、丈夫な結界程の消耗する魔力量は比例する。

 結界魔法をこの学院の四つの科目に当てはめるなら、支援魔法に該当するだろう。


 結界魔法の原理は攻撃魔法で炎や雷を射出するのと似ていて、魔力を『形』にする事が原理となっている。

 グロースの使った結界魔法は、かなり強固で、且つ透明の結界だ。

 結界を貼る際に沢山の魔力を使えば兎に角硬い結界を作れるが、それを透明にするのはまた別の魔力が必要になる。

 主に結界を透明にする理由は、襲って来た魔物を正確に確認し、対処し易くするのが最もな理由だろう。

 結界は所謂、『魔力の壁』なので、目的があれば透明は勿論、迎撃や回復も可能な万能な魔法である。


「よし、では先ず他種魔法の一つの察知を教えます。察知はそこらの魔物が基本的に備えている機能で自然魔力の流れから魔力の集中している地点や、上手く活用すれば人体の魔力の流れを感じる事が出来る魔法です。

 我々人間には不便な事に一つの魔法として括られていて、魔物の様に無意識には出来ないんですけどね。

 では実際にやってみましょう。此処は結界の中なので、範囲は狭くはありますが、こちらが作った可動人形に人間と似た魔力流を作るので、察知魔法で目を瞑りながら何処に居るのか答えて下さい」


 そう教師が指示を出すと、グロースの作った結界内に横倒しに点在していた人形が突然動き出す。

 とても人間の動きではなく最早不気味と言える動きをしているが、魔力の流れはほぼ人間と同じと言っても良いほどに正確だ。


「察知魔法の発動の仕方は、体内魔力と自然魔力の一体化が条件となります。ただ本当に一体化するのでは無く、体内魔力を自分の触覚とし、その触覚で自然魔力の流れを感じる。

 そうですねぇ。立ったままでは難しいので地面に胡座で座ってみると分かりやすいでしょう。そうする事で自然と自然魔力と体内魔力が触れる事になるので、より感じやすい筈です」


 そう教師の説明が入ると生徒全員は座るなり、挑戦する者は立ちながら目を瞑った。

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