第17話 共闘

 俺は支援科で戦闘科との共同授業でタッグマッチをやる事になった。タッグマッチは模擬戦でトーナメント形式でやる事になり、最初は俺の直感の所為でパートナーに決まったルルドの支援をオーバーロードさせ授業を中断させたが、なんとか支援魔法のコツを掴み俺は今準々決勝、準決勝を勝ち抜き、決勝戦まで上り詰めた。


 決勝の対戦相手は支援はカロウ、戦闘はレウィスのペアだった。どちらも知り合いだが、対戦相手のお互いはそこまで仲が良さそうな雰囲気では無かった。


「ハッ、まさかアンマッチな俺らなのに決勝戦まで来ちまったな!」

「ふっ、此処まで来れたのは全部僕の才能のおかげさ。感謝してくれると嬉しいな」

「いーや、俺の戦闘能力もあると思うけどなぁ? 支援科は攻撃魔法は無いんだろ?」

「確かに無い。だが残念ながら僕は体術も心得ている。才能とは本当に素晴らしい物だよ」

「だったら、お前の体術と俺の戦闘能力はピッタリだなぁ!!」

「全く。そうだね、君と僕は相性が良いようだ」


 いや、仲は良くは無いが、お互いを理解し合っていると言った所か。どちらにせよ連携をして此処まで来た事は確実。

 決勝は準決勝や準々決勝という様に一筋縄では行かなそうだ。

 俺はルルドに気を引き締める様に声を掛けるが、ルルドは相変わらずの様だ。


「ルルド。まさか決勝まで来るとは思わなかったが、此処まで来たらそろそろ本気を出しても良いんだぞ?」

「あー、気付いてたんだ。でも面倒だから良いや。いつも通り行こう」


 ルルドはこれでも中級魔法科に昇級しても可笑しくは無い実力を持っている。本気を出せば個々の初級魔法科の模擬戦など一捻りで制覇出来るだろう。

 しかし当の本人はそんな気は更々無く、俺の提案を断る。


 俺は渋々承諾すると、カロウとレウィスを見据え、次はどんな手を掛けようか考える。最初にやるべきは全身強化だろう。

 俺はまた準々決勝でもやったようにルルドの両肩に両手を背後から置き、全身に魔力を同程度注ぎ込む。


「ふふっ、この感覚、何度やってもらっても良いね」

「次は少し強烈な物を行くぞ。耐えられなかったらストップと言え。最初にやった限界突破と近い感覚を味わうだろう。

 最初はとりあえず全身強化をやってみた。レウィスの戦闘能力を確かめてくれ」

「あいよ」


 ルルドはそう俺に返事を返すと、直後に床を思いっきり蹴り、レウィスに突進する。

 が、あの陽気な性格をしたレウィスは、その自慢をしていた戦闘能力は本物で、ルルドの突進斬りを難なく片手で木剣で防ぐ。

 そうすると鍔迫り合いになる瞬間にレウィスはルルドの腹を蹴り飛ばし、反動で距離を置く。


 次にレウィスの反撃。カロウにはどうやら機動力支援を受けたのか、ルルドの突進よりも速く、遠心力を掛けるように孤を描く動きで走り、真横からルルドの頭部に向かって飛び蹴りをかます。

 攻撃力は遠心力で増し、機動力による高速飛び蹴りは、完全に防ぐ事は出来なかった。

 ルルドは飛びかかってくる飛び蹴りを頭部真横に木剣を構え、レウィスの攻撃を防ぐが、防いだその木剣がルルドの頭部側面に減り込む。


「……っ!」

「決勝戦に来るまでにお前らの動きも見ていたからなぁ!」


 それからレウィスからくる追撃。飛び蹴りから着地すると直後に後ろ回し蹴りで、ルルドの反対方向の頭部側面を狙う。

 ルルドも同じ攻撃は食らうまいと、咄嗟に頭を下げ、レウィスの追撃を避けると、全身強化により引き上げられた機動力で、頭を下げながら足払いを片足になったレウィスに食らわせる。


「なっ!?」

「よいしょっと……」


 後ろ回し蹴りによってほぼ逆立ち姿勢になった途端からの足払い。当然バランスを保てる余裕もなく仰向けにすっ転ぶレウィス。

 それを捉えたルルドは間髪入れずに仰向けに倒れたレウィスの腹部に向けて木剣を突き刺すべく、切っ先を真下に向けて木剣を突き下ろす。


「どぅわぁ! 危ねぇ!!」

「ッチ……」


 今のを食らえば大ダメージを受けていただろうその攻撃をレウィスは横に転がる事で回避。直後に跳ねるように立ち上がり、また距離を置く。


「攻防戦だな」

「あっちのレウィスとかいうやつ、なかなかトリッキーな動きしやがる」

「じゃあ、次の段階をいこうか」

「あぁ」


 そういうと俺は、次の段階という支援を行う。次の段階とは、支援でも回復でも無い、魔力純度の上昇だ。

 この世界では自然魔力の吸収による魔力純度の上昇は一般的では無いらしいが、魔力の純度が高まると具体的に何があるのかと言うと、基本魔力の効果上昇と基礎体組織の強化が出来る。

 基礎体組織は要は筋力や反射神経等の事を示すが、単に筋肉が強化されるのではなく、補正が強化されると言えば分かりやすいか。

 見た目も実際の力も殆ど変わらないが、補正が強化される事で潜在的能力が引き上げられ、強化後の結果がより良い物となる。

 つまり、全身強化にこの方法は相性が良い。


 俺はルルドの背中に手を置くと、俺が自然魔力を吸収し、純度上昇に変換する前に、自然魔力を腕からルルドの身体を経由させて、ルルドの魔力純度を高めていく。


「お、おい。なんか体が熱くなってきたぞ……」

「あぁ、さらに熱くなるぞ。本来戦闘しながらやる物じゃあ無いからな。急激な体の変化に注意しろ」

「……。よし、もう良い。行くぞ」

「あぁ……」


 魔力純度を高めたのは約三分。これだけでは力を付けるのも微塵程度だが、戦闘中ではほんの少しの力も結果が変わるだろう。

 ルルドは俺に止める事を言うともう一度同じ手。突進斬りを繰り出す。


「ふんっ!」

「同じ手は……って! なんだコイツ! 急に力が!」


 レウィスとルルドの木剣が鍔迫り合いになる中、その背後に立つカロウがレウィスの背中に駆け寄る。

 あと少しで押し勝てると思ったが、次のカロウの行動によって勝敗が決まった。


「レウィス! 弾き飛ばせええぇ!」

「うおおおぉ!!」


 俺はその瞬間をカロウからレウィスに流れ込む魔力の流れを見た。

 俺が最初にルルドにやった支援のオーバーロードだった。それを攻撃力に全て注ぎ込み、レウィスは凄まじい力を発揮。

 レウィスの元からある戦闘能力もあってか、本来の限界突破は最初の一撃で筋肉痛が襲い終わってしまう物を、レウィスはルルドの突進を弾くと、更なる連撃をルルドに叩き込む。


「ッチ! 不味い!」

「オラオラオラァッ!」

「ぐはっ!」


 弾き飛ばされてもなお、空中で連撃を食らうルルドは為す術無く、さらに遠くへ吹き飛ばされ、俺の立つ位置を通り過ぎる所で床に激突する。

 そこで教師の戦闘続行は危険という判断で試合終了。

 結果は俺は負けた。レウィスとカロウのペアが勝利。


「いやぁ、カオスもなかなか強えじゃねぇか」

「まさか、あそこで限界突破をされるとは」

「おや? カオス君は魔力の流れを見れるのかい?」

「あぁ。分かる」

「そりゃすごい。僕には無い才能だねっ」


 そうして特に優勝したところで教師がただ全員の実力が分かっただけで、何も景品は無いが、模擬戦を終えた後の生徒達は疲れ果て、他にはスッキリした者も居た。

 それで今回の支援科の授業は終わった。


 俺は次の授業へ行こうかと思うと、そこでどうやら休憩時間の様だ。五分休憩とかでは無く、しっかりとした四十分休憩だった。

 模擬戦の後だ。十分な休憩時間か。


 俺は神ではあるが、人間の体には休養も必要だろう。俺はそんな事を考えながら休憩出来る場所を探した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る