第14話 教示

 俺は回復科の授業を簡単に受けるつもりが、担当教師の教えが酷過ぎる為に、理事長のグロースに報告すると、グロースはその担当教師であるジガンを殺害。

 結果、授業を滅茶苦茶にしてしまった。グロースも笑っているばかりでどうしようもない。


 グロースはジガンを殺した後、俺の方を振り向くと今の状況を変える一つの提案をする。


「そうだカオス君。お主は魔力の扱いに非常に慣れており、さらに我々の常軌を逸する知識を持っておる。一つ、この回復科に教えてみては如何だろうか?」

「いや、俺はその逆の立場で居たいんだ」

「それは、カオス君に眠る『絶大なる力』を覚醒させる為だろう?

 まだこの学院に来てから二日しか経っていないが、なにも新たな知識を得るだけでは叶わんと思うぞ?

 教師という立場は、上手く使えば新たな発想を得る事がある。此処はまだ初級回復科だが、習い始めの生徒達は、どうすれば魔法を上達できるのか試行錯誤して懸命に考えている事が多い。

 例えそれが本来の習得方法で無くとも、生徒達が出す発想は、新たな魔法の開発には役立つ事がある。どれ、やってみないか?」


 発想か。確かにグロースの言う事は正しい。現に神が使う魔法も全て本来の正規的な方法で魔法を発動している訳では無い。

 殆どが発想と言っても良いだろう。より自由に、自在に魔力を操る事で原理は同じ魔法でも、発動方法によって威力が上がる事も有る。


「なるほど、良いだろう。だがこれはあくまでも授業を壊してしまったついでだ。俺は学ぶ為に此処に来たのだからな」

「分かっておる。さぁ、私は側から見てみるかのぉ……。カオス君の魔力の扱い方もとても気になる」


 そう言って俺は、未だにジガンが消しとんだ事に呆然と立ち尽くす生徒に声を掛ける。


「全員聞け。ジガンは死んだ。だがその代わりに今日一日だけ、俺がお前らに魔法を教えよう。

 ただ俺はこの世界の魔法に余り詳しく無く、俺の知っている魔法でやらせて貰う。お前らには少し厳しいらしいが、コツを掴めば息を吐く様に魔力を扱う事が出来る。

 お前らがジガンに今までどんな事を教えられていたか知らんが、その知識は今全て捨てろ」


 回復科の生徒はまだ何かと怯える様子があるが、魔力の扱いは兎に角、集中する。恐怖の感情も何れ無くなるだろう。

 とは言え先ず何を教えるべきか。俺は別にこの世界の常識を塗り替える為に此処に来た訳では無い。あくまでも力を取り戻す為だと何度も言おう。

 なら先ずは『自己回復』か。


「じゃあ、そうだな。先ずは自己回復について教えよう。ジガンは応急処置がなんとか言っていたが先ず、自分の身は自分で守る。これを機におかなくては、自分が死んでは元も子もない。そのための自己回復法だ。

 じゃあ先ず、お前らの力で自己回復して見せろ。別にわざと怪我する必要は無い。全快状態からの自己回復が出来れば、体内魔力の活性化にも繋がるからな」


 そう言うと生徒は各々魔法を試す。が、誰一人出来そうな気配が無く、今までジガンは何を教えていたのか気になる程だった。

 皆、魔法の使い方は分かれど、肝心の回復の仕方が分からず、首を傾げたりしていた。


 魔力の扱いは兎に角、鮮明なイメージが重要となる。だからイメージしろと言って直ぐに出来る人間は少ないだろう。

 ただそれをどう人間に教えたものか。側で様子を見守るグロースに助けを求める様に俺は視線を移す。

 

「ほっほっほー。いやはや、カオス君の言いたい事は分かるぞぉ。例えどんなに慣れた事でも言葉で説明するのは誰でも難しい事だ。

 なら簡単なお手本を見せたらどうだ?」

「そうか。ならお前ら良く見ろ。簡単な事だけ言うから俺の手本を見て、頭でイメージしつつ、後は自分で工夫しろ」


 俺はただそう言って、体内魔力の活性化。いや、純度を高める訓練を行う。この方法に置いては回復効果も特に無いが、原理は若干似ていたりする。

 体内魔力の純度上昇は、自然魔力を吸収する事で未完全な心臓に当たる魔核コアを完全体に近づける最も簡単の方法で、実はこれだけで本来の力まで辿り付く事は出来る。

 しかし、その分何万年と時間が掛かる訳だが……。


 そうして、一見何もしていない様に見えて、自然魔力を吸収し続ける中、授業を再開してから二時間程で漸く独自の方法で魔力の活性化を見出した生徒が現れた。

 その方法もかなり効率の悪い方法だったが、悪くは無い。


「カオス……先生。これで良いんでしょうか?」

「俺はお前と同じ生徒という立場だ。呼び捨てで良い。それでその方法だが、悪くは無い。ただ体内魔力の燃費が激しいから、つぎは最適化を考えろ」


 その方法とは、簡単に言えば瞬時に最大限に魔力を無理矢理実質的に活性化させ、短時間で凄まじい回復力を得る方法だ。

 言えば俺が大火傷の状態から回復した方法と似ていて、体内の全魔力を蒸発ギリギリまで煮えたぎらせ、枯渇する前に止めて魔力の自然回復を待つ。これの繰り返し。

 燃費は悪いが、瞬間的な回復を行えるので、新たな力の候補に入れておこう。


 そんなこんなで回復科の授業は進み、休憩時間を忘れて六時間が経った。


 そこで生徒の一人に進展があった。俺が後は自分で工夫しろと言ってからぶっ通しで六時間座禅を組み、生徒達が集まる後ろの方で目を瞑っていた生徒だ。

 俺でさえも驚く程の異常な集中力。流石に俺はそろそろ休憩というより、授業を終わらせようとその生徒を静止させようと俺は近づく。

 だが俺は生徒に手を触れる前にピタリと動きを止めた。


「ん? カオス君。どうしたんだ?」

「ふっ……どうやら素質がある様だな。面白い」


 その生徒は未だに座禅を組んで静かに集中しているが、俺は魔力の流れが生徒の中で眠るように安定している事に気がつく。

 確かな事を言うと、この生徒は体内魔力の活性化と自然魔力の吸収を両立化させていた。

 体内魔力の活性化とは、魔法の威力や効果の上昇に意味が有り、活性化を強めると俺がやった沸騰が起きる。

 つまり、ずっと活性化させていれば、多少の魔力を常に使い続けている事になるが、彼の場合は魔力の消費を、自然魔力の吸収でゼロにしている。簡単に言えば鍋がグツグツと沸騰する前のコトコトと煮ている状態と言えば分かりやすいか。

 たった一日で此処までやり遂げるとは、感心した。


 それはさて置き、例えいくら長時間集中出来る方法が分かっても長時間の魔力活性化は普通に体力の消耗に繋がる。

 俺は再度生徒に手を伸ばし、頭に手を優しく置き、突然の魔力回路の流れを暴走させないように、ゆっくりと流れを遅くさせ、最後に停止。正常の流れに戻す。

 すると目を瞑って集中していた生徒はゆっくり瞼を開き俺を見上げた。


「カオス先せ……カオスさん? 何故止めたのでしょうか? 後少しだったのに……」

「お前の魔力活性化法はほぼ完璧と言って良い。ただしどんなに良くても無理は禁物だ。

 今も授業を再開してからぶっ通しで六時間経過している。良い加減休め」

「分かりました」

「因みにお前の名は?」

「セグロスです……」


 俺はこの生徒の魔力活性化法をこの回復科の目標に立てる事にした。

 それをこの場にいる初級回復科全員に伝える。


「よし、お前ら。今日はここで終了だ。次にこの初級回復科にて、今セグロスがやった魔力活性化法を此処の目標とする。中級に昇格するまでにこの方法を確立させろ。

 と言っても今日一日で俺はまた生徒に戻るがな。次の新しい教師が来たら、これを伝えると良い。では、解散」


 そういうと、グロースも授業が終わった事を察したのか、背後の壁に教室に戻る用の魔力回廊を開き、授業終わりに帰る生徒を誘導していく。


「ほっほっほー。カオス君、君はやはり凄い。たった一日で回復科に有った不足要素を見つけ、それを次回授業以降の目標にしてしまうとは。やはり私の目に狂いは無かったようだ。どれ、この後も教師は続けてみては……」

「断る。最初にも言ったが俺は学ぶ為に来たのだ。今回目標立てた魔力活性化法も俺なら余裕で出来る方法だ。

 俺は此処で知りたいのだ。より素早くどうしたら絶大なる力を目覚めさせる事が出来るかを」

「ほっほー、確かにそうだな。すまん、君の目的を一瞬忘れとった。良いだろう。明日からはまた普通の生徒に戻りなさい。

 それと、今の口調や態度は仕方が無いとして、以降あまり教師を挑発せぬよう頼む。

 幾ら自分の考えている事と相反する事を言われようとも語調を強くして言い返すでない。もし、以降も今回の事が有れば、これからは、他と同じ生徒のように同じく罰する。

 これを肝に命じて置くように」

「つまり、何も口答えせずに従えという事か。わかった」

「それ! それだ! 口答えせずに従えだとか、思った事を一々説明するでない。あくまでも心の中にしまっておきなさい。そうすれば問題は今よりは減るだろう」

「分かった。肝に命じておく」


 そうして俺の一日教師は終わった。明日からは普通の生徒だ。グロースから念を押されたが、本当に何も起きなければ良いが……。

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