第15話 支援魔法

 翌日、俺は戦闘科実技訓練場にて目を覚ます。此処は鉄の床に鉄の壁と天井で長方形の形をしており、視界は灰色で埋め尽くされている。とても寝心地が良いとは言え無い。

 俺も神という立場は最早過去の話であり、人間の体となってしまった今は、寝床も気を付け無くてはいけないのだろう。

 今日の授業が終わったらグロースに相談してみようか。


 昨日は回復科の教師を体験したが、今日は普通の生徒だ。そして今日見に行く科目は支援科だ。

 俺は今になって戦闘科と回復科を回ったが、何故次々と回っているのかと言えば、基礎知識を得たいからだ。


 神界における最高位の神なら魔法の基礎知識など普通なら要らないが、神は神であれど、専門という物は存在する。

 確かに全ての魔法の基礎知識は熟知しているが、稀に思わぬ知識を得る事がある。それは、単に神の知識とこの世界の知識の相違だ。神の時には一切使わなかった方法を人間から得る。

 これは、俺が神界から人間界を見守っていた時も何度かあった。魔法は万能だが、万能にありとあらゆる場面で適切な行動を取れる者は居ない。そういう事だ。


 俺は、訓練場で身体を起こすと、次はしっかり時間割表見て、途中乱入をしない様に、授業が始まる前の教室へ移動する。

 

 支援科の教室。入ると、既に四十人程の生徒が静かに座っており、俺は一番後ろの、席では無い所に代わりの椅子を持ってきて、自分の席を作る。

 時間割表を見れば此処の支援科の授業が始まるのはまだ五分程時間が有る。なので、授業が始まるまでは全ての生徒は揃っているが、小さな声で多くの生徒が話し合っている。


 俺は授業が始まるまで、黙って待とうと足を組むが、俺の目の前に居る、教卓から見て一番後ろの席に座る生徒かこちらを振り向き、声を掛けて来た。

 この生徒は、金髪で透き通った若葉色の瞳を持ち、顔の整い方も他の生徒とは全く違っていた。

 通りで、この生徒が俺の方を体ごと向いて話しかけると、周囲の女生徒の視線が確かにこの生徒に集まっているのが目に見えて分かった。


「ねぇ、君。此処、初級科の中では見ない顔だけど、もしかして新入生?」

「あぁ、そうだ。それがどうした」

「なんて名前? 僕はカロウ・レウス。此処、ユーラティアでは結構名を知られている貴族なんだけど……知ってるかな?」

「俺はカオスだ。此処には三日前に来ただけでお前の名など知らん」

「そっかぁ、まぁ、よろしくね」


 短いお互いの自己紹介を終えた所で、レウスはにこりと笑みを浮かばせながら、視線を教卓に戻した。それと同時に支援科の教師が、開始時間ピッタリに教室に入ってきた。


「はい、それじゃあ支援科の授業、始めようか」


 教師の顔を見て俺は怪訝な表情をする。コイツもまた、先程レウスと同じく、所謂イケンだった。レウスに集中していた女生徒の視線もすぐに教師に移り、教師の授業開始の合図に何処か女生徒の声に活気が溢れていた。

 教師の見た目は茶髪に、深く吸い込まれる様な濃い青藍色の瞳で、若い好青年の様な顔立ちをしていた。


 そんな俺の視線に気が付いたのか、教師の視線は俺の視線と重なる。


「おや? 君は……?」

「カオスだ。今日は支援科の授業を見に来た」

「あーカオス君ね。グロース理事長から話は聞いてるよ。大丈夫は気は楽にしていいから」

「あぁ」

「私はカルム・ヴィヴィッド。これからよろしくね」


 そう言うとカルムは、俺から視線を外し、授業を始める。


「今日の授業は、みんなの今までの実力を見るために、戦闘科と共同授業をやります。戦闘科は訓練場で模擬戦をやるから、ニ対ニで、戦闘科生徒に一人支援科が付いた状態でタッグマッチをしてもらう。

 勿論相手も支援科が付くから戦闘科の力を遥かに上回って攻撃をしてくる。怪我を最小限に抑えたいなら、自身の防御力と、パートナーの回避力を上げて護衛型を形成しても良い。

 また、素早く戦闘を終わらせたいなら、パートナーの攻撃力と回避力を高めて、機動力で、対戦相手を完封しても良い。

 支援科は本来どう有るべきかそれを今まで授業で学んだ事を生かし、実力を見せなさい。

 と言いたい所なんだけど、丁度最近新入したカオス君がいるから少しだけ復習しておこうか。カオス君、君は、今までに戦闘科と回復科を回った様だけど、支援科知識はあるかな?」

「あぁ、ある」

「なら、支援魔法の原理について少し説明できるかな」


 俺はこの質問に対する答えも神だった時の知識を混ぜて答える。


「支援魔法とは、主に回復とは違い、味方や自分の筋力や魔法回路の最適化、機動力を上げる。敵対する者に、身体能力の低下や耐久力の低下で弱体化させる魔法が中心となっている。

 ただ例外として極小威力だが、緊急回避としての攻撃魔法も存在し、支援魔法の応用で相手の攻撃を反射する魔法がある。

 そしてそれらの魔法発動の原理は、魔力の活性化や純度上昇とは関係無く、味方や自分の体の部位に魔力を分け与える事で発動する。

 ただし支援効果の増幅は、分け与える魔力量に比例はせず、分け与える対象によって身体能力向上の限界が有り、それを超えるには、そもそもの魔核コアの強度を高める必要がある。

 これでいいか?」


 そう長々と説明すると、一瞬カムルは硬直する。


「いやはや、原理だけ答えてって言ったのに支援魔法の基本知識から、応用、さらに進化まで答えてしまうとは……。

 これは私か質問したのは野暮だったかな?」

「問題無い。あくまでもこれは俺の知識に過ぎない。どうせ空白はあるんだろう?」

「……いや、無い。今の説明は初級支援科で生徒達に教える全ての授業内容だ」

「……。あぁ、そうなのか」


 俺は説明の空白を埋めてもらう為に、カムルは俺が基本知識を知っているかどうか知る為に、お互いの考えが相違し、一瞬だけ沈黙が教室内の空気を包むと、カムルは何事を無かったかの様に、今回の授業内容を説明する。


「はい。じゃあ早速、戦闘科の訓練場に行こうか。多分戦闘科の皆んなも待っていると思うから、急いでくる様に」


 そうカムルは生徒に言い残すと、一人魔力回廊を開き、訓練場に赴いた。


 支援科生徒と一緒に訓練場にぞろぞろと入って行くと、戦闘科は既に模擬戦を始めていた。

 戦闘科は一対一で、木剣を持ち、カンカンと気持ちの良い音を訓練場に響かせながら戦闘をしていた。

 その模擬戦途中に支援科が入って来た事に気がつくと戦闘科の教師はその模擬戦を中断、支援科に向かい合わせになる様に戦闘科の生徒を整列させた。


「カムル先生が遅刻なんて珍しいですね」

「いえ、ちょっと一人新入生が居た物で、少し復習だけしていました。申し訳有りません」


 そう教師同士で話し合うと、次に戦闘科の教師によるタッグマッチのルール説明がされる。


「さて、今回は戦闘科と支援科の共同授業として、タッグマッチをやる事になっているが、どう言うものかは支援科でも説明があっただろう? 

 という訳で次はルールだ。勿論模擬戦だから両者共に本気で戦って貰うが、防御と攻撃を両立させる戦闘科が支援科を攻撃する場合、万が一防御力支援を行わないまま、攻撃力支援を受けた攻撃をすると、大怪我をする恐れがある為、若干のハンデを付ける事になった。

 あくまでもこの模擬戦は戦闘科が中心となっている為、パートナーとして付く支援科は一発殴られたらそこで即終了。殴られた方は即敗北となる。

 それを踏まえて、戦闘科同士の戦いは、どちらかがギブアップするか、戦闘続行不可とこちらが判定したら勝負は決まりだ。

 それで二ポイント先取り制で試合をする。

 全員理解したか?」


 そう戦闘科の教師は生徒全員に言い放つと、生徒達は各々頷いて見せる。


「あー、それとタッグマッチにおける戦闘科と支援科のパートナー決めは、こちらがくじ引きでランダムに決めさせて貰う。異論は無いな?

 それでは、くじ引きを始める」

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