第10話 基礎魔法

 俺は今、学院の戦闘科実技授業から追い出され、大魔導師グロースの前にいる。


「ほっほっほ。カオス君。派手にやらかしたのぉ……。力は封印され、成長速度も可も無く不可も無くと思っていたが、魔力の扱いがずば抜けていた。

 さて、カオス君は教師に授業を追い出され、特級に飛び級と言われたそうだな?」

「あぁ、その特級とやらは何なんだ?」

「うむ。これは、学院内で科目別に実力の差を付ける為に作られた階級制度で、カオス君は初級、それから中級、上級、特級と有る。

 その全生徒の階級の最終決定権は私にあるのだが……カオス君の昇格は撤回する。

 何故かと言えば、あの教師は、カオス君の力を見て腰を抜かしてしまったようだが……、特級となると、カオス君が訓練場で撃った魔法があるだろう? 簡単に言えばあれほど威力を特級生は、瞬時に発動出来、更にあの力を余裕で上回る事も出来ると言う事だ……」

「なるほど、分かった」


 グロースの話が終わったと思うと、何かを思い出したかのようにグロースは、人差し指を立てて、俺を呼び止める。


「あぁ、あともう一つ。ずっと此処からカオス君の行動を見ていたのだが、その態度についてだが……治す気は無いのだろう?」

「あぁ、どうもな。別に上下関係を嫌っている訳では無いんだ。ただ……そうだな、ずっと一番上にの立場にいたから、謙るという態度がどうしても気に食わないんだ」

「分かった。カオス君の態度に付いては私が全教師に伝えておこう。誰にも事情という物があるからのぉ……。さぁ、教室に戻りなさい」

「それは大いに助かる。出来る限り目立ちたく無いと思っていたからな。では、さらばだ」


 俺はグロースに背中を向け、魔回廊から戦闘科の教室に戻る。


……。


 教室に戻ると、堂々と戻ってきた俺を教師が気がつくと驚いた表情をする。


「お、おい、君。此処は初級戦闘科の教室だ。部屋を間違えている……ぞ?」

「飛び級は撤回された。俺はまだ特級と呼べる実力を持っていないと」

「あれで? ほぉ……? まぁ、理事長がそう決めたのなら仕方が無い。席に戻りなさい」

「あぁ」


 俺が静かに席に座ると、少し周りの生徒が騒めくが、何事も無かった様に授業が再開される。


「えぇーっと、さっき実技授業をやったが、んーやはりみんなまだまだだな。元から基礎魔法を放てる力を持つ者も居たが、どれも魔力を外へ吐き出すのに乱れがあった。

 あー、授業の最初にカオスか見せた光線。あの真っ直ぐさが理想と言えるだろう。

 魔力を外へ吐き出す際にどうすれば狙った場所へ正確に発動出来るのかと言うと、発動から終了までに同量の魔力を吐き出さなければならない。

 魔法発動中に威力を高める方法もあるが、それは上級生程にならなければとても難しい方法だ。

 だから最初は常に同量の魔力の解放を安定化させる事に集中しなさい。なにか質問はあるかな?」


 今教師が教えたのは魔法を発動する際の保有魔力の節約方法だ。常に同量の魔力を出す事に集中するのも良いが、時に魔力切れが近い時にその方法ではあっという間に力が尽きてしまう。

 魔力の放出量を安定させながら、例え小魔力でも同威力の魔法を発動する。これが実戦における基本だろう。

 ただし、これはあくまでも魔力純度を高める方法が前提となるが……。


「はぁ……。質問は無いねえ? なら、カオス。お前なら分かるだろ? 魔力放出量を常に安定化させる方法を」


 これは答えるべきなのだろうか? 出来る限り目立たずに自然に溶け込む。安易に俺の知識を教えた所でまた違うと言われると面倒な事になりかねん。


「それを教えるのが教師の役目だろう。わざわざ俺に説明をさせるな」

「……。あー、まぁ、お前の言う通りだな。ったく面倒くせぇ。魔力放出量の安定化は、吐き出す際にただがむしゃらに力を込めるのでは無く、発動方法と同じ様に同じ魔力量を手や腹に継続的に移す事だ。それを完璧に行えばカオスと同じ様な真っ直ぐに光線を放つ事ができるようになる。お前ら、分かったかぁ?」


 そういうと、生徒達は黙って頷き、各々のノートに重要な事を書き出す。

 して隣のレウィスは、ノートに適当に単語で書き出すが、俺の事を目線でチラチラ見ながら笑うのを堪えていた。


 そうして授業が終わる。俺が入学したタイミングもあってか、これが最後の授業だったようだ。


「さっき行った実技訓練場は今後誰でも使って良い。じゃあ、解散」


 解散の合図が出されると、全生徒は席を立ち、各々自由行動、帰宅する準備を始める。

 隣のレウィスはぐっと背伸びをすると、俺に向き直る。


「いやぁ、カオスはマジで何もんだよ。もう教師に対する態度は慣れたわ。実力は俺らと同じだってのに、それを逆に超える知識量と魔力の扱い……。

 さてお前を褒めるのはこれまでとして、お前、ノル村とか言ってたけど家はどうするんだ?」

「あぁ、この学院に住み込むつもりだ。これに関しては既に理事長と話は付けてある。学生寮の様な物は無いが、空いてる部屋があれば使って良いと」

「へぇ〜。で、何処にするつもりなんだ?」

「実技訓練場。あの辺りが良いと思っている……」


 そういうと、何故かレウィスの顔が引きつる。


「え"……お前四六時中、訓練でもするつもりか?」

「あぁ、出来る限り早く目標に辿り着きたいからな」

「ふぁー……あぁ……まぁ、良いや。暇な時に邪魔するわ」

「あぁ、出来たら訓練相手になってくれたら嬉しいな」

「いいや! 止めとく。まだ自分の命は惜しいからな!」

「そうか」


 出来る限り早く力を取り戻したい理由は、ただ一つだ。

 俺は神界において最高位の神なのだ。何が言いたいのかと言うと、現在神界では、その最高位である創造神カオスは不在だと言う事だ。

 しかも別次元世界にいるせいで行方不明にもなっているだろう。もし、次元回廊を通ってこの世界に別の神が降り立つ事が出来れば話は別だが、居場所が分からない以上、次元回廊は万能では無い。

 あくまでも何処にいるかが重要で、それが無ければ当てずっぽうに次元回廊を開いても無数にある世界から俺のいる一つの世界を特定など不可能に近い。


 また最高位が不在の神界が何が問題なのかといえば、世界の管理が一切出来ず、他の神も何とか別行動で均衡を保とうとすると思うが、唯一破壊と創造の権限を持つ創造神がいなければ、世界の均衡が保たれるどころか、世界は完全自然体となり、時間経過と共に滅びへ一直線に進む事になる。


 自然的に人類の死滅。特に俺がそれで責任を問われる事は無いが、せっかく作った俺の『完成作』が滅ぶのは、普通に辛い。


「では、また明日会おう」

「おう、じゃあな!」


 俺はレウィスと別れると、日を過ごす為に、実技訓練場行きの魔回廊を通った。

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