第11話 特訓

「九十七、九十八、九十九、百……」


 俺は今、学院の全ての授業が終わり、全員が帰ろうとしている中、実技訓練場を借りて体作りをしている。

 ただあくまでもこれは人間を模倣した動きに過ぎず、これで合っているのかは分からない。ただこれを毎日やれば、きっと筋力は確実に付くのだろう。

 人間がそれぞれ筋トレと呼んでいる動きをそれぞれ百回ずつこなし、次は魔法の訓練をする。


 今までやった訓練方法は、大気や大地から自然魔力を体内に吸収し魔力純度を高める方法。と、体内の残り魔力の放出量を安定・効率化させる方法。

 神の力を使っていた時は、それはほぼ無意識で使っていた為、いざ一から習得しようとすると、どうすれば良いのか全く分からない。

 こういう時はそろそろあの人を呼ぼうか……。


 まだ魔法の訓練を始めてからノル村での訓練を合わせても一ヶ月しか経っていない。

 が、学院に入った事で少なからず大気中の魔力の流れをより細かく感じ取れるようになった。

 そのおかげか、最近ある物の気配を感じ取れるようになった。それは……。


「グロース。今も見ているんだろう? 出てこい」


 そういうと何も無かった場所から突然魔回廊が現れ、その中から、大魔導師のグロースが現れる。

 これは魔法の類ではない、魔回廊を使った応用だ。魔回廊は本来指定した特定の場所に瞬間移動させる転移魔法だが、転移場所ではなく、逆に大まかな場所を設定する事で、魔回廊が通常通りに機能せず、グロースが行った様にその場所の状況を監視する事が可能なのだ。

 因みに次元回廊も同じ事が出来る。俺が世界の外から人間の行動を見守っていた時も同じ事をしていた。


「ほっほっほ、ずっと見ていれば流石にバレるか……。して、わざわざ私を呼んで何の用だ?」

「俺と特訓しろ。どうすれば本来の力に近づけるのか、今の俺では幾ら知識を絞っても答えが見つからない。

 お前は大魔導師という肩書を持っているだけはあるんだろう?」

「ほー? 私と訓練する事で答えが見出せるとでも? 先ず、私ではなく、此処の教師とやりあうのはどうだろうか? それでも駄目かのぉ……」


 俺は口角を上げ、挑発する。調子にでも乗りさえすれば嫌でも相手にしてくれるだろうと思って。

 もちろん大魔導師と実技訓練して勝算なんて無い。

 今の目的は、とにかく戦う事で力を身に付ける方法を見つけ出す事。

 相手の動きを良く観察し、どうやってその魔法を出しているのか探らねば。


「逃げるのか? 大魔導師たる者が、例え今は封印されているとしても、絶大な力を前に怖気付いたか?」

「ほっほっほ。その様に私がジジィだからと言って挑発する生徒は何度も見てきた。

 しかし……カオス君の目には、真剣な物が伺える……」

「当たり前だ。これは遊びじゃない。訓練だからな」

「ほっほー、では、他の者が来る前にさっさと終わらせようかのぉ……。

 理事長という立ち位置が個人的に生徒と実技訓練なんぞ、見られたらなんと言われるか分からん」


 さっさと終わらせる。その言葉を聞いた瞬間俺は、警戒心を強める。一体どれだけの技が来るのか。


 グロースは、何も持っていない片手から等身大の杖を召喚すると、杖の先端で床を一度だけコンッと突く。


「ほっほっほー。魔法とは極めるとこんな事もできるぞぉ?」


 その直後だった。グロースの足元から灼熱の火炎を纏った龍がグロースを渦巻く様に現れ、杖を俺に向けて振り下ろすと、龍が俺に突進してきた。


「グオオオォ!!」


 召喚魔法とはまた別か? 一見火炎の龍に見えるが、よく見ればそれは単なる火柱を自在に操っているだけの様だ。

 俺は、ギリギリまで目の前に引き付けると、当たる直前で身を躱し、直撃を避けるが火柱の高熱は容易に俺の制服を燃やす。


 火柱を龍の様に見せて相手を威圧する算段だと俺は考えた。そう考えると、威圧する事が目的なだけに、使っている魔力はそこまででは無い。

 授業で俺が放った光線を応用すれば、相殺出来る。


 火柱を避けると、それを狙っていたかの様に火柱はぐるりと俺を回り込み、退路を無くすと、頭上から飲み込む様に襲ってきた。

 そこで魔法発動。俺は頭上真上に腕を伸ばし、火柱に腕が飲み込まれた直後に足元の大地から真上に向かって魔力を吸い上げ、勢いをそのままに魔力を真上に向けた腕から放出する。

 火柱は狙い通り相殺出来た。が、片腕は酷い火傷を負う。


「はぁーっ……生徒に対して容赦が無いな?」

「ほっほっほ。回復なら幾らでもしてやる。カオス君が何を思って私に実技訓練を頼んでいるのか分からんが、そこまで真剣な目をされては、こちらも手を抜いては居られんだろう?」

「あぁ、全くその通りだ。手加減は要らない。全力で来い」

「トラウマになっても精神を回復させる魔法は無いぞ?」

「この俺に対してトラウマだと? 笑わせるな」


 すると次にグロースは魔法の説明をしながら俺の目の前で杖で空中に小さな円を描く。


「魔法とは全てが大魔法であれば強いという訳では無い。例え初級が最初に覚える魔法も、極めれば特級生を凌駕する事も出来る」


 円を描き、グロースはその円に杖を差し込む動きを見せると軽くトンッと杖を跳ねさせる。

 すると、その杖の先端から目にも追えぬ超高速の雷の弾丸が発射される。

 あまりの速さに俺は反応が遅れ、雷が頬を掠め、皮膚を焼く。


「次は当てるぞ? そぉい!」


 パァンと銃を撃ったかの様な破裂音が訓練場に響くと、同時に雷の弾丸が、俺の眉間目掛けて放たれる。

 俺は破裂音が鳴り始めた音を聞き逃さずに、同時に頭を横に傾けさせると、電流が流れる音が、頭の横を通り過ぎる一瞬だけ耳に残る。


「ほっほっほ。どんどん行くぞー」


 次に先程より大きな円をグロースは描くと、同じく穴に杖を通し、次は大きく杖を跳ねらせる。

 すると大きな円の側に沿って、円柱型の雷の光線が、弾丸と同じ速さで放たれる。


 駄目だ! 避けきれないッ!


 これは俺の完全なる見当違いだった。強い奴と戦えば更にこの世界の魔法の原理を知り、本来の力に早く辿り着ける。

 それは浅はかな考えだった。人間の身体になってしまった俺は、この大魔導師と体力も才能も差があり過ぎる。


 俺はグロースの放つ魔法を真面にくらい、強力な雷によって全身を焼き焦がす。


「がぁっ……!?」


 意識が朦朧とする中、薄く瞼を開けると、自分の四肢が真っ黒に焦げているのが見えた。


「ほっほっほ、回復は要るかのぉ?」


この発言は俺を試しているのだろうか? 身動きが取れない程に全身を焼いた状態で自己回復が出来るかという。

 だがその前に俺は、一つだけ聞きたい。


「お前らの魔法で……この状態から……回復する方法は、あるのか……?」

「あぁ、勿論あるぞ。ただ特級レベルとは言われとるがのぉ……」


 俺は考える。どうすればこの状態から、自然魔力の力を借りずに回復するのかを。

 基本回復魔法は、相手に対してはただ欠損部分に魔力を注ぎ、部分的に魔力の活性化をさせる事で自己治癒力を高め、傷を治す。

 という方法だが、自己回復は自ら部分的に魔力を活性化させなければならない。

 怪我をしながらも集中力を高め、自己回復を実行。実を言えば、他人から回復される方が遥かに効率が良い。


 して、今の現状。集中力もままならない今の状態では自己活性化なんざ余りにも時間がかかる。

 本来の俺のやり方であれば、自然魔力に体を任せる事で自己治癒力を徐々に高め、意識が戻ってきた所で一気に活性化させ傷を即回復させるという方法だ。


「何をじっとしておる? 回復させてやろうか?」

「不要だ……。理解した。こうすれば良いんだろ……」


 俺の考えた方法は一か八かで、体内に残る魔力を全身で活性化させる方法だ。

 俺はイメージする。体内魔力がお湯が沸騰するかの様にグツグツと煮えたぎり、全身の隅々に魔力を行き渡らせ、蒸発する勢いで活性化させる感覚を。


 すると、俺の全身にある焼け焦げた跡は、みるみるうちに修復を始める。

 魔力を同じ部位に使い過ぎないように、全身魔力活性化による自己治癒力の上昇も利用し、最も火傷が酷い部分だけを重点的に修復していく。


「な、なんと……。やり方は違うが……授業でも教師が言っていた通り、魔力を自在に操れるのか……?」

「ゔっ……くっ……!」


 酷く焼け爛れた皮膚は、赤く跡が残る程度まで修復し、完全回復とまではいかないが、立ち上がる程度までに回復した。

 しかし、この時点で俺の体内魔力は完全枯渇。一度は立ち上がるも、そのまま意識を途絶えさせ、一気に床に倒れ伏した。

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